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外伝「妹と脱糞」1-②
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最近、妹の様子が変だ。
小さい方の妹である梨香は、真面目で和人のことを慕ってくれている。
だが、その梨香が鉢合わせしそうになる度に和人を避ける。家にいるときはほとんど部屋にこもりきりだ。
それでも理由はだいたい分かっている。それは、和人が梨香の、おそらく下痢の音を聞いてしまったからだ。しかし、それが分かっていても問題は解決しない。
(どう声をかけたものか……)
和人はトイレにこもり、脱糞しながら悩む。
ストゥールと呼ばれ、影で目から大量の液体をこぼしながら耐えしのいでいる和人だからこそ、この問題の複雑さは理解している。
(……よし、自然に。自然に声をかけよう)
そう、自然に脱糞し、自然にケツを拭き、自然にクソを流すように。
彼は決意した。
個室の扉を開け、外に出ようとする。
ガチャ。
「…………あ」
扉の反対側。そこには同じようにノブに手をかける梨香の姿があった。
「梨―」
彼女は今にも泣きそうな顔で走り去っていった。
「最悪だ……」
「最悪だ……」
梨香はまさかよりによってトイレで兄と鉢合わせるとは思っていなかった。
「……ひぐ……えぐ…………」
嗚咽が彼女の喉からもれる。
「もう、嫌だよぅ……」
小学生にしては大人びた彼女が年相応の口調で泣き言を言う。
コンコン。
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
(…………!)
「梨香、いるか?」
和人だ。しかし、くしゃくしゃになった顔で外に出られる訳もない。
「梨香、話がしたい」
(…………)
泣いている今では声すら出すこともできない。
(………………)
梨香は顔を伏せ、どん底に落ちていく自分の気持ちを感じた。しかし、和人が立ち去る気配はない。一分ほど経った頃だろうか。梨香は思い出した。
(…………ぅ)
和人と思わぬ遭遇をしてしまったことで、自分がトイレに行こうとしていたことを忘れていた。
迫り来る便意。
(どうしよう……!)
扉の前には和人。扉を開ければ、また彼と遭遇してしまう。だが、便意は去ってくれない。どころかますます強まっていく。
(どうしようどうしようどうしよう……!)
扉を開けてトイレに向かって駆け込む姿を兄に見られてしまうのか。このまま漏らしてしまうのか。
究極の選択を強いられる梨香。
もう、迷っている暇はない。
(ここでしてしまったら……)
この場で漏らしてしまえば脱糞音を聞かれ、臭いをかがれてしまう恐れがある。
(出るしか、ない!)
梨香は涙目で覚悟を決め、勢いよくドアを開けた。
(目は合わせない!)
周辺視野で和人を捉えながら、その横を一気に走り抜けようとする。
だが。
「待ってくれ梨香!」
ガクン。
和人が梨香の腕を捕まえた。
「は、離してください!」
「頼むから話を聞いてくれ!」
「む、無理です!」
(早くしないと漏れちゃう!)
