哀しい愛

まめ太郎

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 俺が話そうとした瞬間、教室前方の扉ががらりと開いた。
「ふう、暑ぃ」
 入ってきたのはサッカー部の石塚だった。
 俺達二人と目が合うと、人懐っこく笑う。
「なに、お前ら。朝っぱらから勉強?偉いねえ」
「まあ、一応受験生だしな。石塚は朝練?」
「そうそう。今日は暑すぎるから早めに上がれって顧問に言われてさ」
 石塚が近づいてくると、さり気なく小糸は俺の手を離した。まるで先ほどの告白などなかったかのように小糸は俺の存在を無視し、石塚と会話している。
 俺はまだ余韻から抜け出せず、ただぽけっと会話する二人を眺めていた。

 それから他のクラスメイトも徐々に登校し始め、俺はその後、小糸と二人だけで話す機会に恵まれなかった。

 家に帰る頃には、今朝の小糸との会話が現実だと俺は思えなくなっていた。
 もしかして俺の妄想が爆発しただけで、実際はあんなことなかったのかも。

 そんな弱気な考えを後押しするかのように、今日教えられた小糸のメールアドレスからはどんなメッセージも送られてこなかった。
 本当に付き合っているなら、俺からメッセージ送ったっていいはずだが。
 あっ、でも俺、小糸がせっかく付き合おうって言ってくれたのにちゃんと返事していない。
 っていうかそもそも告白自体俺の白昼夢だった可能性あるし。
 俺の都合のいい妄想じゃ…。
 でも本条は小糸が授業中、俺のこと見てるって言ってた…。

 そんな風に悶々としながら俺の夜は更けていった。

 翌朝、ほとんど寝ていない状態で、俺は教室の扉に手をかけた。
 ドキドキしながら開けると、小糸がいつも通り自分の席に座っている。
「おはよう」
 こちらに気付き小糸が微笑みながら挨拶する。
「おはよ」
 自分の赤くなっている頬を隠すように手の甲で擦りながら、俺もいつもの席に座った。

「昨日の英語の訳、説明が早すぎて写し終わらなかったんだ。見せてもらっていい?」
「うっ、うん」
 俺が英語のノートを小糸に渡すと、「鈴賀って字がいつでも綺麗だよな」なんて言いながらシャーペンの芯をかちりと出している。
 俺はあまりにいつもと変わらない小糸に、やはり昨日の告白は俺の妄想だったんじゃという思いにかられた。
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