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村への来訪者
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森に行った翌日からちょっとバタついた家の手伝いをしてたらいつの間にか数日経ってた。
何があったかって? うちの身籠ってた牛が臨月迎えて出産準備してたのよね。無事に子牛は生まれて母子ともに健康! 何より!
私のスキルで手伝えることがあればって張り付いてたのよね。流石に牛も臨月で苦しんでる最中に私が傍に居るとか思わなかったらしくて気にも留められなかったのはいいのか悪いのか判んないけど。
まぁ、そこは良いわ。そんで、家で籠ってる間に行商人と一緒に来た冒険者の噂が立ってた。
村と町の中間くらいの大きさだし、特産と言えるものもちらほらあるからそれなりに人の出入りは激しいし普段はそんなに気にしてないんだけど。その冒険者はなんか変わってるって話なんだよね。
「リーフ!」
「あ、ミレイ。いらっしゃい。牛乳?」
「ええ、いつものでお願いね」
「はいはーい。そういえば、ミレイももう会ったの? 噂の冒険者って人」
「ああ、うん、そうね。行商さんがうちの贔屓さんだったから、一緒に食事しようって連れられて来てたわよ」
「なるほど。で、何が変わってるの?」
「知らないわ。うちで食べてるときは普通だったし」
空の容器を持ってミレイと一緒に乳牛のところへ移動しながら聞いてみたけど、ミレイは興味がなかったみたいで肩を竦められて終わった。
一季節前に来た冒険者さんは好みだったのか物凄く熱心に色々教えてくれたのに、好みじゃなかったのかな?
まぁ、それは良いけど。結局どんな人なのかは判らないまま、ミレイのところがいつも買っていく量の牛乳を搾る。
「母さん、ミレイのお店に牛乳届てくる!」
「はーい、気を付けてねー」
「はーい!」
十分に入った容器は重たいから予め台車に乗せてある。それを押して、ミレイと話の続きをしながらお店の方へ向かう。
家の敷地を出る前に気付いたグレイが駆け寄ってきて肩に乗ってくれたからもふもふがほっぺに引っ付いて気持ちいいったら!
「んふふふふ」
「リーフ、怖いから部屋だけにしなさい」
「あは、ごめーん。グレイの毛並みすっごく良くなったから気持ちよくってつい」
「まぁ、気持ちは解るわ。初めて見せて貰ったときはところどころ禿げてたりしたものね」
「そうなのよね」
「フギュッ」
不本意、みたいな鳴き声が聞こえてミレイと二人で思わず笑ってしまうとべちべちとしっぽで背中を叩かれてしまった。
ちょっと拗ねてるけど、今はきれいに治って毛皮も生え変わって傷一つない。
そう、傷一つないの! 癒しの手の効果かグレイ本人の体質なのかちょっとはっきりしないんだけど、結構ボロボロの傷だらけだったにも関わらず肌にあったはずの傷跡が跡形もなく消えてるの。
大体は擦過傷だったんだけど、数か所だけ噛まれて出来たみたいな裂傷もあったからこれは傷跡残るかなって思ったのに残らなかった。
普通、切った傷って盛り上がった皮膚が周囲より新しいから傷跡として解りやすく残るはずなのに。驚きの結果だけど、グレイ本人の体質なのかは検証ができない。
だって、新たに裂傷を作って検証しなきゃいけないってことだし、私がその検証中撫でちゃいけないってことなのよ?