「俺は……!」
「お願いだから離して!」
やつは、肛門のすぐそばまで迫ってきている。
暴れる梨香。
それを押さえつける和人。
「に、兄さん!」
梨香はなおももがく。
そんな梨香を和人は抱きしめた。
そして言う。
「俺はうんこの音を聞いたくらいでお前を嫌いになったりなんかしない!」
梨香の動きがピタリと止まった。
「どんなことがあっても、梨香は俺の妹だ」
静かに、言い聞かせるように告げる和人。
「…………」
「俺は梨香のことを愛している。今までも、これからも」
「…………本当ですか?」
「ああ」
「何があっても?」
「ああ」
その返事を聞いて、梨香はほっとした。
「……ふぇ……」
ほっとしたら涙がこぼれた。
ブリッ。
ほっとしたらうんこもこぼれた。
「こんな私でも?」
兄は少し驚いていたようだが、微笑んだ。
「ああ」
ほっとしたら、笑顔がこぼれた。
「兄さん……」
「……大好き」
小さい方の妹である梨香は、真面目で和人のことを慕ってくれている。
だが、その梨香が鉢合わせしそうになる度に和人を避ける。家にいるときはほとんど部屋にこもりきりだ。
それでも理由はだいたい分かっている。それは、和人が梨香の、おそらく下痢の音を聞いてしまったからだ。しかし、それが分かっていても問題は解決しない。
(どう声をかけたものか……)
和人はトイレにこもり、脱糞しながら悩む。
ストゥールと呼ばれ、影で目から大量の液体をこぼしながら耐えしのいでいる和人だからこそ、この問題の複雑さは理解している。
(……よし、自然に。自然に声をかけよう)
そう、自然に脱糞し、自然にケツを拭き、自然にクソを流すように。
彼は決意した。
個室の扉を開け、外に出ようとする。
ガチャ。
「…………あ」
扉の反対側。そこには同じようにノブに手をかける梨香の姿があった。
「梨―」
彼女は今にも泣きそうな顔で走り去っていった。
「最悪だ……」
「最悪だ……」
梨香はまさかよりによってトイレで兄と鉢合わせるとは思っていなかった。
「……ひぐ……えぐ…………」
嗚咽が彼女の喉からもれる。
「もう、嫌だよぅ……」
小学生にしては大人びた彼女が年相応の口調で泣き言を言う。
コンコン。
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
(…………!)
「梨香、いるか?」
和人だ。しかし、くしゃくしゃになった顔で外に出られる訳もない。
「梨香、話がしたい」
(…………)
泣いている今では声すら出すこともできない。
(………………)
梨香は顔を伏せ、どん底に落ちていく自分の気持ちを感じた。しかし、和人が立ち去る気配はない。一分ほど経った頃だろうか。梨香は思い出した。
(…………ぅ)
和人と思わぬ遭遇をしてしまったことで、自分がトイレに行こうとしていたことを忘れていた。
迫り来る便意。
(どうしよう……!)
扉の前には和人。扉を開ければ、また彼と遭遇してしまう。だが、便意は去ってくれない。どころかますます強まっていく。
(どうしようどうしようどうしよう……!)
扉を開けてトイレに向かって駆け込む姿を兄に見られてしまうのか。このまま漏らしてしまうのか。
究極の選択を強いられる梨香。
もう、迷っている暇はない。
(ここでしてしまったら……)
この場で漏らしてしまえば脱糞音を聞かれ、臭いをかがれてしまう恐れがある。
(出るしか、ない!)
梨香は涙目で覚悟を決め、勢いよくドアを開けた。
(目は合わせない!)
周辺視野で和人を捉えながら、その横を一気に走り抜けようとする。
だが。
「待ってくれ梨香!」
ガクン。
和人が梨香の腕を捕まえた。
「は、離してください!」
「頼むから話を聞いてくれ!」
「む、無理です!」
(早くしないと漏れちゃう!)
「俺は……!」
「お願いだから離して!」
やつは、肛門のすぐそばまで迫ってきている。
暴れる梨香。
それを押さえつける和人。
「に、兄さん!」
梨香はなおももがく。
そんな梨香を和人は抱きしめた。
そして言う。
「俺はうんこの音を聞いたくらいでお前を嫌いになったりなんかしない!」
梨香の動きがピタリと止まった。
「どんなことがあっても、梨香は俺の妹だ」
静かに、言い聞かせるように告げる和人。
「…………」
「俺は梨香のことを愛している。今までも、これからも」
「…………本当ですか?」
「ああ」
「何があっても?」
「ああ」
その返事を聞いて、梨香はほっとした。
「……ふぇ……」
ほっとしたら涙がこぼれた。
ブリッ。
ほっとしたらうんこもこぼれた。
「こんな私でも?」
兄は少し驚いていたようだが、微笑んだ。
「ああ」
ほっとしたら、笑顔がこぼれた。
「兄さん……」
「……大好き」
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