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あれから一週間
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私は毎日部屋に連れ込んだミンクを思う存分、もふりたい時にひたすらもふもふしていた。
最初の頃は色々と反抗していたミンクも私に敵わないことを理解したのか、最近では持ち上げると準備万端に身体の力を抜いてくったりとしてくれる。
極論、私のもふもふっぷりに緊張するよりもそっちの方がよっぽど楽だと実体験で学習したらしい。
変に力が入ってると私ももふもふし辛いから、この学習は助かる。
ついでに、小屋の方に居るミンクの群れに関してはリーダー格の子を最初にもふもふしたからか、毎日顔を出すたびにその子が最初にもふもふされに来て、次に若い子から引きずってきてもふもふさせてくれるようになった。
おかげで一週間経つ頃には群れの半分くらいは私のもふもふの虜だと言う。
本当かは分からないけど、一応、好奇心が強い子などは自分から私のところに近づいてくる子も出てきた。
手を差し出すと後ろ脚で立ち上がって両手をぽんっと私の手に置いてくれる。
もふもふがッ! 初めてッ!! と、スキルを得た翌日に小屋に行ってリーダー格の子にされた時に散々悶えた。
そのモダモダは寄ってこない半分の子たちに恐怖を与えたらしいけど、これは手元に連れてきたミンクの言い分である。
「さて、今日はちょっと森に行ってみようかしら」
「きゅ?」
私の膝に乗って朝一番のもふもふをされていたミンクが止まった手に首を傾げた。
それを見て、ふわぁーッ! となった私が再びもふもふを再開してしまったので、その時点でミンクは蕩けてしまったので一旦棚上げとなったのは言うまでもない。
閑話休題。
「ミレイー」
「あら、この時間にリーフが来るなんて珍しいわね。どうしたの?」
「うん。そろそろ完全な野生動物に対してもスキル使ってみたくて、森に行きたいんだよね」
「行く前に言いに来ただけ褒めるべきなのかしら?」
ミレイの家でもある食事処に顔を出して、丁度休憩に入ったらしいミレイに目的を伝えたらすごく呆れた目をされた。
そんな目しなくても良くない? ちゃんと言いつけ通りに言いに来たのに。それに、今日は森の入り口見るだけのつもりだしさ。
むぅっと思わず唇を突き出したらミレイの細くてきれいな指がぎゅっと唇を摘まんできた。
「んんーーッ!」
「不満そうな顔するからでしょ。どうせ入り口だけだしとか思ってるんでしょうけど、十中八九もふもふが目の前を横切って森の奥に消えたらあんたはそれを追いかけてついてくわ」
「ぐぅッ」
「ほらみなさい、反論できないじゃない。だから呆れてるんでしょ」
何年貴女と幼馴染してると思ってんのとぶちぶち言いながらも、摘まんでいた手を放して奥に入っていく。
口元を摩りながらミレイを待っていると、鞄に詰め込んできたミンクがひょこりと顔を出した。
ミンクの首にはちゃんと首輪があるし、その首輪にはリードが付いてて私のベルトと繋がってる。
通常は引っ張っても切れない丈夫な物だけど、非常時にはミンクでも噛み切ってしまえる特殊なリードだ。最近出かける時にも連れ歩くから、父さんがこれを使いなさいってプレゼントしてくれた。
大変ありがたいけど、結構いいお値段のはずなので自分のスキルを有効利用する手段が思いついたら稼いで返そうと思う。
別に両親は金にがめついわけじゃないし、娘にプレゼントした品物について金返せとか言ってくるような人柄でもないからこれは私の自己満足。
だけど、私としては自分の趣味については親のお金を使うのは何となくルール違反。マイルールだから他の人がどうかは知らないけど。だからこのリードの分はいずれちゃんと返したいと思ってる。