絶対に無理! ってことで、スキル効果なのか本人の体質なのかは検証してない。
「こんにちはー」
「ただいまー」
「おかえり、ミレイ。リーフちゃんもありがとうね」
「いえいえ! お仕事ですから、毎度ありがとうございます!」
お客さんが居たみたいでトレイを手に客席へ出ていた居たおばさんが出迎えてくれて笑顔で返事をする。
おじさんは厨房みたいだから賄いを作ってるのか注文が入ってるのかわかんないけど、ぐるっと裏口に回って牛乳を厨房へ届ける。
「ああ、すまんな」
「ううん。じゃあ、届けたからね!」
「ありがとう」
職人肌なおじさんは私に気付いて重たい容器を軽々持ち上げて変わってくれたから、後を任せて台車を押して戻ってくる。
もう一度表に回っておばさんに挨拶して帰ろうと思ったら中から出てきたお客さんにぶつかりかけて慌てて急停止。
肩に居たグレイがぎゅっと全部の足を踏ん張って衝撃に耐えてるのを服越しに感じながら慌てて頭を下げる。
「すみません!」
「あ、いえ。こちらこそ……え、君」
「はい?」
がばっと頭を下げて謝って、聞こえた声が怒ってなかったからホッとして顔を上げたら何かに気付いたそのお客さんが声を上げた。
何かあったかと思って首を傾げたら、まじまじと見つめているのは私……じゃなくて、その肩に居るグレイみたい。
「グルルルルッ」
「え? グレイ? 何、どうしたの?」
『コイツヤダ!』
「えぇ? ちょ、グレイ?!」
私が何か、と問う前に突然驚くくらい怖い唸り声をあげたから、呑気にお客さんを観察している暇もなくグレイを抱き上げようと伸ばした私の手をさっと避けて服の中に入り込んでくる。
上着だからいいけど、びっくりするんだけど?! 慌てて引っ張り出そうとしても手の届かない位置にぶら下がってるみたいで捕まえられない。しかも、目の前の人が嫌だって言ったみたい。
一体どうしたのかしら? 改めて目の前の人を見るとなんだか驚愕に目を見開いてこっちも固まってるっぽい。
「あのぉ?」
「はっ、す、すまない。その、君の肩に居た魔物はどうしたんだい?」
「え? 魔物?」
「魔物だろう? 魔力持ちで、固有スキルを持ってる。君が主だと書いてあったけど」
「え? 魔力持ち? え、待って。書いてあるって?」
「あ……」
目の前のお客さん、しまったって雰囲気ね。言うつもりなかったのに言っちゃった感じなのかしら。
でも、テイマーって可能性は全く考えてないって感じよね? しかも、書いてあるって何に書いてあるのかしら? 私、グレイの観察日記は持ってないわ。持ってても閉じてある中身が見えるとかないわよね?
そもそも、グレイが魔物で魔力持ちで固有スキルを持ってるのも知らないし、聞いてないし。
よくわからないから聞くしかないけど、どうしようかしら。
「お客さん、リーフに何か?」
「あ、い、いや。なんでも、何でもないよ! ちょっとぶつかりかけて謝罪してただけだから。ね?」
「え? まぁ、そこはそうですね。でも」
「ちょ、ちょ、ちょ、待って! 後で! 後で話そう! ね!」
「もごもごもご」
グレイのことを口にしたと言おうとして、なんかわかんないけど目の前のお客さんに止められた。
口に手をやられて止められたから言った言葉が言葉にならなかったわ。まぁ、良いんだけど。ものすごくミレイが怒ってる気が……。
私も連座で怒られるやつかしらと思ったけど、何か私とお客さんを見て少し考えてからにっこにこになって私を見た。
「リーフ、この人よ。さっき言ってた変わってるって噂の冒険者さん」
「もご?」
「そうなのよ。直接話してみたら?」
「もご!」
「うんうん、うち使う?」
「むご、むごもごもご」
「ああ、まぁ、そうよね」
「え、君たちそれで会話成り立つの?」
「むごー!」
いや、だって口塞がれてるから話せないし。でもミレイは赤ちゃんから一緒ってくらいに一緒に居るから言いたいことは伝わるんですよ。不思議。スキルかな。
そんなスキル持ってないって突っ込まれたから、たぶん予想して返事してるだけだと思うけど九割当たってるから何も問題ない。
グレイに関係することをお店で話すのはちょっと遠慮したい的なことを伝えようとしたので、概ねミレイの返事も間違ってない。
その会話に突っ込みを入れた冒険者さんの手をベチベチ叩いて抗議の声を上げて漸く解放された。
「ご、ごめん!」
「息できたから構わないですけど、言わない方が良いんですか?」
「その、出来れば言わない方向でお願いしたい」
「そうですか。じゃあ、やっぱり私の家に来てもらった方が良いですね。ということだから、ミレイ、帰るわ」
「はいはい。何かあったら呼びなさい」
「うん、ありがとう。じゃあね」
私の口を塞いでた冒険者さんはやっぱりうっかり口にしたらしい。
とりあえず、この場を離れて家に帰るついでに冒険者さんを誘ったらすごいほっとした雰囲気になった。
ちなみに、この冒険者さん前髪が顔の半分くらい隠してるから顔が見えない。でも雰囲気がすごくわかりやすい。
背丈とか体格はひょろっとしてる感じだけど、剣を腰に下げてるから得意な武器は剣なのかな?
