脳筋転生者はその勇まし過ぎる拳で世界にケンカを売ります。

きゅりおす

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第85話 新しい大領主と元大領主

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「ハァハァ、ハァハァ!ちくしょうバアルめ!」
 逃げるカテナ・ベラード。

(にしても何だ?街の奴ら、大領主様がこんな必死に走っているのになにも声をかけてこねぇ。どう見たって一大事だろ!この通りにいる連中はあとで処罰しねぇと!)
 彼を見て街の者が何やら話している、だが今は自分の身を守らねば。ベラードは背後に感じる巨大な魔力の存在から逃げていく。

 街中を走る彼の前に一人の子どもが飛び出してきた。

「これだ!」
「うわッ!」
 彼は子どもを捕まえる。

「はぁ、はぁっ、来るんじゃねぇ!バアル・ゼブル!」
「プロエもだ!このやろう!」
 ベラードは子どもを盾にした。 

「え?プロエおじちゃん?」
「っ!どうしてここに!?」
 子どもをみてプロエが驚く。

「キングさんとクイーンさんが連れてきてくれたの!」

「あの街のガキか!おいプロエ!妙な真似すんじゃねぇぞ!テメェの大事な村のガキがどうなっても知らねぇからな!」
 これは好機と思ったベラードは得意げにそう言い放つ。

「貴様ッ!」
「お前ら!そこにいるやつは大領主である俺様に歯向かった連中だ!捕らえろ!」
 鬼のような形相になるプロエに臆しながらベラードは周囲にいる住民に命令した。

「……」
 住民は彼の命令を無視する。

「おい!なに無視してんだ!そんな事して良いと思っているのか」
 ベラードが怒鳴るがそれでも住民は動かない。

「お前の方こそ先程から何を言っているんだ」
「なに?」
 バアルの言葉に反応するベラード。

「ああそうか、これを見せてなかったな」
 そう言ってバアルは歩いていく。

「近づくんじゃねぇ!」
「黙れ」
「……!」
 ベラードの前に立つバアル。

「まだ話の途中なのに貴様が逃げ出すから。改めて挨拶しよう、大領主バアル・ゼブルと申します。本日よりこのベスガを中心とした一帯の領地も我が領地として納めさせて頂くものです」
 バアルは嫌に丁寧な挨拶とお辞儀をして一枚の書類をみせた。

「な、なんだこれは!?」
「見ての通りだ。貴様の領地は我が買い取った」
 書類には領地がバアルの発言を証明する内容が記述されていた。

「ふ、ふざけるな!俺様の領地を勝手に!」

「ん?何を勘違いしている。魔神軍大領主は魔神王様の代理でその領地を納めているだけだ。貴様も知るようにあのお方は事情により直接統治ができぬ故、代わりに大領主を設けたのだ。貴様はただの代理、権利を持つのは魔神王様だ」
 書類を懐にしまうバアル。

「もう既に魔神王様とは話がついている。それでここに来たのだ」
「そ、そんな買い取るだと……そんな」
 状況を理解できないようすのベラード。

「おい、我が魔神軍を抜けて、その後我の領地はどうなった?我が買い取ったのだ、魔神王様から連絡が来ているはずだぞ?」
「え?」
 ため息をつき頭を振るバアル。

「はあ、おおかた女神共に取り付くのに無い頭を振り絞っていたのだろう」
 バアルはもう一枚別の書類を見せた。

「そして貴様の財産を管理しているものと話をして、貴様の持つ財産すべてを私が譲り受けた」
「な……!?」
 
「まあつまりこういう事だ。貴様はもはや大領主ではない、ただの魔神軍の1兵だ。それも素寒貧のな。せめて自分の財布くらいは自分で管理すべきだったな」
 バアルの言葉でベラードの視界が揺らいでいく。


「にしてもまったくグラトニーナに続いて貴様も女神と通じてたとは。いや、寧ろ貴様が発端か」
「ッ!」
 ベラードの顔色がどんどん悪くなっていく。

「妙だと思ったのだ。あのグラトニーナがどうやって女神に近づいたのか。奴がそんなに頭が回るとは到底思えん。そもそも女神なんて奴からしたら恰好の餌だからな。女神もグラトニーナ達の危険性は承知しているはず。となれば2人の間を取り持つ存在がいる事は容易に想像できる」

