哀しい愛

まめ太郎

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「そう言えば貴雄は最近大丈夫なのか?」
「えっ?」
「親父さんだよ。殴られたりしてないか?」
 父親は相変わらず酒に溺れ、俺の体には真新しい痣が幾つもあった。
 しかし最近抱かれていないせいで、正臣はその事実を知らない。
 ただでさえ、正臣は家庭の問題で大変なんだ。
 俺のことまで心配をかけちゃだめだ。
 俺はそう決意すると、精一杯笑顔を作った。
「うん。最近父さん仕事が上手くいっているみたいで機嫌いいんだ。普通に仲良く暮らしてるよ」
 俺がそう言うと、正臣の表情が険しくなった。あれと思って、何度か瞬きすると、直ぐに正臣の顔は、見慣れた穏やかなものになった。
「そうか。良かったな」
 正臣はそう呟くと、また遠くを見た。
 久しぶりの二人きりの放課後だったが、正臣はそれからいくら話しかけても心ここにあらずで、まともに返事もしてくれなかった。
 家庭が大変な時に、俺の発言は逆に無神経だったかもしれないと、俺は正臣の腕の中で小さくため息を零した。

 受験当日まで三か月を切った。
 集中したいからと、正臣は朝の勉強会に来なくなった。
 俺は来ないと言われているのに、気が向いたら正臣がやってくるのではとわずかな望みをかけて、早朝の教室で一人勉強に励んでいた。
 そんななか正臣の顔色は日に日に悪くなっていった。
 メールで勉強の進捗を聞いても、「全然集中できない」「受かる気がしない」などネガティブな返信ばかりだった。
 正臣の誕生日も、会う時間はないと言われた。
 ケーキを焼くから家に持って行ってもいいかと尋ねたが、それすら断られる。
 12時きっかりに送信した誕生日おめでとうのメールに返信があったのは三日後のことだった。
「ありがとう」
 絵文字も何もなく、ただそれだけだった。
 俺はその返信を確認すると、スマホを胸に抱いて、ベットにダイブした。
 寂しかったが、そんな気持ちを馬鹿正直に正臣に告げることはできなかった。
 受験勉強がただでさえつらい時期、多分家庭内の悩みも抱えているであろう正臣にそんな我儘を言って、煩わせるわけにはいかなかった。
 ふうと息を吐き、スマホについているお揃いのストラップを撫でた。
 こんな気持ちも受験が終わるまでだ。
 受験が終われば、全て上手くいく。来年の正臣の誕生日には「去年は酷かったよな」と言って笑い合っているはずだ。
 そう自分に言い聞かせ、俺は目を閉じた。
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