vamps

93

　それは平凡な俺の隣にいると、ドキドキしないですむということだろうか。
　そんな皮肉な気持ちも湧いてきたが、ヒューイに頭を優しく撫でられるとあんまり気持ち良くて、不機嫌な態度なんてどうしたって続かない。

「ずいぶん仲がいいのね」
　声の方に視線をやると、シュリが立っていた。
　ストライプのワンピースにホワイトのピンヒール姿のシュリは、俺より背が高く、雑誌から抜けでてきたようだった。
　シュリにきつい視線で見下ろされると、思わず後ずさりしそうな迫力がある。
　そんな俺の肩にヒューイが腕を回した。

「何の用だ」
　いつもシュリに話す口調とはまるで違う、突き放すようなヒューイの言い方に俺は息を飲んだ。
　シュリが眉を顰める。
「別に。ヒューイがペットを可愛がる性格だなんて意外だっただけ」
「アレンはペットなんかじゃないっ」
　ヒューイが犬歯を剥きだしにして、シュリを睨みつける。
　俺は睨み合う2人の間でおろおろと視線をさ迷わせた。

　先にシュリが視線を逸らし、ふんっと鼻を鳴らすと、ヒールの音を響かせながら去って行った。
　シュリとヒューイの間に一体何があったのだろう。
　問いただしたかったが、『お前には関係ない』と冷たく突き放されそうで、できない。
　黙ってヒューイを見上げる俺の腰をヒューイが両腕で抱く。

「何か言いたいことがあるのか？　我慢する必要はないんだぞ」
　俺のもの言いたげな雰囲気を察したのか、ヒューイが俺の前髪を優しい手つきですきながら問う。

「シュリと何かあったの？　」
　小さな声で尋ねるとヒューイがため息をついた。
「いや、大したことじゃない」
　ヒューイは強ばった笑みを無理やり浮かべると、俺の背中に手を添えたまま、カフェテリアにむかった。

　カレッジの学生の話題の移り変わりは、光の速さだ。
　一時期注目を集めていた俺達だったが、今はもう俺とヒューイが手を繋いで歩いていても、誰も気にしない。