 ベラードを鋭い目つきで睨むバアル、もうすでにベラードは言葉を発する事が出来る状態ではなかった。

「そして人身売買、まったく……魔神王様が禁止されているというのに。あの方はそういうのを最も嫌うのを知っている筈だぞ?」
 バアルは額に手をあて頭を振る。

「人身売買に女神共との画策。どちらも貴様を消すのには十分な理由だ」
 ベラードは震え始めた。

「だが我は貴様を殺さない。必要がないからな」
「え?」

「そういえばその子ども達には強力なボディーガードがいるとか」
「ボディガード?」
 プロエがそう言ってバアルをみる。

「確か黒毛の……兎はクレイピオスだな。そうだ巨大な黒毛の虎だ」
 バアルはベラードの背後を指差す。

「今まさにそこで牙を光らせている、な」

「ッ!」
 ベラードが振り向くと巨大な牙が迫っていた。

「クソ!」
「うわ!」
 彼はあろうことか手元にいた少年を突き出して盾にした。

「……GRRRR!」
 黒虎は少年を優しく受け止め、プロエに向かって投げる。そして目の色を変え、べラードの喉に牙を突き立てた。

「大丈夫か!」
 プロエが少年に駆け寄る。

「うん!クロが助けてくれた!」
「ああ、良かった」
 プロエは少年を抱きしめた。

「ごぼッ……ごぼぼッ!」
「今ので首をやられたな、水に溺れてるような音しか出せんくなったか」
 バアルが倒れたベラードにゆっくりと近づく。

「ごぼっ!ごぼ!」
 ベラードは周囲に向かって何かを言おうとしているが言葉になっていない。

 周囲にいる住民たちは誰も目を合わせようとしない。

「哀れだな、これが与えられた権利に酔いしれ自らを肥やすことしか考えぬ者の末路だ。もう少し歴史でも勉強すべきだったな」


「もし貴様が民を敬い、賢明に、懸命に、働けばな。例えその地位を追いやられたとしても、貴様を助けようとするものが現れたかもしれなかった」
 バアルはベラードの前で屈む。

「ほら、忘れ物だぞ。我が貴様に奢るなんてそうそうないぞ?貴様が下手くそなキャッチを披露したドネル・ケバブサンドだ」
 そう言ってバアルはベラードの口を開けさせ、ドネル・ケバブを口にねじこむ。

「味わんだ、食事にありつける事に心から感謝しながらな。なぜならそれが……」
 バアルは立ち上がり背を向ける。

 待っていたかのように、ベラードの背後から黒虎が襲い掛かり彼に喰らいついた。

「ーーーーッ!」
 声も出せぬベラードはただもがく事しか出来ない。

「貴様にとって最後なのだからな」
 


 バアルはゆっくりと歩いてプロエと少年の元に行く。

「あれ?ケバブの匂い!おじさんケバブ買ったの?クロはねケバブ大好きなの、この街に来て食べたらね大好きになったの!」

「それは良かった、丁度いまクロに特大のケバブを用意して上げたんだ」
 バアルは少年の頭に手を置きそういった。

「そうなの!?じゃあクロ喜んでるね!」
「あ、ああそうだな。向こうに行こうかクロの食事の邪魔をしてはいけないからね」
 少年が振り向こうとするのを緩やかに止めるプロエ。

「そうだ少年、名前は?」
「ぼくライト!」
 バアルはライトの前で肩膝をつく。

「ライト少年、君の好きな物はなにかあるかね?クロが好物を楽しんでいる間それを一緒に食べようじゃないか。プロエもどうかな?」

「ええ、喜んで。さあ行こうライト」
「うん!」
 歩きながら後ろを振り向くバアル。

(フォルサイトがケバブを買ってくれと言ったのはこういう事だったのか)


 それからしばらく、するとクロが3人の元にやってきた。バアルがクロの頭を撫でる、プロエとライトは出店で買い物をしていた。

「もう食べ終わったのか」
「けふっ」
 クロは口からベラードが身につけていた装飾品を吐き出す。

「満足してもらえたかな?」
「ガウ」

「あ!クロだ!」
 こうして元大領主カテナ・ベラードはクロの腹の中に収められたのであった。

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