脳筋転生者はその勇まし過ぎる拳で世界にケンカを売ります。

きゅりおす

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第84話 激闘の後

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「ん……」
 タケミは目を覚ました。

「タケミ様、おはようございます」
 彼を膝枕していたマートル姫の顔が、一番最初に見えた。

「ああ、マートル。ここに居るってことは試合は終わったんだな」
 起き上がるタケミ。

「タケミ!」
「よ、ユイ」
 彼が起きた事に気付いたユイとネラが近づいて来る。

「おれ、負けたんだな」
「……ああ」
 彼の発言に頷いて答えるネラ。

「で、でもあの最後のパンチが当たってたら!」
「ユイ、やめろ」
「いいよ、おれは今まで色んなものに甘えてた、でもあの人は違った全てが積み重ねられたものだ、それにおれは負けたんだ」
 天井を見上げてタケミはそう言った。

「気を使われるのはなんか慣れねぇな。いつもは怒られるのに」
 彼はそう言って笑ってみせる。

「え?良いなら色々言いたい事あるんだけど」
「それじゃあまずは何から叱ってやろうか」
「あれ……そうなる?あー、おれ腹減ったな。外で飯食わねぇか!」
 話を逸らす為に彼は腹をさすってそういった。


 同じタイミングでプロエも目を覚ます。

「プロエ、起きたか。まだ休んでろ」
「負けたよ」
 目を覚まして一言、プロエはダマトにそう言った。

「最後の一撃でカヅチ・タケミの意識は断ち切れた、だがヤツの闘争心の火は消せなかった」
 プロエは自分の拳をみる、戦いの後で手当てをされたようで包帯に覆われている。

「おれはもう動けなかった。あの一撃を食らえば倒れていたのはおれだ」
「そうだな」
 ダマトが彼の隣に座る。

「だがきっとヤツはそんなセリフ受け入れないだろうな。厄介な事に……」
「ふっ、そうだな」
 プロエの言葉に笑って頷くダマト。

 すると扉をノックする音が。
「うん?誰だ?」
 ダマトがそういうとゆっくりと扉が開き、キングとクイーンが入って来た。

「あんたら……勇者がなんのようだ?外に見張りがいるはずだが」

「試合の後で押しかけてすまない。恐らくこの情報を知らないと思ってね」
「プロエさん、実は……」
 キングとクイーンはプロエにある事を伝えた。

「それは本当か?!」
「プロエ……」
 プロエは彼らの話を聞いて部屋を飛び出す。



 少し話はさかのぼり、チャンピオン戦が始まった時の話。

「君は我を酷いやつだと思っているのかね?」
 夕日に照らされる道を歩くバアル。

「仕事に私情は持ち込むなと言われているので」
 その後ろをついていくカシン。

「ふうん、お?なんだこれは?」
 バアルはある店の前で立ち止まる。

 すると少しばかりやつれた男が出てきた。

「おー!これはこれは!いらっしゃいませ!こちらはドネル・ケバブサンドといって串焼きしたブロックの肉を削いで、こちらの生地に他の具材と共に挟む料理です。片手で食べられるので観戦の邪魔にならないですよ!お一ついかがですか?」

「うむ、良い香りだ、ヒミツはタレだな?」
 香りを嗅いでバアルがそう言う。

「秘伝のタレとじっくり丁寧に焼き上げる事で最高の味を出しているんです!お客様には常に最高の物をお出ししたいですから!」

「ならばなぜ肉は普通の物を使っているのだ?それが悪いとは言わないが、これだけの良いタレを作れるのだったら肉もこだわるかと思ったのだが」
 バアルがそう言うと頭を下げる店主。

「そ、それは……お恥ずかしい話、良い肉を買う元手無くてですね……」
「結構繁盛していそうだが?立地も悪くないし先程説明してくれたとおり、このように手で簡単に食べられる物は需要があるだろ?」
 店主はバアルの発言に頷く。

「仰るとおりなのですが……」
 商品や立地、つまりは店側が原因というわけではないようだ。店主は言いよどむ。

「なるほど、失礼な事を聞いたな、すまない。いくつか頼めるか?君は?」
 バアルはカシンに尋ねる。

「仕事中なので結構です」
「真面目だな、それでは幾つもらおうか……」
 

「君は新聞とか読むかね?」
「いえ」
 商品を受け取ったバアルは質問をする。

「そうだったか。次の仕入れから君は最高級の肉を扱えるようになるぞ」
「ど、どういう意味ですか?」
 バアルの言っている事が理解できない店主は首をかしげる。

「時期に分かる。それではまた来るよ」
「ど、どうもありがとうございました!」


「あらチャンピオン戦が始まってるのにお客様?」
「ああ、気前の良い人でね。沢山買ってくれたしちょっと多めに払ってくれたんだ」
 店の奥から出て来た女性、恐らく店主の妻だろうか。

