vamps

127

　ヒューイは俺の髪を撫でると、こめかみにそっと口づけた。

「すぐ戻る」
　去っていくヒューイの背中をじっと見つめた。
　やはり最近のヒューイの行動は甘い。　
　だが、きっと意味などないんだろう。

　俺はため息をつくとメロンソーダをずずっと啜った。
　ふいに目の前の席に人が座る気配がした。
　顔を上げ、俺は息を飲んだ。

「やあ」
　パーティーでシュリを襲ったあの綺麗な男だった。
　俺は彼を認識した途端、机上のスマホに手を伸ばした。
　警察に通報しなければ。

「ああ、ダメダメ。俺の仲間が近くに待機しているんだ」
　男はそっと２つ先にあるテーブルに視線をやった。
　そこにはあの晩、キースと呼ばれていた男が座っていた。

「俺がちょっと目配せするだけで、あいつはここで大暴れするだろうね。そうしたら関係ない人達が大勢巻き込まれて、怪我しちゃうんじゃないかな」
　俺のすぐ傍のソファ席では、ぐずった赤ん坊をあやしている母親らしき人物が見える。
　その向かいではカレッジの学生だろうか。
　男女のカップルが顔を寄せ合い楽しそうに話していた。
　こんな場所でヴァンプが暴れたら一体どうなるか。

　俺は唾を飲むとスマホに伸ばしかけた手を引っ込めようとした。
　その手を男が掴む。
「俺はルディ。よろしくね」
　無理やり握手をされ、俺はその手を振り払った。

「どういうつもりだ」
　俺に睨みつけられても、ルディはまるで上機嫌みたいに笑っていた。
「言ったじゃない。またねって。忘れちゃった？　」
「何で今頃」
　得体のしれない男に本能が恐怖を覚えていた。
「ああ、待たせたのは悪かったね。こっちも色々忙しくてさ。さあ、一緒に行こう」
　ルディが満面の笑みで俺に手を差し出す。