私の番の香り

まめ太郎

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「体に力が入らなくなっちゃって、貴一に抑制剤を打ってもらっていたの」
 お義母さんが言う。

 貴一さんはこちらに足早に近づくと、俺の肩に手を置いた。
「怪我はないな?」
 貴一さんに問われ、俺は無言で頷いた。

「それにしても貴一はよく私たちの居場所が分かったわね」
 お義母さんが服を直しながら、体を起こした。
「母さんの匂いなら、どこに居たってわかりますよ」
「あらそうなの?でも貴方が気付いてくれて本当によかった」
「甘い匂いを感じた瞬間、直ぐに自分に抑制剤を打ちましたからね」 
 俺は二人の会話が胸に刺さり、顔を歪めた。

「瑞樹。具合が悪いんじゃないのか?顔が真っ青だ」
「大丈夫。ちょっと疲れただけだから」
「貴一。私はもう大丈夫。瑞樹ちゃんと先に帰っていいわよ」
 俺は貴一さんのスーツの二の腕に触れた。
「俺は本当に平気。貴一さんはお義母さんを送ってあげて」
 そう言う俺の顔を貴一さんが探るように見る。

「お母さん、お手伝いさんとオメガが運転手のタクシーを呼びます。僕らは帰りますけど、何かあったらいつでも連絡してください」
「貴一さん」
 俺は咎めるよう名を呼ぶ。
「分かったわ。瑞樹ちゃん、今日はこんなことになっちゃってごめんなさいね。これに懲りずにまた遊んでくれると嬉しいわ」
「お義母さん本当にお一人で平気ですか?」
「直ぐにお手伝いさんが来てくれると思うし、大丈夫だから、帰って。疲労は妊婦に良くないのよ」
 そう言われて、俺は渋々部屋を後にした。

「お義母さん平気かな?」
「あの人はちゃんと自分の体質を分かってる。こんなことは初めてじゃないから、大丈夫だよ」
 貴一さんはそう言うと、俺の肩を抱き、駐車場へ向かって歩き始めた。

 俺を車の助手席に乗せると、自分は運転席に座り、貴一さんは俺のシートベルトを先に締めた。
「ねえ、やっぱりお義母さんを送っていってあげて。俺がタクシーで帰るから」
 俺がそう言うと貴一さんは首を振り、ハンドルを握った。

「本当に心配しなくていい。それに親父だって、息子とはいえ、自分の番のヒート中にアルファの雄を近づけたくはないはずだ」
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