まぁ、それはさておいて、ひょっこりと顔を出したミンクはそのまま器用に服の皺を利用して肩まで登ってくる。
「きゅ」
「ミレイから許可が出ないと森に行けないのよ。内緒で行ったら後で大目玉だもの」
言葉が読み取れなくても今のミンクの言いたいことは判ったわ。何してんだ、よね。
わかってるけどミレイって怒ると怖いのよ。怒鳴りつけてる間は怒りはそんなに大したことないんだけど、本気で怒る時は静かに怒るのよ。
まぁ、怖くても怒らせてしまってもやらないといけない時はやるけど、毎回怒りが引くまでに結構時間がかかるのよね。
どうしてもそれが必要だったって理性が判っても感情が納得してくれるかは別問題だもの、そこは仕方ないんだけどその間の塩対応は心に痛いのよね。
何となく呆れた雰囲気になったミンクに気付いて、おもむろにむんずと首根っこを捕まえて手に取ると視線を合わせる。
「呆れてるけど、止めなかったらあんたも怒りの対象になるのよ?」
『ソノマエ、ヤメル。イッテモ、ヤメナイ、リーフ』
「そうね、その通りね。だから、あんたも一緒に怒られるのよ?」
怒られる前にやめろ、やる時は言ってもやめないだろう、そう言いたいのは単語で片言でも判ったけど、だからこそにっこりと巻き添え宣言をしておく。
絶句したミンクに満足して鞄に入れ直すと、エプロンを置いて着替えてきたミレイがデュランを呼びに行くわよ! と言って先にお店を出ていく。
後を追いかけて隣に並ぶと、まったくもう、と言いながらも付き合ってくれるミレイに顔がゆるゆるとだらしなく崩れていく。
「えへへへへ、ミレイ、ありがと!」
「仕方ないでしょ、幼馴染だもの」
嬉しくなって腕に飛びつくみたいに抱き着いてお礼を言ったら、ちょっと照れ隠しな拗ねた表情をしながらもツンッとそっぽ向いて応えてくれた。
その後はミレイに引っ付いたままデュランのところまで歩いて行ったんだけど、丁度外に出てたデュランに見られて凄い馬鹿にしたような視線を貰ったのでとりあえず一発脇腹を突いといた。
何も言ってないだろって叫んでたけど、デュランの目は口以上に良く判るんだよ。
ミレイにも呆れながら一言多いって言われてて、やっぱり何も言ってないだろ?! って叫んでたけどほっといた。
デュランは口は寡黙だけど目とか醸し出す雰囲気がとってもわかりやすい。ついでに、さっきの馬鹿にしたような視線は多分ヤキモチだな。
何を隠そう、デュランの好きな人はミレイ、ミレイの好きな人はデュランだ。本人たちは隠してるつもりみたいだし、お互いに気付いてないっぽいけど時々そういう雰囲気があるんだよね。
でもなんか遠慮してるわけでもないんだけど、幼馴染期間が長すぎてどっちもきっかけがつかめない感じなのかな?
まぁ、お邪魔虫な私も存在してるから余計かもしれない。
村の中では公然の秘密だ。本人たちが動かないのに周りがとやかく言うというおせっかいはしない、出来た大人の集団なのがありがたいよね。
それはさておこう。ちょっとよそ見して考え事してる間に、デュランも出かけてくるって言ってきたみたい。
いつも森に入る時に下げてる剣を腰に差して、簡易の防具もつけてきた。どこまで万全装備よ。
流石に、本当に私だって奥まで走って追いかけたりしない程度には理性あるわよ?
「ねぇ、なんでデュランはそんなに重装備なの? 森の入り口に行くだけだってミレイ言ってたでしょ?」
「勘だな。きっとお前が奥まで走っていくようなことがある」
「ええ……何その嫌な予想。デュランの悪い予感ってなかなかの的中率だから、その嫌な勘は外れて欲しいわ」
「ミレイもデュランも酷い。何のためにもふもふ連れてきたと思うのよ!」
思わず突っ込んだら、予想以上に酷い返答を貰った。
今までの行動が全てを物語ってるのは判ってるんだけどね、自覚はあるんだけどさ?!
