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86 競技の終わり

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「耐えろ!!久遠!!」「頑張れ!!ここな!!」
「「走れ!!」」

 こけかけて目を瞑った瞬間、さっきまで最高学年でありながら、みっともなく追いかけっこをしていたはずの立花と優奈の息の揃った叫び声が聞こえた。心菜はその声にびっくりして目を見開きながらも、大きく1歩を踏み出し、転倒だけは必死になって逃れた。心菜が体制を整えたことで、心菜の靴を踏んづけた後ろの子がこけた気配がしたが、今はそれどころではない。心菜は最終走者であるクラスメイトの男子へと、最後のバトンをつなげた。

(これで、正真正銘の運動会の競技の終わりね)

 空虚なつぶやきを心の中で呟いた心菜は、最終走者の応援を一切せず、ただただ真っ青な美しい青空を見上げて、どうしようもなく上がりきってしまいって使い物にならなくなってしまった身体をどうにかするために、肩で息をするのだった。

▫︎◇▫︎

 結果から言えば、心菜のクラスの運動会の結果は応援が1位、装飾が2位、競技が2位、そして総合2位だった。正直に言って皆とても悔しい思いをしていたが、それでも泣きながら揃って笑っていた。中学生最後の運動会、笑って楽しまなければ損だと思ったのだ。泣いて悔しがって終わるのは、とても虚しくて悲しい。そんな思いは、どのグループにもあったようで、皆やりきったと笑い合っている。
 心菜はそんな雰囲気を持っているクラスメイトを遠目に眺めながら、1人運動場の芝生になっている片隅でぼーっとしていた。足がパンパンで、もう1歩も歩けそうにない。ゴロンと転がりたい衝動を必死になって押さえつけて、心菜はゆったりとした足取りでこちらに向かってくるにふわっと笑いかける。

「どうしたの?。そんな辛気臭い顔でこっちにくるなんてらしくないよ。あなたは応援団長で、今回唯一1位をとった競技の功労者なんだから」
「………だからここに来ちゃダメだってか?それこそ馬鹿馬鹿しい。そんな物言い、お前らしくないぞ」

 どすっと横に座ってきた立花を横目に見た心菜は、ぎゅっと膝を抱えてどこまでも広がる美しい青空を見つめる。日焼けによって肌がヒリヒリと痛むが、それさえもなぜか心地よく思えて、心菜は末期だなと自嘲した。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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