冤罪令嬢、タイムリープで犬猿の仲の幼馴染と恋に落ちる

ヅハ

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二章

護るべき人として

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フィリシアは窓辺に腰を下ろし、遠くの灯りをぼんやりと眺めていた。静かな夜だった。風もなく、空気は澄んでいるのに、胸の奥がざわついていた。

ふと、ライナーの言葉が頭をよぎる。

「俺以外にその顔は見せるなよ」

あの時、彼はどんな顔をしていたっけ。怒っていたわけでも、優しかったわけでもない。
何か、もっと複雑な感情が混じっていた気がする。けれど、それが何なのか、フィリシアには分からなかった。

彼の瞳の奥に、何かを押し殺すような光があった。思い出そうとした瞬間、頭の奥に鋭い痛みが走った。

「……っ」

思わず額を押さえ、息を吐く。痛みはすぐに引いたが、残ったのは妙な違和感だった。
考えすぎたせいだろうか。
今日は色々あったし、疲れているだけ。そう思い込もうとするが、心のざわつきは消えない。

フィリシアは立ち上がり、窓を少し開けた。
冷たい夜風が頬を撫でる。気持ちいいはずなのに、どこか落ち着かない。まるで、何かが彼女の記憶を遮っているような感覚があった。

「ライナーって……何を隠してるの?」

誰にも聞こえない声で呟いたその言葉は、夜の静けさに溶けていった。けれど、彼女の中で何かが、静かに目を覚まそうとしていた。


---

朝の学園は、まだ眠っているようだった。校舎の窓には淡い光が差し込み、石畳の回廊には誰の足音も響いていない。空気は澄んでいて、静寂が広がっていた。

ライナーは、いつも通りの時間に登校していた。彼の隣には、少し早く来たアウレリアが歩いていた。彼女は制服の裾を揺らしながら、何度もちらりとライナーの横顔を見ていた。

「ライナーさん……今日は、ちょっとお話があるんです」

その声は、静かな朝にふさわしく、穏やかで真剣だった。

ライナーは足を止め、彼女を見た。

「話とは、何でしょうか?」

アウレリアは一呼吸置いてから、言った。

「それは……あなたに、私の思いを聞いてほしいんです」

ライナーは眉を寄せた。思い——?

「私……ライナーさんのことが、どうやら好きみたい」

その言葉に、ライナーは目を見開いた。アウレリアの瞳は、照れと決意が入り混じった光を宿していた。

「いきなりでごめんなさい。でも、こうして一緒にいるうちに、そう思うようになってしまったの。ライナーさんがいない時は、寂しいって思うこともあったの」

彼女の声は震えていたが、言葉はまっすぐだった。

「私……ライナーさんなら、私の婚約者になってほしいと思えるの」

静かな回廊に、沈黙が落ちた。風もなく、誰もいない空間に、二人の呼吸だけが響いていた。

ライナーはゆっくりと口を開いた。

「申し訳ありません、王女様。お気持ちは嬉しいのですが、それにはお応えできません。俺は王女様を守るべき立場として見ております。これは俺の責務であり、大事な務めなのです」

彼の声は静かで、しかし揺るぎなかった。

「そこに、それ以外の視点で……俺は王女様を見れません。王女様は、俺の大切な護るべき方ですから」

アウレリアはしばらく黙っていた。やがて、ぽつりと呟いた。

「そっか……悲しいなぁ。やっぱり、私みたいな歳下は駄目か」

「いえ……そういう意味では……」

ライナーが言いかけたその時、アウレリアはぱっと笑顔を浮かべた。

「うん! 分かったわ! でも、これでライナーさんの気持ちがはっきり分かって良かった! じゃあ、教室に行きましょうか!」

振られたはずなのに、元気な笑顔を見せるアウレリアに、ライナーは戸惑いながらも、少しだけ表情を緩めた。

「王女様が納得してくださったのなら……行きましょうか」

二人は再び歩き出す。まだ誰もいない学園の回廊を、静かに並んで進んでいった。


---

学園の廊下はまだ朝の静けさを残していた。フィリシアはセシルと並んで歩いていたが、突如、遠くから荒々しい声が響いてきた。

「喧嘩……?」

セシルが眉をひそめた瞬間、魔法学科の男子生徒が慌てて駆け寄ってきた。

「フィリシア様!大変です!うちの魔法学科の生徒と、剣技学科の生徒が喧嘩してて……!」

「何ですって!?」

フィリシアは即座に駆け出した。セシルも後を追う。

中庭の一角では、剣と杖を構えた二人の男子生徒が睨み合っていた。魔力が空気を震わせ、剣の刃が朝日にきらめいていた。

「あなた達、何喧嘩してるのよ!」

フィリシアの声が鋭く響く。怯むことなく、彼女は二人の間に立った。

「フィリシア様!聞いてくださいよ!こいつが、魔法学科は杖がないと何もできないってほざいてきたんです!」

「当たり前のこと言っただけだろ!何が悪いんだよ!魔法学科なんか、国でも主戦力にされてないだろ?知的探究だの、そういうことしてるからじゃねぇの?黙って剣技学科の後ろにいとけよ」

その言葉に、フィリシアの眉がぴくりと動いた。

「あなた、いくら何でも酷い言い方じゃないかしら?」

「は?何がだよ。お前ら、所詮杖がないと戦えないんだろ?」

「それは剣技学科も剣がなければ戦えないでしょう?」

魔法学科の生徒が反論する。

「俺たちは剣以外にも訓練されてるんだよ。体格だって、俺たちの方が屈強だしな。お前らはそうやって魔法使いごっこしてろよな」

その言葉に、フィリシアは一歩前に出た。

「じゃああなた、今の私に剣で斬りかかってみなさいよ」

「は?何言ってんだよ」

「剣技学科の方が強いんでしょう?ほら」

挑発的な言葉に、剣技学科の生徒は苛立ちを隠せず、剣を構えた。

「ああいいよ!それがお望みなら、斬ってやるよ!」

「フィリシア!」

セシルの叫びが響いた瞬間、フィリシアの手から紫の光が迸った。魔力が空気を裂き、剣技学科の生徒を吹き飛ばす。

「うわっ!」

周囲にいた生徒たちが息を呑む。

フィリシアは静かに言った。

「私、杖がなくても生まれつきの魔法で戦えるのよ。そういう人もいるってこと、ご存知?」

その言葉に、剣技学科の生徒は顔を引きつらせた。

「なっ……んなこと知らねぇよ!」

そう叫ぶと、彼はその場を逃げるように去っていった。

「すごいフィリシア様!」

「かっこいい!」

称賛の声が飛び交う中、フィリシアは静かに目を伏せた。

(魔法学科だからとか、杖がないとか……そんなこと言われる筋合いないわよ)

誇りと怒りが胸に渦巻く。だがその瞬間——

「うっ……!」

頭の奥に、鋭い痛みが走った。

「フィリシア?大丈夫?」

セシルが心配そうに覗き込む。

「う……うん、平気よ」

フィリシアは笑ってみせたが、痛みは確かに残っていた。何かが、彼女の中で静かに軋んでいた。

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