拗ねるわよ? 思わずがっしと鞄の中で寝てたミンクを鷲掴んで二人の目の前にずずいっと差し出したら、二人とも微妙な顔したから反射的に頬がぷくっと膨らんでしまう。
この顔は絶対信用してない顔。間違いない。でも、本当に抑止力の為に連れてきたのよ、このミンク。
森の入り口付近ではもふもふさせてもらう予定なんだから、きっと何もないと思うんだけどな。
安定の私にとって微妙な信用を今回は裏切りたいと思いつつ、これ以上ここで話しても仕方がないということで村を出て少し先にある森に向かった。
私の家は村とは反対の出口付近、敷地が一番森に近い場所にある。
これはミンクの世代交代を自然のままさせるために、曾祖父だかそれより数代前の先祖だかがその場所を当時住んでいた人に頼んで自宅場所と交換して貰ったからだ。
土地の売買とか基本的にしないし、その前の所有者は幸いにもうちの前に住んでいた土地付近に越したかったらしいから渡りに船だったんだって。
そんな感じでその場所を譲り受け、更に村長さんへ許可を貰って一部を森に繋げるような風に広げて出来たのが今の土地。かなり頑張ったって聞いてる。
でも、おかげで本来なら人間が飼育したミンクは一代限りで居なくなるなんてこともなく、ミンクの繁殖とその毛皮を自然の摂理に乗っ取って手に入れる方法を手にしたって話。
その話を聞いた時は、絶対その先祖だか曾祖父だか会ったことない人は私の同類だって思ったわよね。
まぁ、実際にはその人は金儲けに目がなかったとかいう話だけど、それも本当かわかんない。
何しろ父さんと母さんの頃には亡くなってたって話だからね。そこは置いておこう。
「それで、何をしに行くんだよ」
「森の入り口にもふもふを探しに!」
「……探してどうすんのかって聞いてんだよ」
「うーん、まずもふもふが入り口に居るかもわかんないけど、ちょっとスキルを一つ試したいんだよね」
呆れ切った顔で問い直されたけど今更気にしないので、どう説明するか考えつつ返事をしたらふぅんと気のない返事が来た。
いや、聞いたならもう少し何かないのか? 良いけど。ミレイの方は特に何も言わないのは最初から分かってるからですよね。
デュランよりも私の事把握してるのはミレイなんですよ。デュランは私の物理的なストッパーなんだけど、私の行動先読みして止めるのはミレイの方が確実。
だから私が森に行くときは絶対に二人に言う様にって言われてるんだよね、主に両親に。信用ないのはシカタナイネ。
そんなこんなで森の入り口に到着すると、ここ一週間ほど私が来ていなかったからか油断しまくったもふもふがいくつか……ウフフ。
ハートが飛んでそうな勢いで笑いが漏れちゃうけど、ここはすぅっと気配を消しましょうねぇ。
ふっと気配が薄くなった私に気付いたデュランがちらりとこちらを見て、呆れたよなため息を小さく吐いた。
まだ気づいてないもふもふへの配慮なのは間違いない。鞄に入ってるミンクが驚いて顔を出したけど、この子は私の気配消し知らなかったんだっけ?
