哀しい愛

まめ太郎

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 四月になり、高校二年に進級した。
 三年間クラス替えのないこの学校は、目に映る顔ぶれも変わりない。

「うちのクラスに転入生くるらしいよ」
 そんな声がどこからか聞こえ、「ふうん」と思ったくらいで、一つ学年が上がった感慨なんて俺には微塵もなかった。
 担任の草野がいつも通り、やる気なさそうに大きなあくびをしながら入ってくる。担任まで持ち上がりなので、より一層進級した感はない。

「転校生紹介するぞー。小糸、入れ」
 そう言われて入ってきたのは、うちのブレザーではなく近くの県立指定の学ランを着た、でかい男だった。
 草野も身長180㎝はあるだろうが、転校生はそれより5㎝は高そうだった。
 艶やかな黒髪を、額に斜めに流し、後ろはすっきりと刈り上げている。
 整った顔に、鋭い双眸は髪と同じ黒だった。
 俺は気がつくと一心に彼を見つめていた。

 甘さのない顔に、がっしりとした肉体。
 自分の理想が、目の前に現れたかのようで俺は小さく口を開けた。
 俺があまりに長く見つめたせいか、転校生はこちらの視線に気付くと、目を細めた。

 やばい、睨まれた。
 俺はさっと視線を下に向けた。

「じゃあ、自己紹介」
 草野がかったるそうに顎をしゃくった。
「小糸正臣(コイト マサオミ)です。よろしくお願いします」
 低く通る声が俺の鼓膜に心地よく響く。
 そっと顔を上げると、小糸と再び目が合った。
 小糸は先ほどと180度違う表情で、ふっと微笑んでくれる。
 俺は自分の頬が火照るのが分かった。
 口角を上げて穏やかな表情の小糸は、先ほど俺を睨んだ時とは別人のようだった。

 睨まれたと感じたのは俺の気のせいかもしれない。
 現金にもそう思いながら120パーセント好みの容姿をしている小糸をまたうっとりと眺めた。
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