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30 心菜の勝利

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「立花、分かってると思うけど、」
「あぁー、はいはい。久遠が奢るんでしょ。ちゃーんと分かってるって」
「なら、いいけど」

 心菜は訝しげながらも、品の良いカフェの中を他のお客さまの邪魔にならないように、チラリと見渡した。見たところ5人座れる席は3つ空いている。席取りをしなくとも大丈夫だろう。

「じゃあ、個人で買おう」

 優奈の1言でみんな散り散りになって、各々が注文したいメニューを見始めた。心菜はそっと立花の隣に立った。そして彼のことをさりげなく観察した。すると、彼の視線の先には『今の時期限定』と書いてあるこのお店で最も高いフラペチーノがあった。
 お財布には優しくないが、昨日奢るはずだった金額よりは数百円安い。お値打ちだろう。他には………、あのスコーンかな?

「すみません。コレとコレ、あとチョコチップスコーンを2つお願いします」
「えっ!?ちょまっ、」
「待たない」

 立花の静止の声も無視して、心菜はセルフのお金投入口にジャストの金額をポイっポイっと突っ込んだ。
 コレで彼も手が出せまい。心菜は悪い笑みを浮かべた。作戦大成功だ。今日は母親にめいいっぱい感謝を伝えよう。密かに決意を固めた心菜は、フラペチーノ2つが用意されるのをぼーっとした気持ちで眺めた。

「610番でお待ちの苺オレフラペチーノとキャラメルラテフラペチーノ、チョコチップスコーンの方ー!!」

 心菜はちらりとレシートを一瞥してカウンターにテクテクと歩いていった。ずっしりと重たいプレートには、苺オレのフラペチーノとキャラメルラテのフラペチーノ、あとチョコチップスコーンが2つ乗っている。心菜は生粋のチョコレートオタクだが、フラペチーノは何故かキャラメル派だ。

「あ!ちょっ!!私がっ!!」
「………せめてこれくらいは持たせてくれ」

 懇願するように言う立花に、心菜はむすぅーっとほっぺを膨らませたが、やがて大人しく彼にプレートを渡した。よほど奢られたことにショックを受けたらしい。
 心菜は苦笑してからキョロキョロと辺りを見回した。すると、窓際の席で手を振っている優奈と新谷、有栖川を発見した。どうやら心菜と立花以外はもうお会計を済ませて席取りまでしてくれていたらしい。
 心菜は立花の服の袖をくいっと引いて、3人の居場所を伝えた。

「行こ」
「あぁ、そうだな」

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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