「今日は色々と起こる日ね。ほらあんたこれ読んでないでしょ」
 その女性は彼に新聞を渡した。

「あ、新聞だ。ふん、なになに……ええ!?こ、この人!うそ!」
 店主は口をあんぐり開けて新聞から目線を上げる。



「なんのようだ、バアル」
「いや、貴様にしては実に良い所に住んでいると思ってな」
 一方その頃、闘技場のVIPルームにいるカテナ・ベラードの場所にバアルが訪れていた。

「衛兵はどうした!何を素通りさせている!」
「衛兵を私にけしかけるつもりか?随分と非道な事をするんだな、自分の部下に必ず失敗する事を命令させるとは」
 バアルがゆっくりとベラードの前に歩いていく。

「少し貴様に話をする必要があってな」
「なんだ?」
 近くにあったイスを浮かせ、自分の側に引き寄せるバアル。

「グラトニーナたち、それと今回の女神の件だ」
「っ!」
 目を見開くベラード。

「他の者たちを下がらせた方が良いのではないか」
「下がれ」
 ベラードは急に汗をかきはじめる。

「で、ですが……」
「良いから下がれと言っているんだ!早くしろ!」
 必死な顔で怒鳴るベラード。

「どうした?随分と顔色が悪いな。おっとそうだ土産があるんだ。まあ土産と言っても、この土地で手に入れたものだが」
 鞄を前に出し見せるバアル。

「この鞄なにか知ってるか?」
「え?」
 ベラードの目線と同じ高さになるように座っている椅子を浮かせるバアル。

「この鞄は殺し屋達が標的を殺した証を保管しておくものだ。依頼主の中にはちゃんとその首をみないと納得行かないという者も多いらしい。随分と苦労の多い仕事だ」

「そういばお前の部下たちは頭の小さいものが多かったな。この鞄なら数人分は入りそうだ」
 バアルはゆっくりと鞄を開ける。

「え……お前、ま、まさか!」
 彼は鞄の中のものをカテナ・ベラードに投げた。

「はああ!……あれ?肉?」

「ハッハッハッ!外で最高のケバブを買ったのだ!最高だったぞ今の反応は!」
 腹を抱えて笑うバアル・ゼブル。

「あーあ、貴様がちゃんとキャッチしないから、ソースが服にべったりだな。それにケバブサンドが落ちてしまった」
床に落ちたサンドを拾い上げるバアル。

「て、テメェ!ふざけやがって!」
 鉄球を取り出すプロエ。

「おおっと良いのか?そんな事をして……」
 


「カテナ・ベラードッッ!貴様どういう事だ!」
 プロエが部屋に入って来た。

「プロエ何をしていた!コイツをやれ!」
「黙れ!約束をたがえた貴様にもう仕える義理は無い!」
 怒鳴り返すプロエ。

「な、なんの話だ!訳の分からぬことを」
「村の者には手を出さないという約束だったはずだ!それを貴様!」
 プロエは鬼のような形相で詰め寄る。
 
「先ほどから口の聞き方がなってないぞプロエ!その村の者がどうなったというのだ?うん?それを俺様がやったという証拠は?」
 
「ふむ、貴様が魔神軍に隠れてこそこそ奴隷商売の証拠というのならここにあるぞ」

 バアルはプロエの前に大量の紙束を置く。

「これは奴隷商売の記録だ、いつどれほどの奴隷がやってきてどれだけ売れたのか、それらの情報がすべて乗っているぞ」
 
 青ざめるベラード。

「どれだけ非合法の商売といえども商売は商売、損益を把握するために記録をつけるのは当然だからな」
 手に持った一枚の資料をみるバアル。 

「こちらの記録によるとついこの間、この近辺にある村から大量の奴隷がやってきたそうだ。ここに来る前に君の故郷に寄ってみたが働き手となる若者や子どもは軒並みいなくなっていた」

「大方、取引に必要な魔石の調達に村の者を売ろうとしたんだろ?このくだらん薬や腕輪を使えば強力な兵隊が出来る。そうなればプロエにバレた所で一人ぐらいどうにか出来る、とでも考えていたのだろう。実に浅はかだな」

「……ッ!」
 プロエがベラードを睨みつける。

「な、なんだその目は!ここは俺様の領地だ!俺様がしたいようにして何が悪い!貴様も所詮は俺様の奴隷なんだよプロエッ!」
 逆上したベラードは鉄球をプロエに投げつける。

「貴様は本当に……どこまでもクズだな!」
 プロエは鉄球ごとベラードを拳で打ち抜いた。

「ぶべぇッ!」
 部屋のガラスを割り、ベラードは闘技場に落ちていく。

「くそ……あいつは戦闘でボロボロのはずなのに……!」
 ベラードは立ち上がり、誰もいない闘技場から逃げ出していく。

「くそ!他の奴はいないのか!」

「流石に大領主を任せられただけあるな。まだ生きてるのか」
 割れた窓からバアルが走り去るベラードを見ていた。

「追うかね?」
「もちろん」
 二人はそう言って部屋を出てベラードを追いかけて行く。

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