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7話 せめぎ合い
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あの手紙が届いてから数日、幾度と無く見てきたローウェンの馬車が庭に止まる。
執事がその扉を開けて、中から出てきたのは案の定、わたしの想い人であるローウェンであった。
わたしが窓から見下ろしたところ、彼はあまりわたしとの拗れについては気にしていない落ち着いた風貌で、淡々と石畳を踏み締めている。
「今回はレイナ様に会いに来たわけではないと言っておりますね」
「どうかしらね。今までの非礼から、到底信用はできないわ」
わたしは彼への信用を失っていて、溢れ出る怒気を髪を掻き上げる代替行為で誤魔化している。
そうしなければ一目散に馬車へ向かい、彼の顔面を殴り付けている。
「私としても、彼と会うのは精神的に推奨はしかねます」
また前のようなことがあって、わたしの心に負荷がかかるのを心配するシエルは、行かせたくない旨を吐露していた。
「わたしも今更ながら、どっちつかずな部分があるのよね」
彼を殴りたいのは事実だが、いざその後言葉を交わしたいのかと尋ねられると、わたしは首をどう振るのか分からなくなっていた。
歩き方を知らない無垢な赤ん坊のように、わたしは彼との付き合い方における解法を見失っている。
例の手紙には、一度会いたいと軽く綴られている。
最初こそ、またわたしを裏切ってレイナと遊ぶところを意地悪く見せびらかすのかと思い、警戒は解かなかった。
そう簡単に心を許し、信頼を開け渡しても最後には裏切られるのが定番だ。
わたしがいかに彼と結ばれるのを諦めないからといって、彼に委ねるにはまだ信用できない部分があまりにも多い。
ローウェンを愛しているけど、それは出会った当初の偶像に縋っているからこその好意である。
わたしを出汁に使っていると思しき、情をかなぐり捨てた行為には同調なんてできなかった。
「追い返すことも可能ですよ。あなたは十分に耐えました。楽になったとして、誰も責める人はいません」
ローウェンはわたしを何度も何度も裏切り、その悲しみを自らの愉悦に変えて弄んでいる。
女心を踏み躙る、最低最悪の所業をしたこの男を、わたしは未だに愛しているというのも変な話だ。
自分の頭がおかしくなってしまったのかと、自分に自信が段々と持てなくなっていく。
わたしの内面は彼の出現に荒れに荒れていて、御しきるには彼との対面以外にははっきりとさせる手段が分からなくなっていた。
わたしをぐちゃぐちゃにした未曾有の大災害に、わたしは単身、乗り込む決意を固める。
「あれだけ彼を嫌になったのに、わたしは未だに彼を忘れられないのよ」
彼が嫌いなのに、好き。相反するわたしの内面は数え切れないほどせめぎ合っている。
輝かしい偶像を追い掛ける哀れなわたしか、それとも彼に虐められるのが好きな目を覆いたくなるほどの現実が待っているのだろうか。
単純に諦めの悪さが粘着気質になっていたりと、わたしのこの背反する気持ちに納得できる答えはろくでもないものばかりだ。
「いずれにしても、輝かしかった彼の光に追い縋っているわたしの心が招き寄せた結果がこれなのよ」
「まったくもって否定できませんね」
一度でもシエルが肯定してくれたら、全てを投げ打って束の間の安眠に溶け込めただろうに、こういうところは冷たい。
彼女はそう易々と、わたしを解放させてはくれなかった。
「使用人のくせに生意気よ」
「捻くれたお嬢様の相手をしていたら、少しはこちらも捻くれますよ」
シエルは生意気にも、主人の一人であるわたしに喧嘩を売るだけの度量を併せ持っている。
これがなかなかどうして、わたしの勝負所を盛り上げる役を買っていた。
「少し遅れてしまったね」
今回は迎えには行かず、自室で優雅に紅茶を嗜んでいると、背にしていた扉が一人の男の手に委ねられて音を立てる。
かつてのわたしの光だった彼は、酷く見窄らしく見えている。
それでも、見限れない。
わたしはつくづく、彼に対しては甘く振る舞っていく。
いくら見窄らしくなろうが、わたしが愛する彼には違いない。いつかは戻る。そんな温い考えが楔となってわたしを縛っている。
