あの日、私は姉に殺された

和スレ 亜依

文字の大きさ
4 / 35

第四話

しおりを挟む
 河合あんずは「咲良」と呼んだ。咲良は聞き間違いだったのではないかと思い、聞き返す。
「ごめん、今なんて言ったの?」
「『頑張ったね、咲良』って言ったんだよ」
(聞き間違いじゃ、ない?)
 そこで、様子を見守っていた遙香が割って入った。
「確かに姉妹だから似てるけど、この子はすみれだよ。いくらクラスメイトでも、すみれを傷つけるようなこと言うと、怒るよ?」
 彼女はいつになく真剣な表情だった。しかし、あんずは動じない。むしろ、おどけた顔で向き合った。
「ねぇ、遙香。中学の頃から友達だったのに、気づかなかったの? それこそ傷ついちゃうな、私」
「ごめん、言ってることがよく分かんない。河合さんとは高校から知り合ったはずだけど」
 遙香は不審な顔をした。
「それはこの体のことでしょ?」
「全然、分からない」
 険悪な雰囲気になる遙香とあんず。咲良は本当はあんずに聞きたいことが山ほどあったが、聞き出せる状況ではない。
 一分ほどたっただろうか、突然すみれが笑い出した。
「あはははははは!」
 遙香はますます怪訝な表情をする。
「何で、笑ってるの?」
 あんずは腹を抱えながら答える。
「だって……おかしいじゃない! あははっ」
 あんずは涙の浮かんだ目尻をこすった。
「入れ物が違うだけで、全く別のものだって考えちゃうんだもの! 人間ってやっぱおかしいよ!」
(……この感じ)
 咲良にはこの何を考えているのか分からないような言い方に既視感を覚えた。
 ―どこかで……いや。
 身近に、思い当たる人物がいた。
(でも、ちょっと性格が違うし、そんなはずは……)
 悩んでいるうちに、疑問が声に出ていた。
「お姉、ちゃん?」
 自分でも突拍子のないことだと分かっていた。遙香だってポカンとしている。しかし、考えてみれば自分がこの半年以上の間置かれている状況が、すでにとんでもなくおかしい。
 でも、あんずの驚いた顔で急に恥ずかしくなった。やっぱり、自分の勘違いだったようだ。
「ごめん、私変なこと言―」
「正解」
「え?」
「正解だよ、咲良」
 あんずから予想に反した答えが返ってきて、咲良は逆に事実が飲み込めなかった。
「よく、分かったね」
 咲良は呆然とした。
「人間には分かるはずないと思ったんだけど、やっぱり混ざったせいなのかな」
 一人で考え込むあんずに、置いてけぼりの遙香がストップをかけた。
「ちょっと待って、どういうこと? さっきら言ってることが一つも分からないんだけど! すみれにはお姉さんなんていないはずだよ!」
 あんずはあまり興味がなさそうに遙香を見た。
「純麗に姉なんていないよ」
「じゃあ!」
「私が純麗なんだもん」
 遙香は頭を抱える。
「じゃあ、ここにいるのは誰なの……」
「だから、さっき言ったじゃん。咲良だって」
「もう……訳が分からないよ…………」
 バタン。
「遙香!」
 遙香が地面に倒れた音だった。咲良は急いで彼女を支える。
「ありゃりゃ……」
「どうしよう……救急車呼ばなきゃっ」
 あんずは焦る咲良を押しとどめた。
「大丈夫、貧血みたいだからすぐそこの公園のベンチで寝かしとけばいいよ。私も手伝うからさ」
 咲良とあんずは遙香を抱えて公園のベンチに寝かせた。
「起きたら家まで送ってやってよ。一応、私の友達だったから」
 どこか他人行儀に言うあんず。
「うん、分かったけど」
「じゃあ、私はそろそろ行くね」
「え」
「いろいろ答えてあげたいけど私が本体だってばれたらまずいんだよね。その前にここを去らなきゃ。あ、学校でもあんまり話しかけないでね。じゃ、そういうことで」
「あっ、待って!」
 一瞬、追いかけようとした咲良だが、遙香を放っておくことはできない。そのまま走っていくあんずを見送った。
(本当は倒れたいのは私だよ……)
 咲良自身も混乱していた。頭の容量をとっくに超えていたから、いろいろなものを頭の外に追いやっていただけなのだ。

 目が覚めた遙香とは、ほとんど言葉を交わさなかった。ただ、彼女は一言だけこう言った。
「ごめん、今は何も考えたくない」
(そういえば、遙香にとってお姉ちゃんは友達なんだよね)
 咲良は今さらながらに気づいたが、姉と遙香は親友だ。それがこういう状況にもなれば、心中穏やかじゃないだろう。親友だと思っていたものが、実は違う人物だったのかもしれないのだから。
 遙香を家に送ったあと、咲良は自室で今までの出来事を思い返していた。
 ――何度も襲われて、河合さんに助けられて、河合さんは実はお姉ちゃんで……。お姉ちゃんは私の体が死んだときに入れ替わって、一緒にいなくなったんじゃなかったの? それから、学校で襲われたときに助けてくれた遙香は?
 分からないことだらけだった。
(河合さんも次に会ったら、何も覚えていないのかな?)
 考え事をしていると、疲れからか、まぶたが重くなってきた。
(また、何も分からないままなのかな……お姉……ちゃ……)
 咲良の意識は夢の中に溶けていった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...