まぁ、これはスキルじゃない。野生のもふもふを捕獲してもふもふしたいがために、独学で身に着けた狩人さんとかの技である。
スキルじゃなくてもある程度は修行すれば出来るんだって知った時からめちゃくちゃ頑張ったからね! デュランとミレイに呆れられたのはもうずっと昔よね。
ある程度気配を消せれば森の入り口付近まで来るような小さなもふもふにはよっぽど気付かれない。
多少の人慣れをして、時々餌などもかっさらっていくようなもふもふ達だからね。野生と言えど人の気配を察知するのに長けているという自負があるらしい。
そっと足音も消して片手に掴めるコリスに近づく。ちょうど落ちていた木の実を拾ってご満悦っぽい。
タイミングを見計らって気配を現した瞬間に視線を合わせると、この子もやっぱり一週間前のミンクたちみたいに固まった。
『ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!』
「うふふー、つーかまえたッ!」
『ギャーーーーーーーッ!!』
プルプルと動けないのに反射的に震える小さな体を鷲掴んで持ち上げると、多大な悲鳴を上げたっぽいけど視線が外せなくて固まったままのコリス。
思ったよりもスキルの効果はあるみたいだけど、これは手のひらサイズの小さな個体だからかもしれない。
まぁ、今日はとりあえず野生にスキルが通用するかを見たかったから問題ないかな。この辺で捕獲できるのは大きくても中型の犬っぽい魔物までだから何日か通ってその辺りまではスキルを使えるか挑戦したい。
それはさておき、せっかく捕獲したのでもふもふをもふもふするためにコリスの持ち方を変えてその身体をまずは触診してみる。
視線を合わせたまま一通り指先で触診をしてみると、片方の足に怪我をしているのか違和感があった。
「アナタ、怪我してるわね?」
『イタイ! イタイ!!』
「怪我して数日ってところかしら? 骨折まではしてないけど、ちょっとおかしいのが判るわ。これ、私のスキル通用するかしらね」
「お前のスキルって?」
「私、もふもふを魅了することと癒すことと感情を把握するスキルを貰ったのよね。それで、この一週間うちの家畜たちとかも使って色々試したらちょっとスキルが成長したみたいなの」
「へぇ? もう成長したのか? 確かにスキルは成長するって話は出てたが、それも何年もかけて奇跡的になるとか言われてるだろ?」
触診を続けながらもコリスに声を掛ける。痛みがあるのか痛い痛いと叫んでるけど、多分ミレイとデュランには鳴き声にしか聞こえてない。
ただ、デュランが私の言葉を聞いていて引っ掛かったのか聞いてきたから、端的に貰ったスキルの内容を伝えて現状を補足する。
そう、私のスキルはうちの子たちをもふもふしまくった結果、すこーし、本当にほんのすこーーしだけど進化し始めていた。
今手に乗せているコリスにそのスキルの効果が出るかどうかはやってみないと分からないけど、上手くすれば一段階出来ることが広くなるかもしれないチャンスだ。
デュランの疑問の声が後ろから聞こえてきたけど、私にはもうその問いかけに返事をする気はなかった。
その疑問には後でも答えられるのだから、今は目の前の子に自分のスキルが多少でも影響を与えるかを試してみるのが私の中の最優先になっていた。
最初の頃は色々と反抗していたミンクも私に敵わないことを理解したのか、最近では持ち上げると準備万端に身体の力を抜いてくったりとしてくれる。
極論、私のもふもふっぷりに緊張するよりもそっちの方がよっぽど楽だと実体験で学習したらしい。
変に力が入ってると私ももふもふし辛いから、この学習は助かる。
ついでに、小屋の方に居るミンクの群れに関してはリーダー格の子を最初にもふもふしたからか、毎日顔を出すたびにその子が最初にもふもふされに来て、次に若い子から引きずってきてもふもふさせてくれるようになった。
おかげで一週間経つ頃には群れの半分くらいは私のもふもふの虜だと言う。
本当かは分からないけど、一応、好奇心が強い子などは自分から私のところに近づいてくる子も出てきた。
手を差し出すと後ろ脚で立ち上がって両手をぽんっと私の手に置いてくれる。
もふもふがッ! 初めてッ!! と、スキルを得た翌日に小屋に行ってリーダー格の子にされた時に散々悶えた。
そのモダモダは寄ってこない半分の子たちに恐怖を与えたらしいけど、これは手元に連れてきたミンクの言い分である。
「さて、今日はちょっと森に行ってみようかしら」
「きゅ?」
私の膝に乗って朝一番のもふもふをされていたミンクが止まった手に首を傾げた。
それを見て、ふわぁーッ! となった私が再びもふもふを再開してしまったので、その時点でミンクは蕩けてしまったので一旦棚上げとなったのは言うまでもない。