村の中は大体みんな顔見知りで、うちはこの村の全員の乳製品を賄ってる状態だから不審な人だったとしても何とかなるでしょ。
早々つかまったりしないし。ただ、背中に引っ付いてるグレイがぎゃーぎゃー言ってるからどうしたのかな。
「グレイー、そろそろ出てきてよ」
『ヤダ』
「えぇ、でも顔見れないし。もふれないし。もふもふ成分がそろそろ足りないんだけど」
『……ワカッタ』
もふもふが欲しい私の要望には応えてくれる気はあるらしい。もそもそっと上着の中から出てきて私の両手に収まってくれる。
「うふ、もふもふ! ほんとグレイの毛並み綺麗になったし手触り最高だし触り甲斐があっていいわぁ」
『ブツカル』
「だいじょぶ、だいじょぶ、人の方が避けてく」
『ダメナヤツ』
「ほっといてちょうだい」
もふもふに慣れてきたグレイはくたんとするけど会話は出来るようになったから、人目もはばからず会話しながら家までを歩く。
ちょっと遠巻きにドン引きしながら後を付いてくる冒険者さんがいるけど気にしない!
ものの十分ほどで自宅に帰って、父さんと母さんに声を掛ける。
「ただいまー! ちょっと応接室借りて良い?」
「ああ、なんだ。お客さんか?」
「お客さんだけど、うちのじゃなくて私に用事みたい」
「そうなの? あら、まぁ。じゃあおやつとお茶はどうする?」
「あ、今から取りに行く」
「はいはい。じゃあ用意するから、お客さんは一人?」
「うん、一人!」
「わかったわ」
うちにも商談用の応接室はある。一応ね。もふもふ関連はお偉いさんたちにも注目されてるらしくて大きな商会の人とかも極稀に来るから。
作れる数が限られてるから、基本的に知る人ぞ知るって商品だったりするのよね。もふもふ関連。
それはさておき、もふもふしてたグレイを肩に戻して後ろをドン引きして歩いてた冒険者さんを手招く。
案内するのは少し奥まったところの応接室だ。ソファーを勧めて一度部屋を出てからお茶とおやつを持って戻ってくると居心地悪そうに縮こまった冒険者さんが物凄く困った雰囲気で座ってた。
「そんなに困らなくても良いと思うんですけど。改めて、私リーフです。聞きたいことたくさんなんですけど、とりあえず名前聞いていいですか?」
「あ、ああ。ウォルトだ。言葉遣いとか気にしなくていいから、普通にしてくれ」
「あ、そうですか? じゃあ、遠慮なく。グレイが魔物だって言ってたのと書いてあるって言葉がすっごく気になるんだけど、お兄さんのスキル?」
「ぐっ……そう、君のスキルとかも隠してないから見えてしまって、すまない」
「つまり、お兄さん希少な鑑定持ち?」
「ああ」
ドストレートに聞いちゃったからか、なんか言葉に詰まってたけど観念したように頷いて私の方へ顔を向けた冒険者さん、ウォルトさんは少し考えるそぶりを見せてから思い切ったような雰囲気で口を開く。
「実は、俺、冒険者は副業で本業は魔物研究家なんだ」
「魔物研究家?」
「そう。魔物の生態とか、習性とか、そういうのを調べる。あと頒布図とかも作るよ。冒険者は頒布図作ったりしてあちらこちら行く時の旅費稼ぎを兼ねてる」
「へぇ、そんな職業あるんですねぇ」
「全く興味ないって返事だね」
「まぁ、興味ないので」
「そ、そう」
