哀しい愛

まめ太郎

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  気がつくと俺は拳を握りしめ、振り上げていた。
 有希子の顔が強ばり、引きつるのが分かった。
 その瞬間、俺の手首がぎゅっと掴まれる。
「何してんだよ」
 本条だった。
「今日は帰ったら?」
 本条にそう言われ有希子はこくこくと頷くと、踵を返し走っていった。

「さすがに女子中学生に暴力はまずいっしょ」
 何も言い返せずただ「ふーっ、ふーっ」と息を荒げていると、本条がゆっくり背中を撫でてくれる。
 俺は目を閉じ、唾を飲みこんだ。

「もう大丈夫」
 本条は眉を寄せると、俺と体を離した。
「一体何があったんだよ?」
「ごめん、とりあえず今日は帰りたい」
 
 俺が目を伏せそう言うと、本条はそれ以上詮索してはこなかった。
 
 この見た目のせいで、過去に何度か付き纏われたことはあった。
 相手は皆、大人の男で、しつこくなると俺は父に相談した。
 父はどんな方法を使ったのか、一週間もしないうちの男達はいなくなった。
 今回相手が女子中学生ということもあって、自分で何とかしようと思ったが、限界だった。このままじゃ、いつか俺は彼女を本当に殴ってしまう。

 その晩、俺は父の書斎の扉をノックした。
 中で父は机の向こう側に座って、ウイスキーの入ったグラスを傾けていた。

 飲んでるのか。

 他の日にしようかとも思ったが、酔った父に何か言われるより、明日の朝校門の前に有希子が立っていることの方が恐怖だった。
 俺は机を挟んで父の前に立った。
「何だ?話でもあるのか?」
「実は…」
 有希子からのストーカー行為を俺は俺は初めからすべて話した。
 渡された写真の話になると、父が呆れたように目を天井に向ける。
「写真は取ってあるのか?」
「捨ててしまいました」
 俺の答えに父は「ふん」と鼻を鳴らす。気持ちが悪くて、帰りにコンビニのごみ箱に捨ててきてしまったが、考えればあれも俺の話を裏付ける証拠品だった。
「手紙は?」
 そう問われて、俺はあらかじめジーンズのポケットに忍ばせておいた今まで貰った手紙2・3通を父に渡した。
 父はざっとそれらに目を通すと、ふうと息を吐いた。
 アルコールの匂いが辺りに漂う。
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