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4th フェーズ 奪

No.104 おかあさん

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 施設からの脱出の途中、図面を仕入れているキリサメすら知らない部屋が現れる。
 その部屋に入るとそこには思わぬ人物がいた。

「おかわりもあるからね」

 その人物はエデンズゲートプロジェクトの主任、カイ・ザイクだった。
 なぜかユキチカとキリサメは彼女が作ったカレーを食べていた。

「カイここにいたんだね」
「回収されたのは、知ってた」

 ユキチカにおかわりを持ってくる為にキッチンに戻ったカイをみながら、小さい声で話す2人。

「身体は前とほぼ同じ」
「機械の体、最初から?」

「でも身体の中は前と違う」
 ユキチカはカイの体内が改造されているという事に気づいていたようだ。

「ほら、おかわりよ」
 カイはおかわりをユキチカの前に置く。

「わーい、ありがとう!」
(こんな状況で……何を考えてる)
 カレーを頬張るユキチカを横目に観察するキリサメ。

「よほどお腹が減ってたのね。お母さんのカレー美味しい?」
「うん!美味しい、ありがとう!」
 ユキチカの言葉を聞いて、カイは嬉しそうに微笑んでいる。

「カイ・ザイク、私達ここから出ないと」
「何を言ってるの?全くあなたは、今度は何に影響されたの?」
 出ていこうとするキリサメを引き止めるカイ。

 どうやら彼女は二人のことを自分の子どもだと思いこんでいるようだ。

「さ今日は映画デーだから、テレビの前に集合!ポップコーンも丁度できたよ」

 カイは2人を軽々と持ち上げる。

「うわ、力持ちー!」
「っ!」
 2人はソファに座らせられた。体を改造している彼女にとってはこれぐらい何てことないのだろう。
 
「はい、2人のお気に入りの子達も忘れずにね」
 カイはペンギンのぬいぐるみを2人に持たせる。

「今日はお母さんが映画を選ぶ番だったよね」

 こうして3人は子ども向けの映画を観始めた。

「おー!」
 ユキチカは興味津々にその映画を観ている。
「……ねえ、ユキチカ」
 キリサメはなんとか逃げるタイミングがないか探っている。

「ふふ、2人共夢中になってるね」
 カイはと言うと彼女の隣に置かれた他より一回り大きいぬいぐるみに話しかけていた。

 するとピンボーンっと部屋のインターホンがなる。

「配達?何かな、大丈夫あなたはこの子達と映画をみてて」
 隣のぬいぐるみにそう話しかけ、ソファから立ち上がるカイ。

「夜分遅くに失礼します、カイ・ザイク様」
 扉の外にはアンドロイド達が立っていた。

「何のよう?」
「こちらに脱走者が来られませんでしたか?」
 アンドロイドはカイに質問した。

「脱走者?そんなの知りません、私は今家族で映画を観てるの、邪魔しないでもらえる?」

「畏まりました、失礼しました」
 アンドロイドは頭を下げて扉の前から去っていく。

「追い返した、私達の味方?」
 その様子をみていたキリサメは驚いた顔をする。

 彼女はカイのこれまでの行動は彼女らを足止めする為のものだと考えていた、しかしそれでは今の行動は筋が通らない。

 彼女は今まで通りの殺すべき障害なのか、それとも自分たちの協力者なのか。初めてみるタイプの相手にキリサメは困惑していた。

「あ、ポップコーンなくなっちゃった?がっつき過ぎ、次ので今夜は最後だからね」

 ユキチカが空にしたポップコーンの入れ物をみてカイはそう言った。
 彼から入れ物を受け取り、最後のおかわりを作りにキッチンに向う。

「鬼丸ユキチカ、今のうちに、脱出」
「え?ああポップコーンと映画」

 訳がわからなくなったキリサメは当初の目的に意識を引き戻す、ユキチカをこの施設から脱出させる事だ。

 彼女はユキチカを担ぎ、無理やり部屋の外に出ていく。

「ちょっとどこ行くの!」
「またね~」
 担がれながら手を振るユキチカ。

「ねーポップコーンまだ残ってたよ」
「遅れた、早くいこう」
 とにかく、まずは先に進むことだとキリサメはユキチカを運ぶ。

 通路を進んだ先でアンドロイド兵にでくわす。

「……ッ!」
「目標を補足しました」
 司令室で部下がヴァーリに報告する。

「殺すなよ、と思ったが、相手はそう簡単に死なない。殺すつもりでやっていいぞ」

「ユキチカ、闘う」
「でもぼく装備殆どないよ、さっき持った時軽かったでしょ?戦えるやつ殆ど外されちゃった」