冒険者が行く行先には興味があることもあるけど、本人に興味はあんまりない。悪い人じゃなければ挨拶くらいするけどって感じ。
最終地点がもふもふパラダイスだって言うなら物凄く! 物凄ぉーく! 考えるけど、それだけだ。
家を出る気はないしねぇ。もし奇跡的に結婚するならお婿さんを迎えないとだめだから、正直期待してないんだよね。
まぁ、そこは置いといて、なんか拍子抜けしたって雰囲気のウォルトさんから続きを聞くことにする。
「それで、グレイが魔物って言ってましたけど」
「ああ。俺の鑑定スキルは対象を見て知りたいと思うことで使えるんだ。魔力を持ってると鑑定しなくてもその対象の周りがほんのりと光って見える。で、君が肩に乗せてたのが光って見えて、ぬいぐるみの魔道具かと思ってどんな物か気になったもんだからうっかり使っちゃってね」
「見えた内容が魔物だったから驚いて声に出た、と?」
「そういうことだね。君は知らなかったの? 会話できるみたいじゃないか」
「興味なかったので。グレイはグレイですし、とびっきり毛並みの綺麗な私のミンクですからそれで充分ですし」
「キュゥッ」
ぐりっと私の頬っぺたにグレイの頭が押し付けられる。ぐりぐりぐりぐりしつこく押し付けられるからお返しに頬っぺたを押し付け返したら止まった。
ついでに目の前のウォルトさんもなんか固まっちゃったからどうしたもんかなぁ。
何があったかって? うちの身籠ってた牛が臨月迎えて出産準備してたのよね。無事に子牛は生まれて母子ともに健康! 何より!
私のスキルで手伝えることがあればって張り付いてたのよね。流石に牛も臨月で苦しんでる最中に私が傍に居るとか思わなかったらしくて気にも留められなかったのはいいのか悪いのか判んないけど。
まぁ、そこは良いわ。そんで、家で籠ってる間に行商人と一緒に来た冒険者の噂が立ってた。
村と町の中間くらいの大きさだし、特産と言えるものもちらほらあるからそれなりに人の出入りは激しいし普段はそんなに気にしてないんだけど。その冒険者はなんか変わってるって話なんだよね。
「リーフ!」
「あ、ミレイ。いらっしゃい。牛乳?」
「ええ、いつものでお願いね」
「はいはーい。そういえば、ミレイももう会ったの? 噂の冒険者って人」
「ああ、うん、そうね。行商さんがうちの贔屓さんだったから、一緒に食事しようって連れられて来てたわよ」
「なるほど。で、何が変わってるの?」
「知らないわ。うちで食べてるときは普通だったし」
空の容器を持ってミレイと一緒に乳牛のところへ移動しながら聞いてみたけど、ミレイは興味がなかったみたいで肩を竦められて終わった。
一季節前に来た冒険者さんは好みだったのか物凄く熱心に色々教えてくれたのに、好みじゃなかったのかな?
まぁ、それは良いけど。結局どんな人なのかは判らないまま、ミレイのところがいつも買っていく量の牛乳を搾る。
「母さん、ミレイのお店に牛乳届てくる!」
「はーい、気を付けてねー」
「はーい!」
十分に入った容器は重たいから予め台車に乗せてある。それを押して、ミレイと話の続きをしながらお店の方へ向かう。
家の敷地を出る前に気付いたグレイが駆け寄ってきて肩に乗ってくれたからもふもふがほっぺに引っ付いて気持ちいいったら!