閑話休題。
「ミレイー」
「あら、この時間にリーフが来るなんて珍しいわね。どうしたの?」
「うん。そろそろ完全な野生動物に対してもスキル使ってみたくて、森に行きたいんだよね」
「行く前に言いに来ただけ褒めるべきなのかしら?」
ミレイの家でもある食事処に顔を出して、丁度休憩に入ったらしいミレイに目的を伝えたらすごく呆れた目をされた。
そんな目しなくても良くない? ちゃんと言いつけ通りに言いに来たのに。それに、今日は森の入り口見るだけのつもりだしさ。
むぅっと思わず唇を突き出したらミレイの細くてきれいな指がぎゅっと唇を摘まんできた。
「んんーーッ!」
「不満そうな顔するからでしょ。どうせ入り口だけだしとか思ってるんでしょうけど、十中八九もふもふが目の前を横切って森の奥に消えたらあんたはそれを追いかけてついてくわ」
「ぐぅッ」
「ほらみなさい、反論できないじゃない。だから呆れてるんでしょ」
何年貴女と幼馴染してると思ってんのとぶちぶち言いながらも、摘まんでいた手を放して奥に入っていく。
口元を摩りながらミレイを待っていると、鞄に詰め込んできたミンクがひょこりと顔を出した。
ミンクの首にはちゃんと首輪があるし、その首輪にはリードが付いてて私のベルトと繋がってる。
通常は引っ張っても切れない丈夫な物だけど、非常時にはミンクでも噛み切ってしまえる特殊なリードだ。最近出かける時にも連れ歩くから、父さんがこれを使いなさいってプレゼントしてくれた。
大変ありがたいけど、結構いいお値段のはずなので自分のスキルを有効利用する手段が思いついたら稼いで返そうと思う。
別に両親は金にがめついわけじゃないし、娘にプレゼントした品物について金返せとか言ってくるような人柄でもないからこれは私の自己満足。
だけど、私としては自分の趣味については親のお金を使うのは何となくルール違反。マイルールだから他の人がどうかは知らないけど。だからこのリードの分はいずれちゃんと返したいと思ってる。
まぁ、それはさておいて、ひょっこりと顔を出したミンクはそのまま器用に服の皺を利用して肩まで登ってくる。
「きゅ」
「ミレイから許可が出ないと森に行けないのよ。内緒で行ったら後で大目玉だもの」
言葉が読み取れなくても今のミンクの言いたいことは判ったわ。何してんだ、よね。
わかってるけどミレイって怒ると怖いのよ。怒鳴りつけてる間は怒りはそんなに大したことないんだけど、本気で怒る時は静かに怒るのよ。
まぁ、怖くても怒らせてしまってもやらないといけない時はやるけど、毎回怒りが引くまでに結構時間がかかるのよね。
どうしてもそれが必要だったって理性が判っても感情が納得してくれるかは別問題だもの、そこは仕方ないんだけどその間の塩対応は心に痛いのよね。
何となく呆れた雰囲気になったミンクに気付いて、おもむろにむんずと首根っこを捕まえて手に取ると視線を合わせる。
「呆れてるけど、止めなかったらあんたも怒りの対象になるのよ?」
『ソノマエ、ヤメル。イッテモ、ヤメナイ、リーフ』
「そうね、その通りね。だから、あんたも一緒に怒られるのよ?」
怒られる前にやめろ、やる時は言ってもやめないだろう、そう言いたいのは単語で片言でも判ったけど、だからこそにっこりと巻き添え宣言をしておく。
絶句したミンクに満足して鞄に入れ直すと、エプロンを置いて着替えてきたミレイがデュランを呼びに行くわよ! と言って先にお店を出ていく。
後を追いかけて隣に並ぶと、まったくもう、と言いながらも付き合ってくれるミレイに顔がゆるゆるとだらしなく崩れていく。
「えへへへへ、ミレイ、ありがと!」
「仕方ないでしょ、幼馴染だもの」
嬉しくなって腕に飛びつくみたいに抱き着いてお礼を言ったら、ちょっと照れ隠しな拗ねた表情をしながらもツンッとそっぽ向いて応えてくれた。
その後はミレイに引っ付いたままデュランのところまで歩いて行ったんだけど、丁度外に出てたデュランに見られて凄い馬鹿にしたような視線を貰ったのでとりあえず一発脇腹を突いといた。
何も言ってないだろって叫んでたけど、デュランの目は口以上に良く判るんだよ。
ミレイにも呆れながら一言多いって言われてて、やっぱり何も言ってないだろ?! って叫んでたけどほっといた。
デュランは口は寡黙だけど目とか醸し出す雰囲気がとってもわかりやすい。ついでに、さっきの馬鹿にしたような視線は多分ヤキモチだな。
何を隠そう、デュランの好きな人はミレイ、ミレイの好きな人はデュランだ。本人たちは隠してるつもりみたいだし、お互いに気付いてないっぽいけど時々そういう雰囲気があるんだよね。
でもなんか遠慮してるわけでもないんだけど、幼馴染期間が長すぎてどっちもきっかけがつかめない感じなのかな?
