哀しい愛

まめ太郎

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 寒さが厳しくなると、いよいよ教室の雰囲気がピリピリし始めた。
 指定校推薦を勝ち取っている奴は笑顔も多かったが、それ以外のクラスメイトは鬼気迫るものがあった。
 正臣と俺ももちろんその鬼気迫る方だった。
 正臣は進学するとしても国立以外は金銭的に厳しく、浪人はもっての外らしい。
 それなのに何故正臣は、金のかかるこのお坊ちゃま高校に転校してきたのだろうと不思議に思ったが、家庭の事情、それも金銭的なことには首を突っ込まれたくないだろうと俺はあえてそれ以上聞かなかった。
 そして俺も受験の失敗は許されなかった。
 父は自分は二浪して俺の志望校に入学したが、俺には絶対に落ちることなど許さないと念を押すように何度も言ってくる。
 二歳年上の従妹、和希が現役で第一志望の大学に受かったこともあるのだろう。
 自分の息子が弟の息子より学力的に劣っているなど、父のなかではあってはならないことだった。
 受験に失敗したら、親子の縁を切るとまで言われたこともある。
 もし俺が落ちたら、いくつか体に痣を作るくらいでは、親父の気はすまないだろう。
 俺は第一志望に落ちる未来を妄想し、ぶるりと体を震わせた。
「風邪か?」
 目の前で勉強していた正臣が問う。
「ううん。ちょっと寒気がしただけ」
 正臣は自分のかばんから使い捨てカイロを取り出すと、こちらに放ってよこした。
「暖かくしろよ。この時期に風邪ひいたなんて洒落になんねぇからな」
「うん。ありがとう」
 俺はカイロを両手で握り微笑んだ。

 受験日が近づいてきても、俺と正臣の早朝の勉強会は続いていた。
 俺は一日の中でこの時間が一番好きだった。
 正臣が大きく伸びをする。
「あー、だめだ。古文とリスニング。点数取れる気がしない」
「でも正臣、この前の模試A判定だったんだろ?」
 俺が首を傾げると、正臣が口の端を斜めにした。
「そうなんだけどさ。落ち着かないんだよ。今日も自分が不合格になる夢見て、飛び起きた」
 そう言う正臣に俺は頷いた。
「気持ち分かる」
 絶対に落ちることができないというプレッシャーがかかっている状態での受験勉強は相当なストレスだった。
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