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第119話 聖騎士の登場
しおりを挟む迫りくる敵を倒し続けていたプロエとベロニカ。
襲い掛かって来る敵を一人、また一人と最小限の動作で倒していく二人。周囲の敵がいなくなるまでこの状況が続くかと思われた、しかし勇者達が突然襲って来なくなった。
「なんでしょうか、小休憩の時間ですかね……おや、何か来ますね」
ベロニカは近くにある岩場の上に目を向ける。
二人を見下ろせる岩の上に何者かが立っていた。
「なんだ高みの見物かな?それとも足がすくんでるのか、降りるの手伝おうか?」
プロエがその者に話しかける。
「この雑兵共では貴様らの相手はいささか荷が重いみたいだな」
その者は周囲で待機している勇者達をみる。
「お前は違うと?」
「ああ」
その勇者が姿を消した、次の瞬間プロエとベロニカは吹き飛ばされた。
「……ほう」
「なるほどな」
二人はゆっくりと起き上がる。
「高速移動か」
ベロニカがそう言うと二人の前に現れた聖騎士が頷く。
「如何にも、俺の能力は加速、貴様らがどれだけ強かろうが攻撃が当たらねば意味がない。その体も圧倒的なスピードを上乗せした攻撃を何度も受ければ流石に効果はあるだろう?」
「一人で私達を相手にすると?随分な自信じゃないか」
「いや、流石にそこまで過信はしていないさ。だからこの装備がある」
聖騎士が鎧に魔力を込める。
「俺たち聖騎士は極限まで引き上げられた自身の能力に加え、女神様から特別な装備を与えられた、選ばれし存在!」
「へぇ、それでその選ばれし聖騎士様はどうするんだ?」
プロエの言葉に対して聖騎士は笑う。
「こうするんだ」
聖騎士の背後からもう1人まったく同じものが現れた。
「なるほど、分身するとは、魔力の量も性質も全く一緒ですね」
「単純だが、これで人数差は消えたな」
ベロニカとプロエの間に二人に増えた聖騎士が割って入る。
「俺の名前はニドヅだ、覚悟しろ!」
ニドヅと名乗った聖騎士は能力を発動させ、ベロニカとプロエに攻撃を仕掛けた。
突風と共に二人は別々の方向に押し出された。
「確かに……早いな……」
「ううむ、流石スピード自慢なだけありますね。まさか私でも捉えきる事ができないとは。プロエ殿は見えますか?」
ベロニカの質問に対して笑って首を振るプロエ。
「おれは少し魔神の血が入ってるだけの平々凡々なおじさんだ。見える訳ないだろ、あと魔力で探知するのも得意じゃないしな」
相手の攻撃を受けながら返すプロエ。
(こいつら、この状況で会話とは)
「にしても、彼が使う武器は面白いですね」
「ああ、ザラザラしてる」
二人はニドヅから攻撃を受けた箇所を撫でる。
この勇者が持つ武器は棒状で、特徴的なのは持ち手以外の部分に無数の刃が並んでいた、まるでサメの刃を並べたような見た目をしていた。
(この武器にして正解だな、貴様らに生半可な剣では文字通り刃が立たない、削り仕留める!)