「んふふふふ」
「リーフ、怖いから部屋だけにしなさい」
「あは、ごめーん。グレイの毛並みすっごく良くなったから気持ちよくってつい」
「まぁ、気持ちは解るわ。初めて見せて貰ったときはところどころ禿げてたりしたものね」
「そうなのよね」
「フギュッ」
不本意、みたいな鳴き声が聞こえてミレイと二人で思わず笑ってしまうとべちべちとしっぽで背中を叩かれてしまった。
ちょっと拗ねてるけど、今はきれいに治って毛皮も生え変わって傷一つない。
そう、傷一つないの! 癒しの手の効果かグレイ本人の体質なのかちょっとはっきりしないんだけど、結構ボロボロの傷だらけだったにも関わらず肌にあったはずの傷跡が跡形もなく消えてるの。
大体は擦過傷だったんだけど、数か所だけ噛まれて出来たみたいな裂傷もあったからこれは傷跡残るかなって思ったのに残らなかった。
普通、切った傷って盛り上がった皮膚が周囲より新しいから傷跡として解りやすく残るはずなのに。驚きの結果だけど、グレイ本人の体質なのかは検証ができない。
だって、新たに裂傷を作って検証しなきゃいけないってことだし、私がその検証中撫でちゃいけないってことなのよ?
絶対に無理! ってことで、スキル効果なのか本人の体質なのかは検証してない。
「こんにちはー」
「ただいまー」
「おかえり、ミレイ。リーフちゃんもありがとうね」
「いえいえ! お仕事ですから、毎度ありがとうございます!」
お客さんが居たみたいでトレイを手に客席へ出ていた居たおばさんが出迎えてくれて笑顔で返事をする。
おじさんは厨房みたいだから賄いを作ってるのか注文が入ってるのかわかんないけど、ぐるっと裏口に回って牛乳を厨房へ届ける。
「ああ、すまんな」
「ううん。じゃあ、届けたからね!」
「ありがとう」
職人肌なおじさんは私に気付いて重たい容器を軽々持ち上げて変わってくれたから、後を任せて台車を押して戻ってくる。
もう一度表に回っておばさんに挨拶して帰ろうと思ったら中から出てきたお客さんにぶつかりかけて慌てて急停止。
肩に居たグレイがぎゅっと全部の足を踏ん張って衝撃に耐えてるのを服越しに感じながら慌てて頭を下げる。
「すみません!」
「あ、いえ。こちらこそ……え、君」
「はい?」
がばっと頭を下げて謝って、聞こえた声が怒ってなかったからホッとして顔を上げたら何かに気付いたそのお客さんが声を上げた。
何かあったかと思って首を傾げたら、まじまじと見つめているのは私……じゃなくて、その肩に居るグレイみたい。
「グルルルルッ」
「え? グレイ? 何、どうしたの?」
『コイツヤダ!』
「えぇ? ちょ、グレイ?!」
私が何か、と問う前に突然驚くくらい怖い唸り声をあげたから、呑気にお客さんを観察している暇もなくグレイを抱き上げようと伸ばした私の手をさっと避けて服の中に入り込んでくる。
上着だからいいけど、びっくりするんだけど?! 慌てて引っ張り出そうとしても手の届かない位置にぶら下がってるみたいで捕まえられない。しかも、目の前の人が嫌だって言ったみたい。
一体どうしたのかしら? 改めて目の前の人を見るとなんだか驚愕に目を見開いてこっちも固まってるっぽい。
「あのぉ?」
「はっ、す、すまない。その、君の肩に居た魔物はどうしたんだい?」
「え? 魔物?」
「魔物だろう? 魔力持ちで、固有スキルを持ってる。君が主だと書いてあったけど」
「え? 魔力持ち? え、待って。書いてあるって?」
「あ……」
目の前のお客さん、しまったって雰囲気ね。言うつもりなかったのに言っちゃった感じなのかしら。
でも、テイマーって可能性は全く考えてないって感じよね? しかも、書いてあるって何に書いてあるのかしら? 私、グレイの観察日記は持ってないわ。持ってても閉じてある中身が見えるとかないわよね?
