ココに入ったらタダのケダモノ

まめ太郎

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 金曜日。
 ようやくミスのリカバリーも完了し、朝霧がスマホを見ると、23時を過ぎたところだった。
 フロアには朝霧以外誰も残っていない。
 朝霧はリュックを背負うと、エレベーターに向かった。

 あのメールを境に、夏川からは連絡が途絶えていた。
 朝霧も仕事を頑張れの一言すら返信していない。
 今日『やどり木』に行ったところで、夏川は現れないだろう。
 もう時間も時間だし、このまま帰宅するか。
 そう思いながらも、朝霧は自宅とは反対方向の電車に乗った。

 駅でいつも通り着替え、鏡に映ると、あらためて自分の顔色が酷いことに気付いた。
 夏川のことが気になって、睡眠どころか、食事すらこの一週間朝霧はまともにとっていなかった。
 朝霧は少し緩く感じるスーツを纏うと、重い足取りで『やどり木』に向かった。

 分かっていたのに、『やどり木』の扉を開けた瞬間、朝霧は肩を落とした。
 カウンターに夏川の姿は見えない。
 一瞬、このまま帰ろうかと考えた朝霧にマスターが声をかける。

「いらっしゃい。みっちゃん」
 朝霧は反射的にマスターに微笑むと、カウンターに座った。
 一応、自分のスマホを確認したが、夏川からは何の連絡もない。
 いつものギムレットを口にすると、何も食べていなかった朝霧の胃がしくしくと痛む。
 顔を顰めながらも、朝霧は酒を飲むのをやめられず、お代わりまでもらった。
 むしろこのまま酔いつぶれて、全てを忘れてしまいたいような気分だった。

「隣、良いですか? 」
 隣の席を見ると、既にそこには男が座っていた。
 男のがっちりした体つきは、以前ラクビーでもやっていたかに見える。
 座った感じで男は朝霧よりもわずかに背が高いと分かった。

「マスター、シャンディガフ」
 グラスが置かれ、男がそれを持ち上げる。
「乾杯してもいいですか? 」
 朝霧は薄く微笑むと、男のグラスに自分のグラスをあわせた。
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