あの日、私は姉に殺された

和スレ 亜依

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第五話

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「おはよーすみれ」
 年明け最初の登校日。初詣以来連絡をとっていなかった遙香は、予想よりかなり元気に声をかけてきた。
 咲良は人気のない所へ遙香を連れていく。
「おはよう、大丈夫なの?」
 いろいろな意味を含めてそう聞くと、彼女は明るい笑顔で答えた。
「まだ全然分からないけど、少しずつ理解していこうと思って」
 ―そうだった。遙香は立ち直りが早いんだった。
 安心した咲良は少し寂しげに言った。
「じゃあ、二人の時は秋山さんって呼ぶね」
「む。それは何か嫌だな」
 遙香は額にシワを寄せた。
「何で?」
「だって、すみれたちの言うことが本当でも、この半年以上一緒に過ごしたのは間違いないでしょ?」
「そうだけど」
「だったら、遙香って呼んでよ。今まで通り」
 咲良は少し悩んでから答えた。
「分かった」
「あ、でもすみれのことは咲良ちゃんって呼んだ方がいいよね、二人の時は」
 咲良は笑う。
「呼び捨てでいいよ」
「ん、分かった」
「じゃあ、改めてよろしくね、咲良」
「うん。よろしく」
「でも、本当に咲良なんだねー」
「そうだけど?」
「『そうだけど?』って。簡単に言ってるけど、世間では死んだことになってるんだよ?」
「確かにそうだね」
「また、どうしてそんなことになっちゃったの?」
「分かんない」
「分かんないって……」
「知ってることだけは話すけど……」
 咲良は自分が死んだときのことから、事情を話すことにした。

「マジですか……」
 遙香は顔を引きつらせていた。
「何からツッコんでいいのか分からない……けど」
「けど?」
「歩道橋から突き落とすとか、すみれサイテーだな」
「うん、まあそうだけど。親友信じなくていいの?」
「すみれならやりそう」
「えー……」
 身もふたもない言い方をする遙香に、若干戸惑う咲良。
「すみれってさ、何考えてるか分からないことあったんだよね。人間っぽくない、みたいな。まぁ、それが魅力でもあったんだけどね」
「あー、分かる。モテてたもんね、お姉ちゃん」
「そうそう、ことごとくふってたけどね」
「あはは……」
「だから、不謹慎かもしれないけど、実はちょっと嬉しくもあったんだよ」
「え?」
「咲良が死んでから、人間っぽい部分が出てきたから」
「ああ、私お姉ちゃんみたいにしっかりしてないから……」
 自嘲気味に言う咲良。
「それが咲良のいい所でしょ?」
「そうかな……」
 咲良は苦笑いをした。
 そして、遙香は少し黙ったあと、こう言った。
「しっかし、咲良がそんな大変な思いしてたとき、私は何やってたんだか」
「何って、たくさん話しかけてくれてたじゃん。結構助かったんだよ。しつこかったけど」
「しつこかったんかい」
 ツッコミを入れてから、遙香は真面目な顔になる。
「でも、最近のは、助けてあげられなかった」
「学校のとき、助けてくれたでしょ?」
「それは、記憶にないもん」
「そうだけど」
「だから、決めた」
「何を?」
「今まで以上に咲良と一緒にいる」
「それはちょっとしつこ……ありがとう、遙香」
「もしかしなくても咲良って腹黒だよね……」
「ん?」
 小首を傾げる咲良。
「無意識か!」
 遙香がまたツッコミを入れた。
「……そろそろ戻ろっか」
「そうだね、あ」
「どうしたの?」
「お姉ちゃんがあんまり学校では話しかけないでって」
「そっちにもいろいろ聞きたいことあったんだよね……まぁ分かった」

 年始めの全校集会。
「おはようございます。本来なら、またこうやって皆さんに会えたことを喜ぶべきでしょうが、悲しいお知らせがあります。二年生の○○さんが、三日前に亡くなりました。突然死ということですが、非常に残念でなりません――」
 校長の冒頭挨拶。
 亡くなったのは咲良たちと同じクラスの男子生徒だった。特段、咲良と親しい訳ではなかったが、新年から暗いスタートとなった。
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