上 下
121 / 144

120 心菜はちょっと理解できない

しおりを挟む
 受験生チームの中でもトップクラスの学校を受けることを決めている2人は、地頭が良くて、それでいて努力家であることを心菜はよく知っていた。だが、だからこそ、いつも尊敬していたのだが、流石にこれにはびっくりしてしまった。普通、通学中に単語帳を開くだろうか、小説を開くだろうか、心菜にはさっぱりその心理が理解できない。受験生が1分1秒を無駄にしたくないという思考を持つのは、さすがにわかる。けれど、だからといって、普通通学時間を潰すだろうか。心菜にはその心理がどうしても理解できなくて、頭を抱えてしまった。

「うっひゃー、羨ましい。私も携帯持ってこれたら、長良通学するのにな~」
「………ねえ、ゆーなちゃん、それガチで言ってる?」
「うん、ガチだよ?」

 友人の神経さえもよくわからなくなってきた心菜は、うぐーっと頭を抱えたくなった。

「おっ!高梨に久遠じゃん!!おっはよー!!」
「おっはよー!!」
「おはよう、有栖川」

 優奈と心菜がぴょこっとジャンプするように現れたのを横目に見ながら、順番に挨拶を交わすと、有栖川はそれまで優奈と心菜が視線を向けていた方向に視線を向けた。

「おっ!新谷に門川じゃん!!ーーーてか、あいつらなにしてるわけ?」
「………勉強じゃないかな?」

 心菜が苦笑しながら返すと、有栖川は途端に顔色を悪くした。受験シーズンに向けて塾の追い込みが激しくなるという予定表を塾からもらっていた有栖川は、絶賛お勉強イヤイヤ期に突入していたために、どうやら2人の思考が理解できなかったらしい。

「うげー、」

 顔を思いっきり顰めている姿からは、彼の思考が最も簡単に読み取れた。心菜は苦笑した後に、きょろきょろと辺りを見回した。

(………立花はいないわね)

 あからさまになりすぎないように探していたつもりだが、次の瞬間に優奈ががしっと心菜の肩を掴んだ。

「だ、誰を探していたの!!ここな!!」
「にゃっ!?」

 素っ頓狂な悲鳴をも意に解さない優奈は、この後、朝読書を始める合図のチャイムが鳴るまでずっと、心菜に根掘り葉掘り聞き続けてきていたのだった。

(も、もうイヤあああぁぁぁ!!)

 チャイムが鳴ったことで渋々席に帰った優奈は、叫び声すらも上げそうになるくらいに追い詰められた心菜の心理には、一切気がつくことがなかったのだった。

********************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む

処理中です...