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80 願いを込めて

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 ポーズを決めて、心菜は心の中で吐き捨てる。恋人よりも友人の方が何倍も大事な心菜には、恋なんてものは必要ない。1番の歌詞の終わりが来て、心菜は難関ステップをどうにかこうにか踏み始める。見苦しくても、やるしかないのだ。
 女は度胸と言い聞かせながら、心菜は必死になって踊り続けた。

『愛を愛し、恋に恋する』
(僕らはそうさ人間さ)

 口ずさむと、なんだか不思議な気分になって、心菜はくるんと軽やかにターンできた。
 愛を裏返し、故意に恋する彼らも同じ人間であるという歌詞に合わせて、心菜はもう1度ターンをする。
 2番までの間に移動しなければならない心菜は、もつれる足でドタバタと本部前へと走った。最低最悪の場所でのダンスの開始だ。


『「僕って人はこんな人」そんな風に言えたらな~』

 2番の歌詞は自信満々な人に憧れる人からの視点で始まる。心菜は自信満々の人の心というものが全く持って分からない。近くに自信満々でしか動けないお馬鹿ちゃんががいるのだから、多少は分かるだろうと言われるが、分からないものは分からないのだ。心菜は1番と同じ振り付けを黙々と踊りながら、でも、次の歌詞は少しだけ納得できると頷いた。

『頭抱える独りの夜は、こまやかに揺れる花であろう』

 花のように繊細な心の持ち主ではないが、それでも心菜はよく夜中に布団でバタバタと身悶えることは多々ある。あがり症なわけではないのに、失敗してしまうと、心菜は人よりもずっとずっとうぎゃにゃあああぁぁぁ!!となってしまうのだ。
 心菜は踊る。

『狼の様に強気で居たいのでもその自信は見当たんないの』

 なりたい自分の願いを込めて、心菜は思い思いに手と足を伸ばす。不恰好でも、どうしてもこの歌詞の部分は思いっきり踊りたい気分になるのだ。

(ドクドク独特な苦もあって)
『勇気を出し触れてみる。心動いたなら、あなたに恋する』

 心菜は『恋』という感情が分からない。そして、触れて見ようとも思わない。でも、憧れる気持ちがないと言えば嘘になる。心菜はすっと優奈と視線を合わせて、2人で踊るステップに入る。

「僕を見てみて欲しいのです」
「僕に気づいて欲しいのです」

 心菜の言葉に、優奈が返事をするように歌う。ちょっと歌ってもバレないのが、運動会のダンスのいいところだと音感はあるのに、音痴な心菜は思っている。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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