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118 心菜の帰宅

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 ゆらゆらとゆりかごのように背中を揺らしながら学校を出発した立花を見つめながら、心菜はそっとくちびるを彼の耳に近づけて秘密を話すかのように質問する。

「………重いでしょう」
「いいや?軽いよ。俺の弟よりもずっと軽い」
「………………なんか複雑」

 心菜は2度だけ見たことのある、彼よりもガタイのいい彼の弟を思い出して、ぷくうぅーっと頬を膨らませた。

「………ねえ、私のお家わかってる?」
「分かってなかったらおくってねーよ、ばーか」

 むうっとくちびるを尖らせた心菜は、辺りをきょろきょろと見回して、不思議そうに首を傾げた。

「ここどこ?」
「………お前の家の10メートルくらい前だよ、ばか」
「へ?………うそっ!ここが私の家の近所!?」

 心菜は蛍光灯だけが頼りになっている住宅街を見回してあんぐりと口を開けた。

「………近道を通ったから、お前には見覚えがないんだろう」
「フォローになっていないわ!!」

 近所迷惑にならない範囲で抗議の叫びを上げた心菜は、むうっとくちびるを尖らせてとんっと立花の背中に身体を預けた。

 ーーーこん、こん、こん、こん、

 規則正しい足音に耳を傾けながら、心菜は眠たくなる目をこすこすとして、必死に眠気を逃した。

(うぅー、眠たくない。眠たくない………!!)
「………お子ちゃま久遠、寝るなよ?というか、よだれをこぼすなよ?」
「………あなたって私を怒らせるのがとっても上手よね」

 心菜はじとっとした視線を立花に向けると、ふんっとそっぽを向いた。

「………………でも、今日だけは許してあげる。連れて帰ってくれてありがとう」

 そう耳元で呟くと、心菜はとんっと立花の背中から飛び降りた。

「はいよ、鞄」
「ん、」
「じゃあな」
「………じゃあね、立花。………………今日は本当に、ありがとう」

 顔を、耳を、首を、肌全部を赤く染め上げた心菜は、彼の背中に熱っぽい声をかけてから、家の中に早急な仕草で入って行った。

 ーーーガチャンっ、

「あああああぁぁぁぁぁぁあああああ!!恥っ!!」
「うっさい、ここな!!」

 『ただいま』も言わずに奇声を上げた心菜に、心菜の弟が不服そうな声で叫び声をあげる。夕食前で不機嫌になっていることもあって、この時間の弟は面倒くさいのだ。だから普段は刺激をしないようにしている心菜だが、今日ばかりはそんな気遣いができなかった。

「………クソガキは黙っとけ!!」

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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