哀しい愛

まめ太郎

文字の大きさ
40 / 66

40

しおりを挟む
「おいっ。貴雄。お父様のお帰りだぞー」
 怒鳴り声が聞こえ、俺は体をびくりと震わせた。
「やばい。親父だ。何で、こんな早くっ」
「おい、貴雄。てめえ、一家の大黒柱を出迎えもしないつもりか?誰のおかげで飯が食えてると思ってんだ」
 階下からの声に俺は泣き出しそうになった。
「ごめん。俺ちょっと行ってくる。正臣はここから出ないで」
 俺は急いで部屋を飛び出し、玄関に向かった。

「お帰り。父さん。いつもより随分早いから驚いた」
「けっ、森崎の野郎が飲みすぎだから帰れってうるさくてな。二、三発部下を殴ったくらいであいつも大げさなんだよ」
 父さん、社員の人にまで手を上げたんだ。
 自分の顔が青ざめていくのが分かった。
「あ?なんだその目は。お前も俺のやり方に文句があんのか?」
「そんなこと言ってな」
 父は俺を突き飛ばすと、蹲る俺に容赦なく拳を振るった。
「てめえ、ふざけんな。誰のおかげでこんな立派な家に住んでいられると思ってんだ」
 俺は自分の頭を両手で庇った。
 腹や腰に父の拳がめり込む。
 ふいに暴力がやみ、顔を上げると、そこには無表情で父の手首を握る正臣がいた。
「てめえ、誰だ。警察呼んでやるからな。大人しく」
 正臣が父を押すと、父の体は玄関の扉にぶつかり大きな音を立てた。
「父さん」
 俺が慌てて尻餅をつく父に駆け寄ると、大きないびきが聞こえた。
 ショワショワと音がし、アンモニアの饐えた匂いが辺りに充満する。
 俺は恥ずかしくて、顔を上げることができなかった。
「正臣。悪いけど今日は帰ってくれる?」
「でも、一人じゃ」
「いいから、帰って。俺はこういうの慣れてるから」
 正臣はコートを持ってくると、俺を見て眉を寄せた。
「また殴られそうになったら、何時でもいい。連絡しろ」
「ありがとう」
 俺はそれだけ言うのがやっとだった。
 正臣が帰るというのに立ち上がって見送ることさえもできない。
 家庭内の恥部を知られ、泣き出しそうな心境だった。
 玄関の扉の閉まる音が聞こえる。
 さっきまで幸福の絶頂にいたはずなのに。
 そんなことをぼんやりと思いながら、濡れた父のスーツを俺は脱がし始めた。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

のろまの矜持 恋人に蔑ろにされすぎて逃げた男の子のお話

月夜の晩に
BL
イケメンエリートの恋人からは、雑な扱いばかり。良い加減嫌気がさして逃げた受けくん。ようやくやばいと青ざめた攻めくん。間に立ち塞がる恋のライバルたち。そんな男の子たちの嫉妬にまみれた4角関係物語です。

処理中です...