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6話 喝
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わたしはレイナに彼を奪われていくのに、堪え難い苦痛を味わっている。
ローウェンが着実にレイナのものに変わっていくのをその目で見ているうちに、わたしの思い描いた幸せも遠のいていく。
「リエナは思考を固め過ぎているよ。あんな裏切り者の男なんて放り出しても構わないのに」
「柔軟な思考ができたら苦労はしないわよ」
彼にばかり執着していても、現状は苦難の渦に飲み込まれ、溺れるばかりだ。
両親はレイナにほだされてわたしの意見は聞きもしないし、ローウェンだってわたしの約束をドタキャンした挙句にレイナとの約束を果たそうとする。
わたしを産み落とした世界は、あくまでわたしを陥れるために暗躍している。
「あんただっていつ裏切るか」
わたしは長年付き添っているシエルにさえ食ってかかるほどの疑心暗鬼に囚われている。
もはや、見るもの全てが敵に映っていた。
そこに、目の前にいる使用人からのビンタが飛んで来た。
「リエナの馬鹿……親友まで疑ったら、人間はおしまいじゃない」
鏡を見ると、わたしの顔を形成する白い肌が、鮮烈な赤みを帯びていくのが分かる。
痺れを追いかけて走る熱と痛みが長く残っている。
シエルの手はそれに合わせてほんのりと赤くなっていた。
「馬鹿はあんたよ。さっきのをわたしじゃない誰かに見られていたら、不敬罪で死刑になってもおかしくないんだから」
痛む頰を庇いながら、わたしはシエルのしでかしによって降り掛かる可能性のある終焉について忠告する。
そんな終わり方はわたしにとっても、長年仕えている彼女にとっても胸糞が悪い。
「も、申し訳ありません」
シエルはわたしの弱音や疑心暗鬼に腹を立てて、感情任せにわたしを叩いた。
それだけわたしの行く末を案じており、後ろ向きな生き方を送らせたくないと必死になってわたしを守ろうとしているのだ。
「いいわ」
頰に蓄積された熱も冷める頃、わたしは一つの決断を下す。
シエルはわたしの発言を、首を傾げてまで訝しんでいた。
「いいとは」
「わたしは蛮行を働いたあんたを引き渡したりしないって決めたのよ」
「気に食わなければ、どうぞ構わず始末してくれても構わないのに」
首を横に向け、不貞腐れたように小言を吐き出す彼女に、一転して喝が入ったわたしはその側に寄り添う。
「あんたがいてこそのわたしでしょ。わたしの気持ちを分かってくれているのはあんただけだし」
「さっきの無様な様子を見るに、説得力は皆無だよ」
「減らず口を。本当にしょっぴいちゃおうかしら」
彼女からの気持ちのこもったビンタを受けて、なんだか吹っ切れた印象がこの身にはこびりついていた。
少しの理不尽にはもうめげなそうな自分を自らの手で立ち上がらせ、用意された美味しそうなディナーに手を出す。
「なんだか食欲が湧いてきたわ。追加も頼めるかしら」
「私に任せておいて」
後日、ローウェンから思い出したような謝罪文と、再度のデートの約束が記された手紙が舞い込んでくる。
ローウェンが着実にレイナのものに変わっていくのをその目で見ているうちに、わたしの思い描いた幸せも遠のいていく。
「リエナは思考を固め過ぎているよ。あんな裏切り者の男なんて放り出しても構わないのに」
「柔軟な思考ができたら苦労はしないわよ」
彼にばかり執着していても、現状は苦難の渦に飲み込まれ、溺れるばかりだ。
両親はレイナにほだされてわたしの意見は聞きもしないし、ローウェンだってわたしの約束をドタキャンした挙句にレイナとの約束を果たそうとする。
わたしを産み落とした世界は、あくまでわたしを陥れるために暗躍している。
「あんただっていつ裏切るか」
わたしは長年付き添っているシエルにさえ食ってかかるほどの疑心暗鬼に囚われている。
もはや、見るもの全てが敵に映っていた。
そこに、目の前にいる使用人からのビンタが飛んで来た。
「リエナの馬鹿……親友まで疑ったら、人間はおしまいじゃない」
鏡を見ると、わたしの顔を形成する白い肌が、鮮烈な赤みを帯びていくのが分かる。
痺れを追いかけて走る熱と痛みが長く残っている。
シエルの手はそれに合わせてほんのりと赤くなっていた。
「馬鹿はあんたよ。さっきのをわたしじゃない誰かに見られていたら、不敬罪で死刑になってもおかしくないんだから」
痛む頰を庇いながら、わたしはシエルのしでかしによって降り掛かる可能性のある終焉について忠告する。
そんな終わり方はわたしにとっても、長年仕えている彼女にとっても胸糞が悪い。
「も、申し訳ありません」
シエルはわたしの弱音や疑心暗鬼に腹を立てて、感情任せにわたしを叩いた。
それだけわたしの行く末を案じており、後ろ向きな生き方を送らせたくないと必死になってわたしを守ろうとしているのだ。
「いいわ」
頰に蓄積された熱も冷める頃、わたしは一つの決断を下す。
シエルはわたしの発言を、首を傾げてまで訝しんでいた。
「いいとは」
「わたしは蛮行を働いたあんたを引き渡したりしないって決めたのよ」
「気に食わなければ、どうぞ構わず始末してくれても構わないのに」
首を横に向け、不貞腐れたように小言を吐き出す彼女に、一転して喝が入ったわたしはその側に寄り添う。
「あんたがいてこそのわたしでしょ。わたしの気持ちを分かってくれているのはあんただけだし」
「さっきの無様な様子を見るに、説得力は皆無だよ」
「減らず口を。本当にしょっぴいちゃおうかしら」
彼女からの気持ちのこもったビンタを受けて、なんだか吹っ切れた印象がこの身にはこびりついていた。
少しの理不尽にはもうめげなそうな自分を自らの手で立ち上がらせ、用意された美味しそうなディナーに手を出す。
「なんだか食欲が湧いてきたわ。追加も頼めるかしら」
「私に任せておいて」
後日、ローウェンから思い出したような謝罪文と、再度のデートの約束が記された手紙が舞い込んでくる。
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