哀しい愛

まめ太郎

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 何があったかは知らないが、避けては通れない。
 俺は大きく息を吐くと、扉をノックした。
「貴雄です。今帰りました。入ります」
 父は血走った目で扉の側にいる俺を睨みつけた。
 足がすくみそうになるのを堪えながら、父親の近くに歩み寄る。
「お呼びで……」
 思いきり頬を殴られた。
 俺は尻餅をついて、頬を押さえた。鼻からツウと生暖かい液体が垂れる。
 今まで何があっても絶対に顔だけは殴らなかったのに。
 俺はそこで初めて父親がキレているという事実に気付いた。
「これはどういうことだ」
 声を荒げる父親が、床に何枚かの写真を放った。
 俺はそれを拾い上げ、目を見開いた。
 そこに写っていたのは俺と正臣だった。
 あの用具室でキスをしたり、お互いの体を触り合ったり……。服こそ着ていたが写真の中の俺達は優に友達の範疇を越していた。
「これ……」
 俺は言葉が出なかった。直ぐに合成だとごまかせば何とかなったかもしれないが、ショックで頭が回らない。
 父はしゃがんでいる俺の髪を掴むと、手加減なしに俺の頭を机にぶつけた。
「俺宛の封筒に入ってうちの郵便ポストに入れてあった。お前はっ、俺に隠れてこんな薄汚れた真似をしとったのか。絶対に許さんからなあ」
 父親の暴力が一旦やみ、俺はこめかみから血を流しながらぼんやり座っていた。
 写真には正臣の顔もばっちり写っていた。 
 父親が正臣に迷惑をかけるのだけは避けたい。
 俺は下唇を噛み、決意すると、顔を上げた。
「そうです。僕は男が好きなんです」
 俺がそう言うと、父親は真っ赤だった顔を真っ青に変えた。
「お前」
「受験のストレスがたまるとこうやって、適当な男に相手をしてもらっていました。だからこの写真に写っている彼も特別な相手というわけじゃないんです。俺はゲイで淫乱で……お父さんの息子はそんな人間なんですよ」
 俺は立ちあがると真正面から父親を睨みつけた。
 父親の顔色は奇妙なくらい真白だった。
「そうか。分かった」
 静かな声でそう言うと、父親は部屋の隅に置いてあったゴルフバッグからクラブを取り出した。
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