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16 立花颯と笑い合う

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 中庭が見えてくると、そこにはトランペットを握った立花が立っていた。風に揺られる髪を少し抑えた心菜は、鼻歌混じりに立花の横に立った。もう少しでエンドだ。

「………青く光る、一瞬の煌めきを」

 心菜はこの言葉も好きだ。青春を謳歌することが許される気がする。勉強以外に取り組むことを許される気がする。心菜のこの瞬間こそが、一瞬の煌めきであると全てを肯定されている気がする。
 最後の1小節だけを口にした心菜は、少しだけ口の端を上げた。

「ーーーお前、歌ド下手だな」

 トランペットを下ろしてすぐに、真っ直ぐ前を見て堂々とトランペットを吹いていた彼の表情が残念な方向に意地悪に崩れた。彼のトランペットを吹いている時の表情はびっくりするくらいに混ざりが無くて綺麗だった為に、心菜は心の底から勿体無い、もっと見ていたかった、と思った。彼の表情はとても真剣で、それ以外の一切の混ざった色がない美しい孤独な『白』のようだった。

「ひどい!ま、分かってるけど。私、あんまり人前で歌わないんだよ?」
「いや、これはマジやばい。結構な人数気絶すんじゃね?」
「………そこまで酷くはないわよ。失礼ね」

 でも、馬鹿馬鹿しく笑い合うのも楽しかった。何故か彼には思っていることを心菜はストレートに言うことができた。彼ならば、滅多なことでは傷つかない。嫌なことは嫌と言ってくれる。たった2日の付き合いで心菜は彼がそんな人だと信頼していた。

「………コンビニ、行こう」
「あぁ、行こっか。楽しみだなー、スイーツ」

 立花は手早くトランペットをケースに仕舞って中庭のベンチから立ち上がった。

「そうだね。今回はどんなのなんだろう」
「え?久遠は知ってんじゃないのか?」
「うぅん、知らない。いっつも見ないようにしてるんだ。私、蜜柑と苺味のチョコとミント、あとレーズン以外のスイーツなら何でも食べられるから」
「いや、それほとんど食えねーじゃん!!」

 立花のツッコミに、心菜はふむふむと頷いた。確かに蜜柑と苺のチョコが食べられないダメージは大きい。4月の新作は必ずと言っていいほど苺チョコが多いし、オレンジピールも色々な物に入っている。

「そうとも言うかもしれない」
「にゃは、にゃははははっ!!」

 立花の笑顔に、心菜は居心地が悪くなってふいっと視線を横にずらした。

 ーーそして、ものの数秒で道に迷った。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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