 ユキチカは自分の腕を展開させて見せた。

 中身は殆ど空だ。

「そうだった……」
 

 最小限の戦闘のみをし、逃げて回るキリサメたち。

「まずい、囲まれる」

 キリサメは音で背後からだけでなく、通路の前方向からも敵が押し寄せてきているのを感知した。

「私が時間を稼ぐ、ユキチカは……」
 自分が囮になろうとしたキリサメ、しかしその作戦をユキチカに伝える前に彼女は物音に反応した。

「っ!」

 ユキチカの前に飛び出して、彼女は壁に向かって構える。
 すると壁が動き通路が現れた。

「2人共こっち」
「カイ!」
 そこからカイが顔を出した。

「悪い人に追われてるんでしょ?お母さんが守ってあげる、安心して」
「いこ!」
 今度はユキチカがキリサメを先導し、壁に現れた通路に入る。


 その時ヴァーリの部下達は忙しく監視モニターを切り替えていた。

「2人が消えた?どういう事だ」
「使える通路は全てアンドロイドが見張っているはず、監視カメラにすら映っていないなんて、もしかしたら破壊された機材がカバーしている範囲に逃げこんだのでは?」

「アンドロイドを連れて行く」
 ヴァーリは兵を連れて監視室から出ていく。

 この施設の者すら知らない通路を進むユキチカ達。

「この道は?図面になかったよ」
「少し仕事の合間にね、お母さんが秘密の通路を作っちゃったの」

「おー!学校でシャロとやろうとしたやつ!」

「結構大変だったけどね、コツはこっそり少しずつ」
 振り向いて微笑むカイ。
 
 ある程度道を進んで行くと、カイは通路の壁を開ける。

「この通路を進めば出口はすぐだよ。お母さんは悪い人たちを止めておくね」
 
「ありがとう!お母さん!ほらスズメ」
 ユキチカはカイにハグをし、キリサメもひきこんだ。

「ありがとう……おかあさん」
 ぎこちない様子のキリサメ、初めてこんな言葉を口にしたのだろう。

「……いいんだよ。あなた達を守るのが私にとって一番大事な事だから」
 カイは一瞬驚いた顔をした。

「ありがとう……さあ行って!」
 彼女は二人を抱きしめ返し、二人を送り出した。



 ユキチカとキリサメが走り去って間もなく、アンドロイドの集団がやって来た。通りを埋め尽くすほどの数だ、空中から彼女を狙うドローンも飛んでいる。

「子どもたちに手は出させない!」
 カイは両腕をレーザー砲へと変形させる。

 彼女が放った一撃は敵集団を瞬く間に消し飛ばしていく。
 しかし、突然レーザーが周囲に拡散し消えてしまう。

「光が拡散した!?」
 アンドロイド集団の中腹に、特殊な装甲を施された機体が立っていた。その者がレーザーを防いだのだ。

 その特殊機体は瞬時に接近し、刃のような指先をカイを胸部に突き刺した。

「……ッ!こんなので……私を止められると思うなッ!」
 彼女は腕を元に戻し、特殊機体の頭ごと中枢部分を引き抜く。

 特殊機体は動作を停止、カイと共に倒れた。

 しばらくするとその場にヴァ―リが現れる。

「カイ・ザイク、どういうつもりだ?」
「自分の子は命を賭して守る、それが親の役目でしょう?」
 倒れたカイは見下ろしてくるヴァ―リに向かってそう言った。

「アイツらは貴様の子ではない。この世界に貴様の家族などいないんだ。だからこそ、エデンズゲートを完成させるのだろう?そして向こうの世界にある幸せな家庭を手に入れる、それが貴様の幸福だ」
 
 頭を振るヴァ―リ。

「身体が真っ二つになり頭がイカれ、おままごとに興じていたのは知っているがここまで酷いとはな」

「違うな、ヴァーリ……」
 そう言うカイの目はまっすぐと彼を見つめていた。

「私は至って正気さ。お前は分かっていない」
「なんだと?」
 ヴァ―リはカイの様子が変わった事に気付く、話し方が以前の彼女に戻っている。

「お前は世界を壊してまで何かを手に入れようとしている、それが幸せだと信じている。でも違う」

 カイは自分の胸に手を当てる。

「幸せとは外の世界にあって、探し回って手に入れるものじゃない。常に自分の内にあるものだったんだ……あの子達がそれを教えてくれた……私は今日なによりも幸せだったよ」

 そう言い残し、カイは静かに息を引き取った。

「自分の内に?やはり貴様は狂っているよ」
 カイが死んだ事を確認したヴァ―リはその場を去る。

「人の内にそんな美しいものがあるものか」

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