まぁ、お邪魔虫な私も存在してるから余計かもしれない。
村の中では公然の秘密だ。本人たちが動かないのに周りがとやかく言うというおせっかいはしない、出来た大人の集団なのがありがたいよね。
それはさておこう。ちょっとよそ見して考え事してる間に、デュランも出かけてくるって言ってきたみたい。
いつも森に入る時に下げてる剣を腰に差して、簡易の防具もつけてきた。どこまで万全装備よ。
流石に、本当に私だって奥まで走って追いかけたりしない程度には理性あるわよ?
「ねぇ、なんでデュランはそんなに重装備なの? 森の入り口に行くだけだってミレイ言ってたでしょ?」
「勘だな。きっとお前が奥まで走っていくようなことがある」
「ええ……何その嫌な予想。デュランの悪い予感ってなかなかの的中率だから、その嫌な勘は外れて欲しいわ」
「ミレイもデュランも酷い。何のためにもふもふ連れてきたと思うのよ!」
思わず突っ込んだら、予想以上に酷い返答を貰った。
今までの行動が全てを物語ってるのは判ってるんだけどね、自覚はあるんだけどさ?!
拗ねるわよ? 思わずがっしと鞄の中で寝てたミンクを鷲掴んで二人の目の前にずずいっと差し出したら、二人とも微妙な顔したから反射的に頬がぷくっと膨らんでしまう。
この顔は絶対信用してない顔。間違いない。でも、本当に抑止力の為に連れてきたのよ、このミンク。
森の入り口付近ではもふもふさせてもらう予定なんだから、きっと何もないと思うんだけどな。
安定の私にとって微妙な信用を今回は裏切りたいと思いつつ、これ以上ここで話しても仕方がないということで村を出て少し先にある森に向かった。
私の家は村とは反対の出口付近、敷地が一番森に近い場所にある。
これはミンクの世代交代を自然のままさせるために、曾祖父だかそれより数代前の先祖だかがその場所を当時住んでいた人に頼んで自宅場所と交換して貰ったからだ。
土地の売買とか基本的にしないし、その前の所有者は幸いにもうちの前に住んでいた土地付近に越したかったらしいから渡りに船だったんだって。
そんな感じでその場所を譲り受け、更に村長さんへ許可を貰って一部を森に繋げるような風に広げて出来たのが今の土地。かなり頑張ったって聞いてる。
でも、おかげで本来なら人間が飼育したミンクは一代限りで居なくなるなんてこともなく、ミンクの繁殖とその毛皮を自然の摂理に乗っ取って手に入れる方法を手にしたって話。
その話を聞いた時は、絶対その先祖だか曾祖父だか会ったことない人は私の同類だって思ったわよね。
まぁ、実際にはその人は金儲けに目がなかったとかいう話だけど、それも本当かわかんない。
何しろ父さんと母さんの頃には亡くなってたって話だからね。そこは置いておこう。
「それで、何をしに行くんだよ」
「森の入り口にもふもふを探しに!」
「……探してどうすんのかって聞いてんだよ」
「うーん、まずもふもふが入り口に居るかもわかんないけど、ちょっとスキルを一つ試したいんだよね」
呆れ切った顔で問い直されたけど今更気にしないので、どう説明するか考えつつ返事をしたらふぅんと気のない返事が来た。
いや、聞いたならもう少し何かないのか? 良いけど。ミレイの方は特に何も言わないのは最初から分かってるからですよね。
デュランよりも私の事把握してるのはミレイなんですよ。デュランは私の物理的なストッパーなんだけど、私の行動先読みして止めるのはミレイの方が確実。
だから私が森に行くときは絶対に二人に言う様にって言われてるんだよね、主に両親に。信用ないのはシカタナイネ。
そんなこんなで森の入り口に到着すると、ここ一週間ほど私が来ていなかったからか油断しまくったもふもふがいくつか……ウフフ。
ハートが飛んでそうな勢いで笑いが漏れちゃうけど、ここはすぅっと気配を消しましょうねぇ。
ふっと気配が薄くなった私に気付いたデュランがちらりとこちらを見て、呆れたよなため息を小さく吐いた。
まだ気づいてないもふもふへの配慮なのは間違いない。鞄に入ってるミンクが驚いて顔を出したけど、この子は私の気配消し知らなかったんだっけ?
