15 / 66
15
しおりを挟む
もとから小糸は自らのことを話すのは好きじゃないようで、どんな家庭なのか。兄弟はいるのか。など俺はほとんど何も知らなかった。
プライベートな話など一切しないで、ひたすら勉強ばかりだが、小糸と二人きりになれるこの朝の時間を、俺はなにより愛おしく思っていた。
「あっ、やべっ」
机の中にあったノートを見て、俺は思わず声を上げた。
今朝、小糸に数学を教わっているときに間違って俺が持ってきてしまったらしい。途中まで解いた問題がそこには書かれていた。今朝続きは今夜にでもやると小糸は言っていた。
俺がこれを持っていたら、小糸が困るじゃないかと迂闊な自分を心の中で罵る。
「貴雄。帰んないの?」
本条に声を掛けられ、俺は眉を寄せた。
「んー。小糸にノート返したくて」
「あいつならもう帰ったぞ」
小糸は何か用でもあるのか、授業が終わるといつも真っ先に帰っていく。
本条は俺が小糸と朝勉強をしているのを知っているからノートの件を話しても変な顔はしなかった。
「あー、どうしようかな。このノート小糸が今日使うって言ってたんだよ」
「メール送ったら?」
「連絡先知らないし」
ため息をつく俺を本条がじっと見つめる。
「俺、小糸の家の分かるかも」
本条の言葉に俺はがばっと顔を上げた。
「本当?」
「うん。大体の場所だけど。ほら、スーパー清里あんじゃん?小糸、家があの裏手の一軒家で、あそこでよく買い物してるって言ってたよ」
毎朝一緒に勉強しているのにそんなことも俺は知らなかった。
「そうなんだ。じゃあ、届けてみようかな」
「でもあいつ貴雄にも連絡先教えてなかったなんて意外だな」
呟くように本条が言った。
「そう?むしろ俺、本条の方が知ってるかと思ってた」
クラスで本条と小糸が話しているところを俺は何度も目撃していた。本条は基本的に社交的な奴だから、誰とでもすぐに仲良くなる。
「いや、小糸ってさあ、人当たり良いけど、一線引いてるとこない?放課後俺が誘っても絶対に断って遊びになんて行かないし、連絡先の交換だって、そのうち教えるってはぐらかされたままだし」
俺は本条も小糸の連絡先を知らないということにどこかほっとした気持ちになった。
プライベートな話など一切しないで、ひたすら勉強ばかりだが、小糸と二人きりになれるこの朝の時間を、俺はなにより愛おしく思っていた。
「あっ、やべっ」
机の中にあったノートを見て、俺は思わず声を上げた。
今朝、小糸に数学を教わっているときに間違って俺が持ってきてしまったらしい。途中まで解いた問題がそこには書かれていた。今朝続きは今夜にでもやると小糸は言っていた。
俺がこれを持っていたら、小糸が困るじゃないかと迂闊な自分を心の中で罵る。
「貴雄。帰んないの?」
本条に声を掛けられ、俺は眉を寄せた。
「んー。小糸にノート返したくて」
「あいつならもう帰ったぞ」
小糸は何か用でもあるのか、授業が終わるといつも真っ先に帰っていく。
本条は俺が小糸と朝勉強をしているのを知っているからノートの件を話しても変な顔はしなかった。
「あー、どうしようかな。このノート小糸が今日使うって言ってたんだよ」
「メール送ったら?」
「連絡先知らないし」
ため息をつく俺を本条がじっと見つめる。
「俺、小糸の家の分かるかも」
本条の言葉に俺はがばっと顔を上げた。
「本当?」
「うん。大体の場所だけど。ほら、スーパー清里あんじゃん?小糸、家があの裏手の一軒家で、あそこでよく買い物してるって言ってたよ」
毎朝一緒に勉強しているのにそんなことも俺は知らなかった。
「そうなんだ。じゃあ、届けてみようかな」
「でもあいつ貴雄にも連絡先教えてなかったなんて意外だな」
呟くように本条が言った。
「そう?むしろ俺、本条の方が知ってるかと思ってた」
クラスで本条と小糸が話しているところを俺は何度も目撃していた。本条は基本的に社交的な奴だから、誰とでもすぐに仲良くなる。
「いや、小糸ってさあ、人当たり良いけど、一線引いてるとこない?放課後俺が誘っても絶対に断って遊びになんて行かないし、連絡先の交換だって、そのうち教えるってはぐらかされたままだし」
俺は本条も小糸の連絡先を知らないということにどこかほっとした気持ちになった。
6
あなたにおすすめの小説
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
かわいそうな看守は囚人を犯さなければならない。
紫藤なゆ
BL
好色な王は忠実な臣下エメラードに命じる。敗戦者スクを上手に犯して見せるように。
苦悩する騎士エメラードと、命があればそれでいいスクは、看守と囚人として毎日を過ごす。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる