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第136話 魔神王との闘い
しおりを挟む魔神王デウス・ソリスがタケミとユイの前に現れた。
「よう」
座り込んでいた二人は顔を上げる。
赤く腫れた目をこすり、デウス・ソリスを見る。
「誰だ?ユイの知り合いか?」
「あ、あの人だよ!タケミ!」
二人は立ち上がった。
「もしかして」
「そう、魔神王だよ!」
構える二人。
「そうか、そっちはこの世界で生まれ育った記憶があるのか。カヅチ・タケミは殆ど無いみたいだが」
デウス・ソリスは手を広げた。
「よくぞここまでやってきた、勇気あるもの達よ。さあ思う存分、ここまで積み上げたものを見せてみよ」
この言葉を受け、タケミとユイは顔を見合わせた。
「やるぞ……」
「うん」
二人は立ち上がる。
「最後の闘いだ、思いっきりやってやる」
「全力で!」
タケミとユイはデウス・ソリスに攻撃を仕掛けた。
二人は一撃一撃にありったけの感情をのせ相手に叩き込む。
(そうだ、それで良い。アイツを失った辛さ、納得のいかないことへの怒り、全てぶつけろ)
それからしばらくの間、ソリスはただひたすらにタケミとユイの攻撃を受けることに徹した。
「はぁはぁ」
休むことなく、がむしゃらに攻撃し続けた二人は肩で息をしていた。
ここまでの連戦からか二人にもかなり疲労が蓄積されているようだ。
「どうした?もう終わりか?では少しばかり俺の番としようか?」
デウス・ソリスは構える。
「その構え!」
「プロエさんと同じ!?」
彼の構えに無駄な力みはない。まるで大木のような堅牢かつ柔軟さを感じさせる、それでいて不用意に近づくことを許さない圧倒的な鬼迫があった。
タケミの目にはプロエが一瞬だけ現れたように見えた。
「おれでもその領域に行けてねぇぞ。天才ってやつか?流石に嫉妬しちまいそうだ」
タケミがそう言うとデウス・ソリスが笑う。
「照れるね、さてこんな感じか?」
ソリスは踏み込んだ。
「なっ!」
「え!?」
彼は一瞬の内にタケミとユイの懐に潜り込み、二人を殴り飛ばした。
(速い!殴られる寸前まで見えなかった!)
タケミは意識を眼に集中させた。
全身のヒビが彼の顔まで伸び、動体視力を一時的に向上させた。
(全然反応できない!でも、せめて魔力の兆しだけでも見ないと!)
ユイも魔力の探知能力を最大限まで引き上げる。
「ほらさっさと反撃してこないと、追加だ!」
ソリスは二人めがけ、二つの光球を掌から放った。
「まずい!」
「ヤバ!」
タケミとユイは高速で迫る光球を避けることはできず、防御姿勢を取る。
光球が二人に直撃すると大爆発が起き、二人は更に吹き飛ばされた。
「うおー!なんつー破壊力!」
タケミは両腕と両足を体の前で閉じて壁を作った。しかし爆発は彼の堅牢無比であるはずの壁をいとも容易く破壊した。
吹き飛ばされたタケミは破壊された手足を再生させ、着地した。
「あっつ!防ぎきれない!」
ユイは張れる最大限の防壁を展開し見守った。
しかし、それでも爆発から完全に逃れる事はできず、自身の腕の一部にひどい火傷をおった。
ユイは即座にその火傷を治す。
「前よりも治癒できるようになったなユイ!」
「そりゃあね。でもマリス先生みたいに吹き飛んだ部位を再生させるのは無理だから。その時は自力で頑張ってよ」
「はーい」
タケミとユイは相手の圧倒的な能力に臆することなく構えた。
「ただ魔力を固めて放っただけなのにあの破壊力」
「イトウ・ユイ、遠慮せず吸収しても良かったんだぞ?できるんだろ?」
「冗談やめてよ。あんな超高密度の魔力、吸収したら胃がもたれちゃうよ」
ユイはデウス・ソリスに言い返す。
「ふっその話し方、やつに似ているな」
デウス・ソリスは次に魔力で剣を作り出した。
「うそ!魔力から剣そのものを生み出した!?なにそのトンデモな技!」
ユイは驚く。
「伊達に魔神王なんて呼ばれてないさ。いくぞ、これぞ純度100%正真正銘の魔剣だ!」
デウス・ソリスが剣を振り上げる。
「なんの!」
タケミが前に飛び出し、彼の攻撃を受けた。
「その体躯からは想像もつかぬほどのスピード!加えてその判断力!」
タケミはデウス・ソリスの剣ではなく、腕を掴んでいた。
「この状況でなら、それは最適解だ!この刃に触れればお前の肉体といえども耐えられぬ」
タケミに腕を掴まれながらデウスは楽しそうに笑う。
互いに飛び退き距離を取る。
「さて、つぎは……」
デウス・ソリスが剣を構えたその時だった、彼の横を高速で何かが通過した。
「あれは!」
「残ってたんだ!」
彼らの前に現れたのは、泥に飲まれた女神の無惨な成れの果て、邪神だ。
「なに!」
(まだ残っていたか!それにこの感じ、良い予感はせんな!)