まぁ、これはスキルじゃない。野生のもふもふを捕獲してもふもふしたいがために、独学で身に着けた狩人さんとかの技である。
スキルじゃなくてもある程度は修行すれば出来るんだって知った時からめちゃくちゃ頑張ったからね! デュランとミレイに呆れられたのはもうずっと昔よね。
ある程度気配を消せれば森の入り口付近まで来るような小さなもふもふにはよっぽど気付かれない。
多少の人慣れをして、時々餌などもかっさらっていくようなもふもふ達だからね。野生と言えど人の気配を察知するのに長けているという自負があるらしい。
そっと足音も消して片手に掴めるコリスに近づく。ちょうど落ちていた木の実を拾ってご満悦っぽい。
タイミングを見計らって気配を現した瞬間に視線を合わせると、この子もやっぱり一週間前のミンクたちみたいに固まった。
『ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!』
「うふふー、つーかまえたッ!」
『ギャーーーーーーーッ!!』
プルプルと動けないのに反射的に震える小さな体を鷲掴んで持ち上げると、多大な悲鳴を上げたっぽいけど視線が外せなくて固まったままのコリス。
思ったよりもスキルの効果はあるみたいだけど、これは手のひらサイズの小さな個体だからかもしれない。
まぁ、今日はとりあえず野生にスキルが通用するかを見たかったから問題ないかな。この辺で捕獲できるのは大きくても中型の犬っぽい魔物までだから何日か通ってその辺りまではスキルを使えるか挑戦したい。
それはさておき、せっかく捕獲したのでもふもふをもふもふするためにコリスの持ち方を変えてその身体をまずは触診してみる。
視線を合わせたまま一通り指先で触診をしてみると、片方の足に怪我をしているのか違和感があった。
「アナタ、怪我してるわね?」
『イタイ! イタイ!!』
「怪我して数日ってところかしら? 骨折まではしてないけど、ちょっとおかしいのが判るわ。これ、私のスキル通用するかしらね」
「お前のスキルって?」
「私、もふもふを魅了することと癒すことと感情を把握するスキルを貰ったのよね。それで、この一週間うちの家畜たちとかも使って色々試したらちょっとスキルが成長したみたいなの」
「へぇ? もう成長したのか? 確かにスキルは成長するって話は出てたが、それも何年もかけて奇跡的になるとか言われてるだろ?」
触診を続けながらもコリスに声を掛ける。痛みがあるのか痛い痛いと叫んでるけど、多分ミレイとデュランには鳴き声にしか聞こえてない。
ただ、デュランが私の言葉を聞いていて引っ掛かったのか聞いてきたから、端的に貰ったスキルの内容を伝えて現状を補足する。
そう、私のスキルはうちの子たちをもふもふしまくった結果、すこーし、本当にほんのすこーーしだけど進化し始めていた。
今手に乗せているコリスにそのスキルの効果が出るかどうかはやってみないと分からないけど、上手くすれば一段階出来ることが広くなるかもしれないチャンスだ。
デュランの疑問の声が後ろから聞こえてきたけど、私にはもうその問いかけに返事をする気はなかった。
その疑問には後でも答えられるのだから、今は目の前の子に自分のスキルが多少でも影響を与えるかを試してみるのが私の中の最優先になっていた。
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新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
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