哀しい愛

まめ太郎

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「これ、解き方も説明しようか?」
「わー、助かる」
 ノートを手渡されると俺は頬を染め、目の前の小糸に微笑んだ。

 小糸は転校してきてからすぐに人当たりも見た目も良いせいで、クラスに馴染んだ。さらに先日返された期末テストで学年一位を取ったことで、尊敬の眼差しまでも集め始めていた。
 今まで県立の高校に通い、この学校の大半の生徒がそうであるようなお坊ちゃまではないらしい小糸だったが、それを理由に彼を爪はじきにしようとする奴は誰もいなかった。
 俺はそんな小糸を日々見つめるだけで精一杯だった。話しかけたかったけれど、彼のことを意識しすぎてしまい、目の前に立つと緊張して、石像のように固まってしまう。
 クラスメイトとの会話の中で小糸が、朝早く登校して授業前に勉強しているというのを偶然耳にした。

「ええっ、お前まじ偉いじゃん」
「俺、勉強って朝が一番捗るんだよ。学校帰って来てからだと、なんか疲れちゃって。受験意識して焦ってんだよ、俺」
 小糸は以前は近くの県立高校に通っていたが、難関大学の合格を目指しているため、受験対策をしっかりしている本校に転入してきたという話をその後にしていた。

 小糸、朝早く学校来てるんだ。

 その情報を知った俺は、翌日から30分早く家を出るようにした。
 初めて小糸に早朝教室で会った時、俺は「奇遇だなあ。俺、今日の数学の小テストの勉強しようと思ってさ」なんて言葉を声を裏返らせ、つっかえながら小糸に告げた。そんな俺に小糸は穏やかに微笑むと、「じゃあ、一緒に勉強するか」と言って受け入れてくれた。それから一か月経った今では毎日授業前に勉強を教え合う仲だ。もっとも教えを乞うのは俺の方ばかりだが。

「やっぱり小糸はすごいなあ。俺、この数学の問題、もっと回りくどい解き方をしていたよ」
 俺のノートを見るために、小糸が身を乗り出した。
 指で俺の文字をなぞる。
 小糸のシャンプーの匂いが俺の鼻孔に届き、無意識にスンと息を吸う。
 あの節ばった長い人差し指でそっと俺の頬に触れてくれたら…。

「でも答えはちゃんと当ってる。時間はかかるかもしれないけど、この解き方もいいんじゃないか?」
 小糸の声が妄想に耽っていた俺の意識を現実に戻す。

 やばい、俺。小糸の目の前で何考えてるんだよ。

 赤い顔で頭を振っている俺を小糸が不思議そうな表情で見る。
「鈴賀(スズカ)、大丈夫か?顔が赤いけど熱でもあるんじゃ」
 そう言いながら、小糸が俺の額に触れる。
 俺は勢いよく椅子ごと後ろに下がり、更に顔を赤くした。
「大丈夫。なんかちょっと暑かったから」
「確かに暑いな。クーラーが授業開始の時間からじゃないとつかないのが不便だよな。窓でも開けようか?」
 そう言って小糸は立ち上がると、窓を大きく開けた。
 ふわりとクリーム色のカーテンが風を受け、膨らんだ。
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