大鳥居横あやかし宅配便~ワケアリ荷物お届けします~

シェリンカ

文字の大きさ
22 / 77
8 烏天狗の諫め

しおりを挟む
 私たちの目の前に立つ綾音さんは、シロに抱きしめられた私を見ると、驚いたように瞳を見開き、白い首が折れそうなほどにがっくり俯いてしまった。

(ほらー、可哀そうでしょ!)

 華奢な肩が、何かをこらえるようにぶるぶる震えている。
 このままでは泣かしてしまうと、私はシロに抗議の目を向けたが、彼はそ知らぬふりだ。

「…………そのかたは?」

「瑞穂ちゃんだよ。今日から一緒に働くことになったんだ。よろしくねー。家も一緒に住むんだよ」

 綾音さんの問いかけに明るく答えているシロを、いくら睨んでもまったく効き目はない。

(わざと誤解を招くような言いかたをしないで! それじゃ誰だってかん違いするでしょ!)

 思ったとおり、はっと顔を上げた綾音さんは、すっかり顔色を失ってしまっている。

(ほらね……)

 しかし、大きな瞳に見る見る涙が膨らみ、それが白い頬にこぼれ落ちそうになった次の瞬間、その形相ががらりと変わった。
 きりっと眦を吊り上げて、私へ向けられた双眸。
 それは怒りに燃えている。

「あ、ヤバイかも……」

 シロが呟いたのと、吹き飛ばされそうなほどの突風がいきなり彼女のほうから吹いたのは同時だった。

「きゃああっ」

 衝撃で私の口を縛めていた何かは解かれたらしく、悲鳴を上げながら飛ばされようとする私を、獣型になったシロが背中で庇ってくれる。

「瑞穂ちゃん!」

 すっかり触り慣れた毛並み越し、少しだけ顔を出してみると、長い髪を逆立てて、爛々と目を光らせている綾音さんがいた。
 可愛らしかった口は耳のあたりまで裂け、その間から蛇のような長い舌がチロチロと出ている。

「嘘でしょう……!?」

 あまりの変貌ぶりに、絶望ぎみに呟く私を、シロがひょいっと背中に乗せた。

「瑞穂ちゃんはしっかり掴まってて、綾音ちゃんはちょっと落ち着こうか、ね?」

 言いながら、彼女から逃げる。

 しかし綾音さんも負けてはいない。
 私たちの横をぴったりついてくる。

「シロさまの背中……私だってまだ乗ったことないのにぃ……!」
「――――!」

 私としては、出来ることなら今すぐこの場所を彼女に譲りたいくらいだが、振り落とされそうな速さで移動している最中のことなので、簡単にそうもいかない。

「ごめんなさい! ごめんなさーい!」

 私の精一杯の叫びは、謝罪にはならないようだ。
 かえって彼女の形相が鬼のように恐ろしくなる。

「悔しい……悔しい……っ」

 ぎりぎりと唇を噛みながら、こちらへ手を伸ばした彼女の長い爪が、私の頬を掠めた。

「痛っ」
「大丈夫? 瑞穂ちゃん!」

 私の悲鳴を聞いたシロが、心配そうに声をかけたことで、綾音さんの中の何かがブチッと切れたように見えた。

 大きく手を振りかぶり、長い爪を私に向かって躊躇なく打ちこむ。
 その速度は、目にも留まらないほど速い。
 かわそうとしたシロの動きより、彼女の腕のスピードのほうが完全に勝っており、私は覚悟を決めた。

(殺されるっ!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが愛人を作るのなら

あんど もあ
ファンタジー
結婚して八年の夫が、愛人を作った。それも私の推しの女優を! 「君と違って彼女には才能がある」と言う。ならば、私も才能のある愛人を持つ事にいたしましょう。愛人の才能を花開かせる事が出来るのはどちら?

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...