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ある神託と皇帝
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大国である苑滋に、ある神託が下った。
曰く、皇帝の願いは果たされた。
――皇が求めたものは、この国にあると。
皇帝に仕える者達は騒然とした。
この国の皇帝の願いを、臣民ならば誰もがそれを知っていたからだ。
そしてその願いが、決して叶わない
願いであるということも。
何せ、皇帝が願うのは、かつてこの国にあった皇妃の蘇生である。
毒殺され、儚く散った皇妃の死を皇帝は嘆き悲しみ、怒り狂った。
人が人を部分的に蘇らせる術はある。
ただしそれは外法であり、ましてや成功しても動く死体が出来るだけだ。それを知る者は当然、それが死者の蘇生と言える訳がなく。
生前と同じように生き返らせる術など、人は持たず、神もまた行う術は持っていたが、かつての教訓から蘇生を禁じられていた。
――もし、神託が真実ならば。
皇帝のかつての皇妃への溺愛、いや狂愛ぶりを知る者は、希望を得たとばかりに目を輝かせた。
何故ならば、皇妃を喪ってからの皇帝は、とても見るに堪えない姿で政務を行っていた。
かつて賢君と呼ばれた面影も無く、犯罪を犯した者には、どんな軽微な罪でもより苛烈な処罰を命じるようになった。
以前までは見逃されていたような軽い罪でも、
処罰される罪人は数を増やしていった。死体は都の隅へと捨てられるようになった。
捨てられた死体からは病が運ばれ、庶民にもその魔の手は忍び寄ってきている。
政を疎かにするようになった皇帝の影響か、末端の役人まで命令が届くことは少なくなり、治安は悪化していく。
おまけに、皇帝は隣国に戦争を仕掛ける意向だと噂され、貴族達や商人、庶民達は行先に不安を抱いている。
己を律し理想の君主とまで謳われた皇帝は、今では人々に恐れられる、狂皇と言われるまでになってしまっていた。
――皇帝は神の血を引く存在であり、神の子たる皇帝は国を治める指導者たれ。
その神託を受け取ったのは、皇たる皇帝本人である。
烏の濡れ羽色の髪に、皇帝の証たる赤い瞳。
彫像かと見紛う程、整った美しい顔貌。
贅を尽くした金糸混じりの装飾が施された、華美な衣服を身に纏う姿は、
神話の一場面のように美しい。
美しいその顔からは、一切の感情が抜け落ちていた。
しかし、長年皇帝に仕える者達は、上機嫌な主の機微に気づいていた。
玉座に身体を預ける皇帝は、――冷酷な表情をがらりと変え、見た者を陶酔させるような笑みを浮かべる。
「――そうか。そうか…あの張りぼてが、ようやく言うことを聞いたか」
フッと嗤うようにつぶやき、傅く臣下達を見下ろしながら、一つの命令を下す。
「余が求めるものは――唯一無二の我が妃ただひとり」
「我が妃の姿絵を国中に報せ、配れ。……我が妃を見つけたものには、生涯尽くせぬ程の褒美をやろう」
ただし、と皇帝は付け加える。
「もし、我が妃を傷付けたのならば――その者は即座に人豚の刑に処す。その者の血筋を辿り、一族郎党、赤子に至るまで連座に処す」
こうして、国中のあらゆる場所に皇妃の姿絵が張り出され、皇妃を探し出すこととなる。
「……ああ、ようやく会えるな…私の宝石」
「必ずお前を見つけだす。……次は、死神にも奪わせやしない」
人ならざる者の愛は深い。
神の血を引く存在もまた、愛情深い者が多いと伝わる。
この国の皇帝もまた、例外に在らず。
曰く、皇帝の願いは果たされた。
――皇が求めたものは、この国にあると。
皇帝に仕える者達は騒然とした。
この国の皇帝の願いを、臣民ならば誰もがそれを知っていたからだ。
そしてその願いが、決して叶わない
願いであるということも。
何せ、皇帝が願うのは、かつてこの国にあった皇妃の蘇生である。
毒殺され、儚く散った皇妃の死を皇帝は嘆き悲しみ、怒り狂った。
人が人を部分的に蘇らせる術はある。
ただしそれは外法であり、ましてや成功しても動く死体が出来るだけだ。それを知る者は当然、それが死者の蘇生と言える訳がなく。
生前と同じように生き返らせる術など、人は持たず、神もまた行う術は持っていたが、かつての教訓から蘇生を禁じられていた。
――もし、神託が真実ならば。
皇帝のかつての皇妃への溺愛、いや狂愛ぶりを知る者は、希望を得たとばかりに目を輝かせた。
何故ならば、皇妃を喪ってからの皇帝は、とても見るに堪えない姿で政務を行っていた。
かつて賢君と呼ばれた面影も無く、犯罪を犯した者には、どんな軽微な罪でもより苛烈な処罰を命じるようになった。
以前までは見逃されていたような軽い罪でも、
処罰される罪人は数を増やしていった。死体は都の隅へと捨てられるようになった。
捨てられた死体からは病が運ばれ、庶民にもその魔の手は忍び寄ってきている。
政を疎かにするようになった皇帝の影響か、末端の役人まで命令が届くことは少なくなり、治安は悪化していく。
おまけに、皇帝は隣国に戦争を仕掛ける意向だと噂され、貴族達や商人、庶民達は行先に不安を抱いている。
己を律し理想の君主とまで謳われた皇帝は、今では人々に恐れられる、狂皇と言われるまでになってしまっていた。
――皇帝は神の血を引く存在であり、神の子たる皇帝は国を治める指導者たれ。
その神託を受け取ったのは、皇たる皇帝本人である。
烏の濡れ羽色の髪に、皇帝の証たる赤い瞳。
彫像かと見紛う程、整った美しい顔貌。
贅を尽くした金糸混じりの装飾が施された、華美な衣服を身に纏う姿は、
神話の一場面のように美しい。
美しいその顔からは、一切の感情が抜け落ちていた。
しかし、長年皇帝に仕える者達は、上機嫌な主の機微に気づいていた。
玉座に身体を預ける皇帝は、――冷酷な表情をがらりと変え、見た者を陶酔させるような笑みを浮かべる。
「――そうか。そうか…あの張りぼてが、ようやく言うことを聞いたか」
フッと嗤うようにつぶやき、傅く臣下達を見下ろしながら、一つの命令を下す。
「余が求めるものは――唯一無二の我が妃ただひとり」
「我が妃の姿絵を国中に報せ、配れ。……我が妃を見つけたものには、生涯尽くせぬ程の褒美をやろう」
ただし、と皇帝は付け加える。
「もし、我が妃を傷付けたのならば――その者は即座に人豚の刑に処す。その者の血筋を辿り、一族郎党、赤子に至るまで連座に処す」
こうして、国中のあらゆる場所に皇妃の姿絵が張り出され、皇妃を探し出すこととなる。
「……ああ、ようやく会えるな…私の宝石」
「必ずお前を見つけだす。……次は、死神にも奪わせやしない」
人ならざる者の愛は深い。
神の血を引く存在もまた、愛情深い者が多いと伝わる。
この国の皇帝もまた、例外に在らず。
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