哀しい愛

まめ太郎

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 俺は小糸の後を追うのを止め、ため息をつくとバックを持ち上げ、「お疲れ」と本条に言い、第二音楽室に向かった。
 第二音楽室の壁に寄りかかって、ぼんやりと自分の上履きを見つめていると、声をかけられた。

「待たせたな」
 小糸が向こうから歩いてくる。
「そんなに待ってないよ」
 俺が下駄箱の方へ歩こうとすると、小糸が俺の二の腕を掴んだ。

「そっちじゃない」
「えっ?」
 首を傾げる俺に小糸は廊下の奥の扉を指さした。
 俺の腕を離すとずんずん進んでいき、扉を開ける。

「ちょっと、小糸。それじゃ外に出ちゃう」
 奥の扉は緊急時外に出るための非常扉だった。通常生徒はそこを使ったりしない。
 しかし小糸は構わずそこを開け、俺を手招きで呼んだ。
 渋々俺も小糸の後につづいて外に出たが、そこは鬱蒼と木々が生い茂っている薄暗いところだった。

「小糸は転校してきたから知らないかもしれないけど、ここら辺は何もないよ。校門まで行くにも大回りしなきゃいけないし」
「あっち」
 小糸は俺の言葉を無視して歩き始めた。向かう先には小さなプレハブが立っている。
 そこは以前部活の着替えで使われていた場所だが、変質者が着替えを覗いていたという事件があり、それから使用不可となっていた。

 小糸はプレハブの扉を何の躊躇もなく開けた。
 俺を中に入れると、内鍵を閉める。
 俺は部活をやっていなかったせいで、このプレハブに入るのは初めてだった。
 八畳くらいのそこは、かなりの年月使っていないせいで、部屋の四隅に蜘蛛の巣が張られていた。
 棚にはサッカーボールやバスケットボールが箱に入って置いてあったが、磨かれていないようで黒ずんでいる。
 小糸は奥に立てかけてあるマットを持ってくると床に敷き始めた。

「よくこんな場所知ってたね」
 俺はてきぱきと動く小糸を戸惑いながら見て言った。
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