そもそも、グレイが魔物で魔力持ちで固有スキルを持ってるのも知らないし、聞いてないし。
よくわからないから聞くしかないけど、どうしようかしら。
「お客さん、リーフに何か?」
「あ、い、いや。なんでも、何でもないよ! ちょっとぶつかりかけて謝罪してただけだから。ね?」
「え? まぁ、そこはそうですね。でも」
「ちょ、ちょ、ちょ、待って! 後で! 後で話そう! ね!」
「もごもごもご」
グレイのことを口にしたと言おうとして、なんかわかんないけど目の前のお客さんに止められた。
口に手をやられて止められたから言った言葉が言葉にならなかったわ。まぁ、良いんだけど。ものすごくミレイが怒ってる気が……。
私も連座で怒られるやつかしらと思ったけど、何か私とお客さんを見て少し考えてからにっこにこになって私を見た。
「リーフ、この人よ。さっき言ってた変わってるって噂の冒険者さん」
「もご?」
「そうなのよ。直接話してみたら?」
「もご!」
「うんうん、うち使う?」
「むご、むごもごもご」
「ああ、まぁ、そうよね」
「え、君たちそれで会話成り立つの?」
「むごー!」
いや、だって口塞がれてるから話せないし。でもミレイは赤ちゃんから一緒ってくらいに一緒に居るから言いたいことは伝わるんですよ。不思議。スキルかな。
そんなスキル持ってないって突っ込まれたから、たぶん予想して返事してるだけだと思うけど九割当たってるから何も問題ない。
グレイに関係することをお店で話すのはちょっと遠慮したい的なことを伝えようとしたので、概ねミレイの返事も間違ってない。
その会話に突っ込みを入れた冒険者さんの手をベチベチ叩いて抗議の声を上げて漸く解放された。
「ご、ごめん!」
「息できたから構わないですけど、言わない方が良いんですか?」
「その、出来れば言わない方向でお願いしたい」
「そうですか。じゃあ、やっぱり私の家に来てもらった方が良いですね。ということだから、ミレイ、帰るわ」
「はいはい。何かあったら呼びなさい」
「うん、ありがとう。じゃあね」
私の口を塞いでた冒険者さんはやっぱりうっかり口にしたらしい。
とりあえず、この場を離れて家に帰るついでに冒険者さんを誘ったらすごいほっとした雰囲気になった。
ちなみに、この冒険者さん前髪が顔の半分くらい隠してるから顔が見えない。でも雰囲気がすごくわかりやすい。
背丈とか体格はひょろっとしてる感じだけど、剣を腰に下げてるから得意な武器は剣なのかな?
村の中は大体みんな顔見知りで、うちはこの村の全員の乳製品を賄ってる状態だから不審な人だったとしても何とかなるでしょ。
早々つかまったりしないし。ただ、背中に引っ付いてるグレイがぎゃーぎゃー言ってるからどうしたのかな。
「グレイー、そろそろ出てきてよ」
『ヤダ』
「えぇ、でも顔見れないし。もふれないし。もふもふ成分がそろそろ足りないんだけど」
『……ワカッタ』
もふもふが欲しい私の要望には応えてくれる気はあるらしい。もそもそっと上着の中から出てきて私の両手に収まってくれる。
「うふ、もふもふ! ほんとグレイの毛並み綺麗になったし手触り最高だし触り甲斐があっていいわぁ」
『ブツカル』
「だいじょぶ、だいじょぶ、人の方が避けてく」
『ダメナヤツ』
「ほっといてちょうだい」
もふもふに慣れてきたグレイはくたんとするけど会話は出来るようになったから、人目もはばからず会話しながら家までを歩く。
ちょっと遠巻きにドン引きしながら後を付いてくる冒険者さんがいるけど気にしない!
