妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん

文字の大きさ
7 / 17

7話 せめぎ合い

しおりを挟む
 あの手紙が届いてから数日、幾度と無く見てきたローウェンの馬車が庭に止まる。
 執事がその扉を開けて、中から出てきたのは案の定、わたしの想い人であるローウェンであった。

 わたしが窓から見下ろしたところ、彼はあまりわたしとの拗れについては気にしていない落ち着いた風貌で、淡々と石畳を踏み締めている。

「今回はレイナ様に会いに来たわけではないと言っておりますね」
「どうかしらね。今までの非礼から、到底信用はできないわ」

 わたしは彼への信用を失っていて、溢れ出る怒気を髪を掻き上げる代替行為で誤魔化している。
 そうしなければ一目散に馬車へ向かい、彼の顔面を殴り付けている。

「私としても、彼と会うのは精神的に推奨はしかねます」

 また前のようなことがあって、わたしの心に負荷がかかるのを心配するシエルは、行かせたくない旨を吐露していた。

「わたしも今更ながら、どっちつかずな部分があるのよね」

 彼を殴りたいのは事実だが、いざその後言葉を交わしたいのかと尋ねられると、わたしは首をどう振るのか分からなくなっていた。

 歩き方を知らない無垢な赤ん坊のように、わたしは彼との付き合い方における解法を見失っている。

 例の手紙には、一度会いたいと軽く綴られている。
 最初こそ、またわたしを裏切ってレイナと遊ぶところを意地悪く見せびらかすのかと思い、警戒は解かなかった。

 そう簡単に心を許し、信頼を開け渡しても最後には裏切られるのが定番だ。
 わたしがいかに彼と結ばれるのを諦めないからといって、彼に委ねるにはまだ信用できない部分があまりにも多い。

 ローウェンを愛しているけど、それは出会った当初の偶像に縋っているからこその好意である。
 わたしを出汁に使っていると思しき、情をかなぐり捨てた行為には同調なんてできなかった。

「追い返すことも可能ですよ。あなたは十分に耐えました。楽になったとして、誰も責める人はいません」

 ローウェンはわたしを何度も何度も裏切り、その悲しみを自らの愉悦に変えて弄んでいる。
 女心を踏み躙る、最低最悪の所業をしたこの男を、わたしは未だに愛しているというのも変な話だ。

 自分の頭がおかしくなってしまったのかと、自分に自信が段々と持てなくなっていく。
 わたしの内面は彼の出現に荒れに荒れていて、御しきるには彼との対面以外にははっきりとさせる手段が分からなくなっていた。

 わたしをぐちゃぐちゃにした未曾有の大災害に、わたしは単身、乗り込む決意を固める。

「あれだけ彼を嫌になったのに、わたしは未だに彼を忘れられないのよ」

 彼が嫌いなのに、好き。相反するわたしの内面は数え切れないほどせめぎ合っている。
 輝かしい偶像を追い掛ける哀れなわたしか、それとも彼に虐められるのが好きな目を覆いたくなるほどの現実が待っているのだろうか。

 単純に諦めの悪さが粘着気質になっていたりと、わたしのこの背反する気持ちに納得できる答えはろくでもないものばかりだ。

「いずれにしても、輝かしかった彼の光に追い縋っているわたしの心が招き寄せた結果がこれなのよ」
「まったくもって否定できませんね」

 一度でもシエルが肯定してくれたら、全てを投げ打って束の間の安眠に溶け込めただろうに、こういうところは冷たい。
 彼女はそう易々と、わたしを解放させてはくれなかった。

「使用人のくせに生意気よ」
「捻くれたお嬢様の相手をしていたら、少しはこちらも捻くれますよ」

 シエルは生意気にも、主人の一人であるわたしに喧嘩を売るだけの度量を併せ持っている。
 これがなかなかどうして、わたしの勝負所を盛り上げる役を買っていた。

「少し遅れてしまったね」

 今回は迎えには行かず、自室で優雅に紅茶を嗜んでいると、背にしていた扉が一人の男の手に委ねられて音を立てる。
 かつてのわたしの光だった彼は、酷く見窄らしく見えている。

 それでも、見限れない。

 わたしはつくづく、彼に対しては甘く振る舞っていく。
 いくら見窄らしくなろうが、わたしが愛する彼には違いない。いつかは戻る。そんな温い考えが楔となってわたしを縛っている。

「今日はレイナと遊ぶんじゃないの?」
「いいや、この前君をぞんざいに扱ってしまった非礼を詫びたくて、こっちに来たんだよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました

当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。 リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。 結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。 指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。 そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。 けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。 仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。 「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」 ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。

隣国の王族公爵と政略結婚したのですが、子持ちとは聞いてません!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくしの旦那様には、もしかして隠し子がいるのかしら?」 新婚の公爵夫人レイラは、夫イーステンの隠し子疑惑に気付いてしまった。 「我が家の敷地内で子供を見かけたのですが?」と問えば周囲も夫も「子供なんていない」と否定するが、目の前には夫そっくりの子供がいるのだ。 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n3645ib/ )

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~

岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。 「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」 開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~

岡暁舟
恋愛
 名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?

処理中です...