49 / 66
49
しおりを挟む
寒さが厳しくなると、いよいよ教室の雰囲気がピリピリし始めた。
指定校推薦を勝ち取っている奴は笑顔も多かったが、それ以外のクラスメイトは鬼気迫るものがあった。
正臣と俺ももちろんその鬼気迫る方だった。
正臣は進学するとしても国立以外は金銭的に厳しく、浪人はもっての外らしい。
それなのに何故正臣は、金のかかるこのお坊ちゃま高校に転校してきたのだろうと不思議に思ったが、家庭の事情、それも金銭的なことには首を突っ込まれたくないだろうと俺はあえてそれ以上聞かなかった。
そして俺も受験の失敗は許されなかった。
父は自分は二浪して俺の志望校に入学したが、俺には絶対に落ちることなど許さないと念を押すように何度も言ってくる。
二歳年上の従妹、和希が現役で第一志望の大学に受かったこともあるのだろう。
自分の息子が弟の息子より学力的に劣っているなど、父のなかではあってはならないことだった。
受験に失敗したら、親子の縁を切るとまで言われたこともある。
もし俺が落ちたら、いくつか体に痣を作るくらいでは、親父の気はすまないだろう。
俺は第一志望に落ちる未来を妄想し、ぶるりと体を震わせた。
「風邪か?」
目の前で勉強していた正臣が問う。
「ううん。ちょっと寒気がしただけ」
正臣は自分のかばんから使い捨てカイロを取り出すと、こちらに放ってよこした。
「暖かくしろよ。この時期に風邪ひいたなんて洒落になんねぇからな」
「うん。ありがとう」
俺はカイロを両手で握り微笑んだ。
受験日が近づいてきても、俺と正臣の早朝の勉強会は続いていた。
俺は一日の中でこの時間が一番好きだった。
正臣が大きく伸びをする。
「あー、だめだ。古文とリスニング。点数取れる気がしない」
「でも正臣、この前の模試A判定だったんだろ?」
俺が首を傾げると、正臣が口の端を斜めにした。
「そうなんだけどさ。落ち着かないんだよ。今日も自分が不合格になる夢見て、飛び起きた」
そう言う正臣に俺は頷いた。
「気持ち分かる」
絶対に落ちることができないというプレッシャーがかかっている状態での受験勉強は相当なストレスだった。
指定校推薦を勝ち取っている奴は笑顔も多かったが、それ以外のクラスメイトは鬼気迫るものがあった。
正臣と俺ももちろんその鬼気迫る方だった。
正臣は進学するとしても国立以外は金銭的に厳しく、浪人はもっての外らしい。
それなのに何故正臣は、金のかかるこのお坊ちゃま高校に転校してきたのだろうと不思議に思ったが、家庭の事情、それも金銭的なことには首を突っ込まれたくないだろうと俺はあえてそれ以上聞かなかった。
そして俺も受験の失敗は許されなかった。
父は自分は二浪して俺の志望校に入学したが、俺には絶対に落ちることなど許さないと念を押すように何度も言ってくる。
二歳年上の従妹、和希が現役で第一志望の大学に受かったこともあるのだろう。
自分の息子が弟の息子より学力的に劣っているなど、父のなかではあってはならないことだった。
受験に失敗したら、親子の縁を切るとまで言われたこともある。
もし俺が落ちたら、いくつか体に痣を作るくらいでは、親父の気はすまないだろう。
俺は第一志望に落ちる未来を妄想し、ぶるりと体を震わせた。
「風邪か?」
目の前で勉強していた正臣が問う。
「ううん。ちょっと寒気がしただけ」
正臣は自分のかばんから使い捨てカイロを取り出すと、こちらに放ってよこした。
「暖かくしろよ。この時期に風邪ひいたなんて洒落になんねぇからな」
「うん。ありがとう」
俺はカイロを両手で握り微笑んだ。
受験日が近づいてきても、俺と正臣の早朝の勉強会は続いていた。
俺は一日の中でこの時間が一番好きだった。
正臣が大きく伸びをする。
「あー、だめだ。古文とリスニング。点数取れる気がしない」
「でも正臣、この前の模試A判定だったんだろ?」
俺が首を傾げると、正臣が口の端を斜めにした。
「そうなんだけどさ。落ち着かないんだよ。今日も自分が不合格になる夢見て、飛び起きた」
そう言う正臣に俺は頷いた。
「気持ち分かる」
絶対に落ちることができないというプレッシャーがかかっている状態での受験勉強は相当なストレスだった。
6
あなたにおすすめの小説
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
かわいそうな看守は囚人を犯さなければならない。
紫藤なゆ
BL
好色な王は忠実な臣下エメラードに命じる。敗戦者スクを上手に犯して見せるように。
苦悩する騎士エメラードと、命があればそれでいいスクは、看守と囚人として毎日を過ごす。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる