vamps

53

　目を覚ますと、隣でヒューイが本を読んでいた。
　俺の視線に気付いたのか、ヒューイがこちらを見る。
　目が合うとヒューイは俺に微笑んだ。

「お前の母親がそろそろ夕飯を食べないかだってさ。どうだ？　食べられそうか？　」
　現金なもので、夕飯の単語に俺の腹がぐうと返事をした。
　声を立てて笑うヒューイに俺の頬が赤くなる。

「今、何時？」
　床に散らばった衣服を身に着けながら尋ねると、ヒューイが自分の腕時計に目を落とした。
「19時だな」
　大学で倒れたのが午前中だったから、相当な時間俺は眠っていたらしい。

「ご、ごめん。退屈だったろ？　俺、ずっと寝てて」
　ヒューイは立ち上がると、俺に手を差し出した。
　俺はおずおずとその手をとる。
　ヒューイが俺と手を繋ぎながら、離れの扉を開ける。
　外の空気は火照った体を覚ますのにちょうど良かった。
　唐突にヒューイが立ち止まる。
　
「お前の寝不足は俺のせいなんだろ」
　俺は何と答えていいか分からず、俯いた。
「アレン、俺達、気を使い合うのはやめようぜ。長い付き合いになるんだ。どちらかが我慢しながら続けていくような関係に、俺はしたくない」
　ヒューイは怖いくらい真剣な表情をしていた。

「お前言ったよな？　タイの関係はヴァンプの方が不利だって。俺もそう思うよ。俺がもっといいタイなら、お前も苦労しないんだろう。だけど俺はタイ初心者だから、どうしても失敗しちまう。それを悪いと思っていないわけじゃないんだぜ」
　ヒューイが俺の頭を撫でる。
「もし俺が今後タイとして間違えた時は、教えて欲しい。お前の言いたいことを我慢しないでくれ。お前の力で俺をいいタイにしてくれよ」
　いつもの傲慢さは鳴りを潜め、ヒューイの口調は懇願するような響きをもっていた。
　俺はその言葉に胸が詰まって、涙目でこくりと頷いた。