ものの十分ほどで自宅に帰って、父さんと母さんに声を掛ける。
「ただいまー! ちょっと応接室借りて良い?」
「ああ、なんだ。お客さんか?」
「お客さんだけど、うちのじゃなくて私に用事みたい」
「そうなの? あら、まぁ。じゃあおやつとお茶はどうする?」
「あ、今から取りに行く」
「はいはい。じゃあ用意するから、お客さんは一人?」
「うん、一人!」
「わかったわ」
うちにも商談用の応接室はある。一応ね。もふもふ関連はお偉いさんたちにも注目されてるらしくて大きな商会の人とかも極稀に来るから。
作れる数が限られてるから、基本的に知る人ぞ知るって商品だったりするのよね。もふもふ関連。
それはさておき、もふもふしてたグレイを肩に戻して後ろをドン引きして歩いてた冒険者さんを手招く。
案内するのは少し奥まったところの応接室だ。ソファーを勧めて一度部屋を出てからお茶とおやつを持って戻ってくると居心地悪そうに縮こまった冒険者さんが物凄く困った雰囲気で座ってた。
「そんなに困らなくても良いと思うんですけど。改めて、私リーフです。聞きたいことたくさんなんですけど、とりあえず名前聞いていいですか?」
「あ、ああ。ウォルトだ。言葉遣いとか気にしなくていいから、普通にしてくれ」
「あ、そうですか? じゃあ、遠慮なく。グレイが魔物だって言ってたのと書いてあるって言葉がすっごく気になるんだけど、お兄さんのスキル?」
「ぐっ……そう、君のスキルとかも隠してないから見えてしまって、すまない」
「つまり、お兄さん希少な鑑定持ち?」
「ああ」
ドストレートに聞いちゃったからか、なんか言葉に詰まってたけど観念したように頷いて私の方へ顔を向けた冒険者さん、ウォルトさんは少し考えるそぶりを見せてから思い切ったような雰囲気で口を開く。
「実は、俺、冒険者は副業で本業は魔物研究家なんだ」
「魔物研究家?」
「そう。魔物の生態とか、習性とか、そういうのを調べる。あと頒布図とかも作るよ。冒険者は頒布図作ったりしてあちらこちら行く時の旅費稼ぎを兼ねてる」
「へぇ、そんな職業あるんですねぇ」
「全く興味ないって返事だね」
「まぁ、興味ないので」
「そ、そう」
冒険者が行く行先には興味があることもあるけど、本人に興味はあんまりない。悪い人じゃなければ挨拶くらいするけどって感じ。
最終地点がもふもふパラダイスだって言うなら物凄く! 物凄ぉーく! 考えるけど、それだけだ。
家を出る気はないしねぇ。もし奇跡的に結婚するならお婿さんを迎えないとだめだから、正直期待してないんだよね。
まぁ、そこは置いといて、なんか拍子抜けしたって雰囲気のウォルトさんから続きを聞くことにする。
「それで、グレイが魔物って言ってましたけど」
「ああ。俺の鑑定スキルは対象を見て知りたいと思うことで使えるんだ。魔力を持ってると鑑定しなくてもその対象の周りがほんのりと光って見える。で、君が肩に乗せてたのが光って見えて、ぬいぐるみの魔道具かと思ってどんな物か気になったもんだからうっかり使っちゃってね」
「見えた内容が魔物だったから驚いて声に出た、と?」
「そういうことだね。君は知らなかったの? 会話できるみたいじゃないか」
「興味なかったので。グレイはグレイですし、とびっきり毛並みの綺麗な私のミンクですからそれで充分ですし」
「キュゥッ」
ぐりっと私の頬っぺたにグレイの頭が押し付けられる。ぐりぐりぐりぐりしつこく押し付けられるからお返しに頬っぺたを押し付け返したら止まった。
ついでに目の前のウォルトさんもなんか固まっちゃったからどうしたもんかなぁ。
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嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
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