一方その頃タケミは単身で敵陣の中を突き進んでいた。
「本当に多いな」
勇者の頭を掴みながら周囲を見渡すタケミ。
「く、クソこいつ!離せ!」
捕まった勇者は暴れて、タケミの身体を剣で斬りつけるがかすり傷すらつかない。
「わりぃな、とっておきのは後に残しておかねぇとならないんだ」
タケミは掴んだ勇者を敵集団に向けて投げ飛ばす。
「赤鬼!」
彼の身体が赤くなり、蒸気が噴き上がる。
「あつっ!」
「なんだ、身体が赤くなった!変身する能力を持ってるのか!?」
周囲の者達は彼が放った熱に驚く。
「お前らもやろうと思えばできると思うぞ」
次の瞬間タケミは勇者達の背後に現れた。
「え……?」
タケミは近くにいたものを殴り飛ばす。
「あなたの悪行もここまでよ!」
彼の前に女神が現れた。
「お!来たな女神たちか、もう少しは骨がある……」
タケミは腕を回しいざ闘おうとした、その時。
上から降って来た物に女神は潰されてしまった。
「あ」
「タケミ様ー!遅れましたわ!」
現れたのはマートル姫だった。彼女は自身の背丈と同程度の大きさを誇る斧を持っていた。
「マートル!なんだそのでっかい斧!」
「これを取りに里に帰ってましたの。我が一族に代々受け継がれる家宝ですわ。代々磨き、鍛えられた戦斧。名をイナンナ」
「そんな凄いもんがあったのか!」
タケミは目を輝かせてそう言った。
「あ!別にタケミ様に手加減をして使わなかった訳ではないですよ!試練の闘いと一族同士の戦いでは使わないという決まりでして」
「ああ、そんな心配しなくていいよ。ありがとな」
タケミは笑ってそう言うと、マートルが顔を隠す。
「はぁ~タケミ様の感謝の言葉、染みわたりますぅ!」
「なんだアイツ?」
「良く分からないけど隙だらけよ!今のうちに!」
マートル姫に勇者と女神が奇襲を仕掛けた。
勢いよく振り下ろされた相手の武器が弾かれる。
「え?剣が弾かれた……?!」
「私は今、タケミ様からの感謝の言葉を噛み締めて味わっていた所でしたの。その邪魔をするとは……」
マートル姫は斧を軽く一振り。
その軽い一振りは周囲の者を消し去るには十分だった。
「すっげぇ破壊力」
「タケミ様、どこかに向かわれていましたよね?私が道を開けさせて頂きますわ」
彼女は縦に斧を振る、雲が割れて彼女の正面にいる敵が吹き飛ばされていく。
「おおすげぇ」
「さあ参りましょう!」
「待ちな!」
先に行こうとしたタケミとマートル姫の前に新しい敵が現れた。
「お、なんだ今度は」
「私の名はファッジ!聖騎士である私がここで貴様らを食い止める!」
ファッジと名乗る聖騎士は武器を構えポーズを決める。
「へぇー聖騎士か、なんかまた仰々しい名前のが出て来たな」
「私の能力は無限増殖!」
ファッジは見る見るうちに分裂していく。
「おお、便利そうだなー。食料の調達とか」
「そうだ!タケミ様、お腹すきませんか?お弁当持ってきましたの」
マートル姫は宙に現れた魔法陣からお弁当を取り出した。
「いいな!ちょっと腹ごしらえするか」
二人は敷物を広げ、その上で弁当を食べ始める。
「お、おい!ちょっと聞いてる?!」
「うん聞いてる、聞いてる」
「どうぞ、お話を続けてくださいませ」
二人はそう言ってファッジに話の続きをさせる。
「飯食いながら……私は聖騎士!能力だけでなく、この剣がある!」
剣を見せつけるファッジ。
「……こ、この剣の前ではお前らがどれだけ頑丈だろうが関係ない!どんな防御も貫き、一定のダメージを負わせる!」
剣の説明をするファッジ、その間もタケミ達は弁当を堪能していた。
「ふーん、だってよ」
「なるほど、その剣も共に増殖させて、数で圧倒しようという事ですね」
タケミとマートル姫はちゃんと話を聞いていたようだ。
「そう言う事だ!」
「ふぅーごちそうさま!美味かったー」
「ふふふ、喜んでもらえたようで何よりです」
マートル姫は空になった弁当箱を宙に出した魔法陣の中にしまう。
「それじゃあ今度は食後の運動でもするか」
「ええ、そうしましょう」
タケミとマートル姫は立ち上がる。
「話してる間に随分と増えたな」
「これは散らしがいがありますわね」
ファッジは既に百名以上に増えていた。
「やってみろ!」
ファッジたちはタケミとマートル姫に襲い掛かる。
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