哀しい愛

まめ太郎

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 それからはお互い勉強の話しかしなかった。
 それでも俺は小糸と恋人同士になれたこと、明日の放課後一緒にいる約束があること、それだけで本当に幸せで、一日中頬が緩みっぱなしだった。
 体育の時間のバスケで、顔面でボールを受け止め、鼻血を流しながらも微笑む俺を見て本条が気味悪そうにしていた。
「お前、どうしたんだよ、今日。菩薩みたいだぞ」
 そう言われても俺の笑顔は止まらなかった。

 帰り道、書店に寄って、「おすすめデートスポット100選」という雑誌を買った。
 俺の小遣いは月3000円で、ジュースなど細々買っているとあっという間になくなってしまうから、950円もする雑誌はかなりの散財だったが、後悔はなかった。

 風呂上り、ベットに寝ころび、雑誌をめくる。

 近場でも放課後に行くのは厳しいかも。
 休日、小糸の都合がいいなら、水族館とか一緒に行ってみたいなあ。
 雑誌の中のモデルは男女だったが、どの写真も手を繋いで写っていた。

 明日、俺、小糸と多分一緒に帰るんだよな。
 手とか繋いだり、あわよくばキスも…。

 俺は自分の妄想に照れて、拳で何度も毛布を殴ると、狭いベッドの上で小さく転げまわった。

 翌日、朝の勉強の時、小糸に「授業が終わったら、第二音楽室の前で待ってて」と言われた。
 一緒に帰るのなら、待ち合わせは下駄箱でいいんじゃないか。そう思った俺は少し戸惑ったが、頷いた。

 授業が終わると、小糸はいつもと同じようにさっさと教室から出ていく。
 追いかけようとして、俺ははたと気付いた。
 もしかして小糸は俺と一緒に帰るところを、見られたくないんじゃないか。

 この男子校ではあんまりクラスメイト同士仲が良すぎると、「あいつらホモだぜ」なんてからかいといじめが混ざり合った不快な言葉を投げつけられることがしばしばある。
 小糸はそういうことが煩わしいのかもしれない。
 少し寂しいが、確かに俺も小糸との付き合いを誰にも知られたくはなかった。
 それこそ父親になんてばれたら、いろいろ終わる。
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