哀しい愛

まめ太郎

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 疲れ切った体でぼんやりとホテルの白い天井を見つめた。
 頭の下には正臣の逞しい腕があり、その感触も心地良い。
「気になってたんだけど」
 話しかけられ、正臣の方を向いた。
「肩のところの痣、親父さんじゃないよな?」
 俺は体を固くしたが、咄嗟に笑った。
「やだなあ。違うよ。最近は仲がいいって言ったじゃん。これは本棚から辞書を取ろうとして失敗して落とした時に当たっただけだよ」
「そうか。ならいいんだ。気をつけろよ」
 正臣がホッとした顔をする。
 本当は一週間ほど前に、父親に殴られた時にできた痣だった。もう消えかけているから正臣は気付かないと思って油断した。
「なあ、貴雄。お前さ、親父さんに俺と付き合ってるってカミングアウトしようとか考えたことない?」
 唐突な問いに、頭が真っ白になる。
「へっ?」
「まさかこのまま永遠に同性愛者だって家族に言わないとか考えているわけじゃないだろ?」
 正臣が真剣な表情でこちらを見る。
 俺がゲイだということは一生親父には言うつもりはなかった。
 もし何かの拍子でバレてしまって俺だけ酷く殴られたり、最悪それが原因で絶縁されたってそれは諦めがつくだろう。
 だが、正臣に迷惑をかけることだけは絶対に嫌だった。
 酔っぱらった父親は何をするか分からない怖さがある。
 部下を引き連れて正臣の家に殴り込みに行く可能性だってゼロじゃない。
 ただそれをここで正臣に告げる勇気が俺にはなかった。
 せっかくさっき俺のことを愛していると言ってくれたばかりなのに。面倒な奴だとも親に紹介しない薄情な奴だとも正臣には思われたくなかった。
「そうだね。最近お父さん機嫌がいいし。正臣と付き合ってるって言ったら、最初は驚くかもしれないけど、最後には受け入れてくれるような気がする」
 それを聞いた途端、正臣が本当に嬉しそうに笑った。
 嘘をついて良かった。
 父親に正直に正臣と付き合っていると話したら、俺と正臣殺されるかもしれないよ。
 そんなことをいう男と誰が付き合いたいだろう。
 正臣が俺の頭をゆっくりと撫でてくれる。
 俺は正臣に甘える様にすり寄ると、嘘をついた罪悪感に蓋をするよう目を閉じ、息を吐いた。
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