「今日はレイナと遊ぶんじゃないの?」
「いいや、この前君をぞんざいに扱ってしまった非礼を詫びたくて、こっちに来たんだよ」
執事がその扉を開けて、中から出てきたのは案の定、わたしの想い人であるローウェンであった。
わたしが窓から見下ろしたところ、彼はあまりわたしとの拗れについては気にしていない落ち着いた風貌で、淡々と石畳を踏み締めている。
「今回はレイナ様に会いに来たわけではないと言っておりますね」
「どうかしらね。今までの非礼から、到底信用はできないわ」
わたしは彼への信用を失っていて、溢れ出る怒気を髪を掻き上げる代替行為で誤魔化している。
そうしなければ一目散に馬車へ向かい、彼の顔面を殴り付けている。
「私としても、彼と会うのは精神的に推奨はしかねます」
また前のようなことがあって、わたしの心に負荷がかかるのを心配するシエルは、行かせたくない旨を吐露していた。
「わたしも今更ながら、どっちつかずな部分があるのよね」
彼を殴りたいのは事実だが、いざその後言葉を交わしたいのかと尋ねられると、わたしは首をどう振るのか分からなくなっていた。
歩き方を知らない無垢な赤ん坊のように、わたしは彼との付き合い方における解法を見失っている。
例の手紙には、一度会いたいと軽く綴られている。
最初こそ、またわたしを裏切ってレイナと遊ぶところを意地悪く見せびらかすのかと思い、警戒は解かなかった。
そう簡単に心を許し、信頼を開け渡しても最後には裏切られるのが定番だ。
わたしがいかに彼と結ばれるのを諦めないからといって、彼に委ねるにはまだ信用できない部分があまりにも多い。
ローウェンを愛しているけど、それは出会った当初の偶像に縋っているからこその好意である。
わたしを出汁に使っていると思しき、情をかなぐり捨てた行為には同調なんてできなかった。
「追い返すことも可能ですよ。あなたは十分に耐えました。楽になったとして、誰も責める人はいません」
ローウェンはわたしを何度も何度も裏切り、その悲しみを自らの愉悦に変えて弄んでいる。
女心を踏み躙る、最低最悪の所業をしたこの男を、わたしは未だに愛しているというのも変な話だ。
自分の頭がおかしくなってしまったのかと、自分に自信が段々と持てなくなっていく。
わたしの内面は彼の出現に荒れに荒れていて、御しきるには彼との対面以外にははっきりとさせる手段が分からなくなっていた。
わたしをぐちゃぐちゃにした未曾有の大災害に、わたしは単身、乗り込む決意を固める。
「あれだけ彼を嫌になったのに、わたしは未だに彼を忘れられないのよ」
彼が嫌いなのに、好き。相反するわたしの内面は数え切れないほどせめぎ合っている。
輝かしい偶像を追い掛ける哀れなわたしか、それとも彼に虐められるのが好きな目を覆いたくなるほどの現実が待っているのだろうか。
単純に諦めの悪さが粘着気質になっていたりと、わたしのこの背反する気持ちに納得できる答えはろくでもないものばかりだ。
「いずれにしても、輝かしかった彼の光に追い縋っているわたしの心が招き寄せた結果がこれなのよ」
「まったくもって否定できませんね」
一度でもシエルが肯定してくれたら、全てを投げ打って束の間の安眠に溶け込めただろうに、こういうところは冷たい。
彼女はそう易々と、わたしを解放させてはくれなかった。
「使用人のくせに生意気よ」
「捻くれたお嬢様の相手をしていたら、少しはこちらも捻くれますよ」
シエルは生意気にも、主人の一人であるわたしに喧嘩を売るだけの度量を併せ持っている。
これがなかなかどうして、わたしの勝負所を盛り上げる役を買っていた。
「少し遅れてしまったね」
今回は迎えには行かず、自室で優雅に紅茶を嗜んでいると、背にしていた扉が一人の男の手に委ねられて音を立てる。
かつてのわたしの光だった彼は、酷く見窄らしく見えている。
それでも、見限れない。
わたしはつくづく、彼に対しては甘く振る舞っていく。
いくら見窄らしくなろうが、わたしが愛する彼には違いない。いつかは戻る。そんな温い考えが楔となってわたしを縛っている。
「今日はレイナと遊ぶんじゃないの?」
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