vamps

109

「ふざけんじゃねえぞ。お前、俺にこんなことをしてただですむと……」
　言葉の途中でヒューイの父親はカーペットにむかって盛大に嘔吐した。
　ヒューイが天を仰ぐ。

「大丈夫ですか？　」
　慌てた俺にヒューイが水の入ったグラスを手渡す。
　俺からグラスを受け取った男は一気に飲み干しげっぷをすると目を閉じ、そのまま大きないびきをかきはじめた。

「アレン、すまない」
　ヒューイがため息をつく。
　俺は首を振ると、男の体を抱え上げた。
　こういう時、ヴァンプの力は便利だ。

「誰にも怪我がなくて良かった。ねえ、お父さんの寝室ってどこ？　」
　易々と父親を抱えた俺に目を丸くしたヒューイが、リビングの奥を指さした。

　吐瀉物を片付け、割れた窓を段ボールで適当に塞ぐと、ヒューイが疲れた表情を見せた。
「もう遅いし、今日はうちに泊まっていけよ」
　俺が頷くと、ヒューイがシャワールームに連れて行ってくれる。
　シャワーを借りてヒューイの部屋に入る。
　ヒューイも俺と入れ違いで、シャワーを浴びに行った。

　ヒューイの部屋に入るのはこれが初めてだった。
　部屋は意外と綺麗に片付いていたが、本棚にはぎっしりと本が詰め込まれているのはヒューイらしいと思った。
　俺はヒューイに借りたTシャツだけの姿で本棚の前に立つと、蔵書を眺めた。
　古今東西、有名な作品がジャンル関係なく並んでいる。

　その一冊を手に取り眺めていると、ゆったりとしたチノパンを履いたヒューイが部屋に入って来る。
　上半身は裸で、何となく俺は目を逸らしてしまう。

「今日は悪かったな。疲れただろ」
　ヒューイがタオルで髪を拭きながら、ベッドに座る。
　安物のパイプベッドはヒューイが座っただけで、悲鳴みたいな音を立てた。
　ヒューイがあくびをする。
　枕元の時計は深夜二時を指していた。
　ヒューイに手招きされて近づくと、腰を抱かれ、腹に顔を押しつけられた。

「俺は疲れた」
　腹からくぐもったヒューイの声が聞こえる。
　俺はどうするのが正解なのか分からないまま、ヒューイに手を伸ばし、優しく頭を撫でた。