クロスオーバー・ラブ

黒崎由希

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気がついたら、上司と…12

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 どうしよう、という躊躇いが、快斗の胸をさざ波立てる。

 しかし一歩も引く気配を見せない斎藤の手は、快斗から離れそうにない。

 徐々にだが、そこから伝わってくる熱に焦らされたまらなくなった快斗は、生唾を飲み込み――胸に過った言葉を、放った。


「するん、ですか…?」


 セックスしますか、だなんて、どんな場合であっても、滅多に口にしたりしないだろう。


 しかし踏み留まるのならば今、ここから先に進んでしまったら『やっぱ駄目』という訳にはいかなくなる、という確認をしなくてはならないだろう、と思い言葉にした快斗の耳が、熱を灯したような色に染まった。


(恥ずかしい)


 斎藤が何をお望みなのかは分からないが、身に余る羞恥に耐えながらも固唾を飲んでいると、

「何を、どうしたらいいのか…教えてくれるかな?」

 という斎藤の低音が快斗の耳朶を掠め――快斗は、背筋を震わせた。



 ――…これで…決まった。



 ここで終わりにして、無しにするという快斗の提案は、斎藤の一言で却下された。


 即ち、もう…後戻りをしないということを、意味する。


 …と、なれば、だ。


 快斗にできることは、箍を括る――それだけ、だった。


「課長…ゴム、持ってますか?」


 斎藤は、タブーに触れる行為をすることに、ゴーサインを出した。


 相手は上司、しかもずっと心を添わせていた人から求めているのだから――快斗に拒絶する権限など、元よりないのと同じだ。


 それに、だ。


 求められることに幸せを感じるのは、同性であっても異性であっても、変わりない。


 だから快斗が今すべきことは、覚悟を決めることだけ…という気持ちから、斎藤に尋ねる言葉を放ったのだった。

「…」

 すると斎藤は快斗の手首から手を離し、濡れた下半身を強引に仕舞い込むと、静かに快斗の傍から離れて行った。



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