デウス・ソリスが斬撃を飛ばし、邪神を切り裂いた。
切り裂かれた邪神は真っ二つになる。
「っ!なぜ消滅しない?まさか!」
分断された邪神の断面から泥が溢れ出し、タケミとユイに覆いかぶさろうとしていた。
「泥なんて吹き飛ばしてやる!」
「燃やし尽くす!」
泥を跳ね返そうと構えた二人、しかし二人は行動に移れなかった。
「な、なんだこれ?」
「そ、そんな!身体から出るこれは!」
突如、タケミとユイの体の中心から泥が噴出したのだ。泥は二人の動きを封じた。
そこに追い打ちとばかりに邪神から放たれた泥が覆い被さる。
「しまった!グロリアめ!」
デウス・ソリスが悪態をつくと泥が蒸発、中から人の形をしたものが二体現れた。
「■■■!」
「□□□!」
現れた二人、間違いなくタケミとユイだろう。泥が変形し歪な鎧を形成していたりするが、そこまで大きな変化は外見にはない。しかし二人が纏う空気は全くの別物だった。
「な……!この状況は世界終焉の一歩手前といったところか」
デウス・ソリスは剣を構えた。
彼に向かってユイが手を向ける。
「ァグ……ニィ」
ユイの掌から小さな焰球が出現。
その直後に空気中の水分は蒸発し、周囲の地面が液状化を始めた。
ユイはその焰球をデウス・ソリスめがけ放つ。
彼は魔力の壁で受け止める、しかし焰球は消えずに壁を突き破った。
「なに!球体が壁の魔力を吸収し巨大化した!」
彼は両手で焰球を空へと打ち上げた。
打ち上げられた焰球は大爆発を引き起こす。
「ぬぅ!地面が、俺の肉体が液状化し気化していく!この火力、マリスが見れば喜ぶだろうな」
デウス・ソリスは気化した身体を再生させ、魔力の網を生み出し放った。
網は相手を捕らえ拘束する。
「少し大人しくしてもらうぞ……っ!」
デウス・ソリスの上空からタケミが拳を振り降ろしながら落下してきた。
「マダダ」
タケミはデウス・ソリスの目の前に瞬時に移動し、彼を自身の領域に捉えた。
(この移動法、ネラが使う瞬間移動か!次の一撃は避けられん!)
デウス・ソリスは魔力から特大盾を作り出す。
タケミは構え、拳を繰り出す。
次の瞬間、想像を絶する衝撃が巻き起こる。
彼の思考は一瞬だけ、この未曾有の衝撃に近いものを探していた。大嵐、大爆発、その中で思い当たるのが1つ、近しいものがあった。
「俺が追いやった、あの者たちの一撃……!いや、それ以上の脅威とするべきか!」
衝撃はデウス・ソリスの盾をいとも容易く砕き、彼を飲み込んだ。
(最高強度の盾ですらまるで砂糖菓子あつかい!洒落にならん、この破壊力!)
彼の肉体がバラバラに吹き飛ぶ。
「まったく、ここまで派手に吹き飛ばされたのは今までなかったかもな。まったく、二人とも張り切り過ぎだな」
デウス・ソリスは即座に散らばった肉体を集結させ再生する。
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