哀しい愛

まめ太郎

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 俺が暗い顔を見せると、正臣は苦笑し、俺の頬に触れた。
「弱音はいちまって悪かったな。貴雄といるとつい、甘えたくなる」
 そう言われて俺は微笑んだ。
 俺の頬を包んでいる正臣の手に、自分の手を重ねる。
「早く受験終わればいいのにな。もっと正臣に甘えて欲しいし、俺も正臣に甘えたい」
「それ、イチャイチャしたいってお誘い?」
 正臣がにやりと笑って俺に問う。
「ちっ……違くないけど」
 正臣が声を立てて笑った。
「ああ。本当に貴雄といると癒される。辛い現実を忘れられるんだよなあ」
 俺は正臣が受験でそんなに追いつめられてるのだと思い、眉を顰めた。
 正臣が俺の表情に気付き、ぎこちなく笑う。
「ごめん。今、ちょっと大げさに言った」
「ん。でも本当に早く受験終わるといいよね」
「ああ、本当にな」
 くたびれた表情で正臣は相槌を打つと、再び手元のノートに視線を落とした。
 
 そんなある日、クラスで授業を受けていると、担任が息を切らして教室に入ってきた。正臣の肩を叩き、廊下に連れて行く。
 一旦、廊下に消えた正臣は深刻な表情で戻ってくると、自分のカバンを持ってまた教室から出て行った。
 その日、結局正臣は学校には戻らなかった。
 翌日、早朝の勉強会に正臣は顔を見せなかった。
 連絡もなしにそんなことは初めてで、俺は「今日は来ないの?」と短いメールを送信したが、返信はなかった。
 正臣は午後の授業が始まるぎりぎりに登校してきた。
 クラスメイトの何人かが心配した表情で昨日のことを尋ねていたが、正臣は適当にはぐらかしていた。
 俺は「大丈夫?」とだけ、正臣にメールを送った。
 すぐに返信がきて「放課後、用具室で」とあった。
 
 放課後は二人とも勉強漬けだったから、用具室を訪れるのは久々だった。
 換気していなかったからか、以前よりいっそう黴臭い。
 正臣は口数が少なく、マットに座ると、自分の膝の間に俺を座らせた。
 沈黙が落ちる。
「昨日……何かあった?」
「うん。ちょっと家で」
 それ以上、正臣は何も言う気はないようだった。
 顔を上げると正臣は虚ろな瞳をして、何もない空間を見つめていた。
 俺は正臣が何処かに行ってしまうような恐怖に捕らわれ、正臣の腕をぎゅっと掴んだ。
「何?やりてぇの?」
 嫌な感じの笑いを浮かべて正臣が問う。
 俺は泣き出しそうになったが、ただ首を振った。
 正臣が髪をかき上げ、息を吐く。
「悪い」
 俺は黙って俯いた。正臣の雰囲気がおかしいというのは気付いたが、原因を知らない俺は、何を話せば少しでも正臣の気持ちが安らぐのか分からなかった。
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