哀しい愛

まめ太郎

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 小学校高学年の時、自分が男しか好きになれないと自覚した。
 それも好きになるのはみんな筋肉質、黒髪、漢くさい容姿と自分と正反対の男ばかりだった。
 最初は単純に男としての憧れなのかと思ったが、オリンピックの柔道の試合を見ているだけで、股間が固くなるのに気づいて、完全に自分はそうなのだと思った。
 小さな頃から母親代わりの次子さんには自らの性癖を話そうと何度も思ったが、実行はできなかった。

 もし万が一、親父にばれたら終わる。

 父親はテレビにオネエと言われるタイプが映っているだけで、「気持ちが悪い。吐き気がする」と言い、テレビを消してしまう。
 同性を好きになるなど病気だ。治療しても治らないなら、隔離しなければ、などと平気で口に出す。
 もし自分の一人息子がゲイだと分かったら、どんなことになるか。

 まず自分が取締役を務めている会社を俺には譲らないというだろう。父は地元の建設関係の会社の社長で、社員15名ほどを雇っていた。
 俺は社長になんかなれなくても別に困らない。
 もとから内気な性格の俺が父の部下である荒っぽい人間に囲まれて、社長なんてできるとも思えなかった。
 テストの点数が悪かったりすると親父は「お前が駄目なら従妹の和希に跡を継がせる」と、俺に言う。
 どうぞお好きなようにと返したいが、殴られるのが嫌で俺はいつもだんまりを決め込む。
 まあ、黙っていても殴られるときは殴られるのだが。

 俺がゲイだと知ったら、親父は家の恥だと俺を殺すかもしれない。

 酔った父親に殴られたのは一度や二度では効かない。
 一度仕草が女々しいとゴルフクラブで殴られた時は、次子さんが止めに入らなければ間違いなく俺は死んでいただろう。
 そんなことを考え、ぞっとした俺はテレビを消し、目を閉じた。

 大丈夫。
 大学を卒業したらすぐにこの家を出ればいいんだ。
 それまでの辛抱だ。

 ふいに息苦しさを覚え、俺は深い息を吐いた。
 もし俺が幼い頃に病気で亡くなったという母が生きていたら、何か変わることはあったのだろうか。
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