13 / 77
5 ふしぎな間借り人
②
しおりを挟む
「あれー、電気が点いてると思ったら瑞穂ちゃんじゃーん。あ! 今日からここに住むの? じゃあ、よろしくー」
驚きのあまりに座りこんでしまった私に手をさし伸べ、その場に立たせてくれながらニコニコ笑っているのは、白いパーカーに細めのジーンズを穿いた白髪の青年だ。
耳朶で揺れる赤いピアスを凝視しながら、私は乾いた唇を動かす。
「シ、シロくん……?」
彼はにっこりと嬉しそうに笑って、ぽんと軽く私の頭を叩いた。
「そう、シロでーす」
赤いスニーカーを脱いで彼が家の中へ入っていってしまうと、買い物袋を下げた背の高い男が私に迫る。
「邪魔だ、どけ。こんなところにつっ立ってないで、さっさと中へ入れ」
「は、はいっ!」
威圧感のある声に、思わず反射的に返事をしてしまってから、私は黒シャツ黒パンツのやけにスタイルのいい男に、おそるおそる問いかけた。
「……クロさん?」
彼は若干目に被りぎみの前髪ごしに、ギロリと私を睨む。
「そうだ」
さもあたりまえというふうに家の奥へ入っていく背中を、私は慌てて追いかけた。
「ここって、お二人が住んでる家なんですか?」
だとしたら勝手に上がりこんで申し訳なかったと、謝ろうと思ったのだ。
しかし、台所から続いている右奥の部屋で、畳に座って大きなクッションを抱きしめ、卓袱台に広げた雑誌をぱらぱら捲っているシロは、それから目線を上げずに、軽く答える。
「違うよーん」
提げていた買い物袋を台所のテーブルの上に置き、椅子にかけられていた紺色のエプロンをつけているクロは、呆れたように言い捨てた。
「お前の家だろう。何言ってるんだ」
さも当然というふうに言われても、私はわけがわからない。
「え? でも……なんで? どうして?」
完全に混乱して頭を掻きむしる私に、ようやく雑誌から顔を上げたシロが、すっと真っ直ぐな視線を向ける。
それは、吸いこまれてしまいそうなほどに綺麗な、薄い金色の瞳――。
「確かに俺たちは、この家ができた五十年前からここに住んでるけど、あくまでも間借り。正式な住人じゃないよ。その間ここに住んだ正式な住人は、俺たちが居るってだーれも気づかなかったけどね……居るんだけど、居ないのと同じ……瑞穂ちゃんがさっき入ってきた、狭間の時間の宅配便屋と同じようなものだよ」
「…………」
どうやら説明をしてくれたらしいのだが、ますますわからない。
沈黙する私に、台所で何か作っているらしいクロが、振り向きざまにびしっと菜箸の先を向けた。
「すぐに嫌でもわかる。それより俺たちと一緒に晩飯食べるのか、瑞穂。食べないのか」
いきなり呼び捨てにされて戸惑いながらも、台所から漂ってくるいい匂いに、お昼から焼き芋一つしか食べていないお腹が敏感に反応してしまい、私は素直に頷く。
「食べます……」
「よし」
再びこちらへ向けられたクロの背中は、これまで見た彼のどんな表情よりも、嬉しそうに感じた。
驚きのあまりに座りこんでしまった私に手をさし伸べ、その場に立たせてくれながらニコニコ笑っているのは、白いパーカーに細めのジーンズを穿いた白髪の青年だ。
耳朶で揺れる赤いピアスを凝視しながら、私は乾いた唇を動かす。
「シ、シロくん……?」
彼はにっこりと嬉しそうに笑って、ぽんと軽く私の頭を叩いた。
「そう、シロでーす」
赤いスニーカーを脱いで彼が家の中へ入っていってしまうと、買い物袋を下げた背の高い男が私に迫る。
「邪魔だ、どけ。こんなところにつっ立ってないで、さっさと中へ入れ」
「は、はいっ!」
威圧感のある声に、思わず反射的に返事をしてしまってから、私は黒シャツ黒パンツのやけにスタイルのいい男に、おそるおそる問いかけた。
「……クロさん?」
彼は若干目に被りぎみの前髪ごしに、ギロリと私を睨む。
「そうだ」
さもあたりまえというふうに家の奥へ入っていく背中を、私は慌てて追いかけた。
「ここって、お二人が住んでる家なんですか?」
だとしたら勝手に上がりこんで申し訳なかったと、謝ろうと思ったのだ。
しかし、台所から続いている右奥の部屋で、畳に座って大きなクッションを抱きしめ、卓袱台に広げた雑誌をぱらぱら捲っているシロは、それから目線を上げずに、軽く答える。
「違うよーん」
提げていた買い物袋を台所のテーブルの上に置き、椅子にかけられていた紺色のエプロンをつけているクロは、呆れたように言い捨てた。
「お前の家だろう。何言ってるんだ」
さも当然というふうに言われても、私はわけがわからない。
「え? でも……なんで? どうして?」
完全に混乱して頭を掻きむしる私に、ようやく雑誌から顔を上げたシロが、すっと真っ直ぐな視線を向ける。
それは、吸いこまれてしまいそうなほどに綺麗な、薄い金色の瞳――。
「確かに俺たちは、この家ができた五十年前からここに住んでるけど、あくまでも間借り。正式な住人じゃないよ。その間ここに住んだ正式な住人は、俺たちが居るってだーれも気づかなかったけどね……居るんだけど、居ないのと同じ……瑞穂ちゃんがさっき入ってきた、狭間の時間の宅配便屋と同じようなものだよ」
「…………」
どうやら説明をしてくれたらしいのだが、ますますわからない。
沈黙する私に、台所で何か作っているらしいクロが、振り向きざまにびしっと菜箸の先を向けた。
「すぐに嫌でもわかる。それより俺たちと一緒に晩飯食べるのか、瑞穂。食べないのか」
いきなり呼び捨てにされて戸惑いながらも、台所から漂ってくるいい匂いに、お昼から焼き芋一つしか食べていないお腹が敏感に反応してしまい、私は素直に頷く。
「食べます……」
「よし」
再びこちらへ向けられたクロの背中は、これまで見た彼のどんな表情よりも、嬉しそうに感じた。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる