54 / 77
14 神車のお札
⑥
しおりを挟む
夕暮れになり、狭間の時間の宅配便屋のほうへ顔を出すと、カウンターに二つ並んだ宅配便ひき受け窓口が、もう一つ増えていた。
「え……これどうしたの?」
尋ねると、シロが説明してくれる。
「瑞穂ちゃんもすっかり引き受け業務に慣れたみたいだし、数もこなせるから、新しく、特別受け付け用の窓口を設けてもいいかなって……」
「特別受け付け用……?」
首を傾げる私に、クロが鋭い目を向けた。
「あやかしから人間宛ての荷物だ」
「えっ……でも……いいの?」
クロは確か、人間とあやかしが親しくするのをあまり好ましく思っていなかったはずだと思いながら問いかけると、予想通りぷいっと顔を逸らされる。
「豆太の例みたいに、前から需要があったことは確かだからな」
それきり仕事のほうに集中してしまったクロに代わり、シロが説明してくれる。
「でもこれまでは、引き受けてもお届けできる人がいなくってね……そのてん瑞穂ちゃんは、みや様から『神車』のお札をいただいたんでしょ?」
「え? なんで知ってるの?」
シロの口からその名前とその話題が出てくるとは思わず、つい問いかける私に、彼はぱちりと片目を瞑ってみせる。
「俺の情報網を舐めてもらっちゃ困るな」
それきりクロと同じように、仕事のほうへ集中してしまったシロに、うまくはぐらかされてしまったことはなんとなくわかる。
(別にいいけど……隠してたわけでもないし……)
私も荷物の受け付けをしようと、空いている一番奥の窓口へ向かうと、ちょうど一人のお客さんを応対し終えたところだったシロが、大きな声を上げる。
「そうだ! これが一番大事なんだけど……一つ忠告するならば、瑞穂ちゃんはもうちょっと、あやかしについて学んだほうがいいと思うよ」
「え……」
突然そういうことを言われても、どうしていいのかわからない。
「私、なんかあやかしの掟を破ったとか……そういうことやった?」
「いや、そうじゃないけど……むしろ逆? 瑞穂ちゃん自身のために?」
よくわからない説明をするシロが、ガラス扉に目を向け、さっと外を指さした。
「たとえば豆太だけど……瑞穂ちゃんきっと、小さな男の子だと思っているだろうけど、彼、実は俺より年上だから」
「へ?」
あまりに思いがけない言葉を聞いたために、おかしな声が出てしまった私をぷっと笑い、シロがガラス扉の向こうを見てみるように促した。
そこにはなかなかに上背のある、茶色い髪の青年が立っている。
ふとふり返って私と目があうと、しゅるしゅると身長が縮み、豆太くんの背の高さになった。
「どういうことなのっ!?」
叫ぶ私に笑顔で手を振ると、今日は頼む荷物もないのか、豆太くんは鳥居のほうへ帰っていく。
「田中のお爺ちゃんに最初に会ったのが、少年の姿だったからそれを続けてたのか……あれだと瑞穂ちゃんみたいな単純な人に、優しくしてもらえるからわざとなのか……どっちにせよ彼、老若男女どんな姿にも化けられるよ。実年齢は俺より少し上。れっきとした成人男のあやかし」
「ちょっとおおおおお!!!」
豆太くんは小さな男の子なのだからと、移動の時は抱っこしたり、泣いていたら抱きしめて慰めたり、甲斐甲斐しく世話を焼いてあげていた過去の自分に、今すぐ教えに飛んで行きたい。
もちろんそんなこと出来るはずはないのだけれど――。
「うん、だから少し、勉強したほうがいいかなって……」
シロは憐れむような目で私を見るけれど、クロの鋭いひと言が私の心を抉る。
「考えなしだからだ」
(なんですって!)
心の中でだけ反駁の声を上げた私は、くじけそうになる自分を励ましながら、あやかしたちの荷物を引き受ける窓口に立った。
限られたわずかな時間だけ営業する『狭間の時間の宅配便屋』は、今日もさまざまなあやかしたちでごった返していた。
「え……これどうしたの?」
尋ねると、シロが説明してくれる。
「瑞穂ちゃんもすっかり引き受け業務に慣れたみたいだし、数もこなせるから、新しく、特別受け付け用の窓口を設けてもいいかなって……」
「特別受け付け用……?」
首を傾げる私に、クロが鋭い目を向けた。
「あやかしから人間宛ての荷物だ」
「えっ……でも……いいの?」
クロは確か、人間とあやかしが親しくするのをあまり好ましく思っていなかったはずだと思いながら問いかけると、予想通りぷいっと顔を逸らされる。
「豆太の例みたいに、前から需要があったことは確かだからな」
それきり仕事のほうに集中してしまったクロに代わり、シロが説明してくれる。
「でもこれまでは、引き受けてもお届けできる人がいなくってね……そのてん瑞穂ちゃんは、みや様から『神車』のお札をいただいたんでしょ?」
「え? なんで知ってるの?」
シロの口からその名前とその話題が出てくるとは思わず、つい問いかける私に、彼はぱちりと片目を瞑ってみせる。
「俺の情報網を舐めてもらっちゃ困るな」
それきりクロと同じように、仕事のほうへ集中してしまったシロに、うまくはぐらかされてしまったことはなんとなくわかる。
(別にいいけど……隠してたわけでもないし……)
私も荷物の受け付けをしようと、空いている一番奥の窓口へ向かうと、ちょうど一人のお客さんを応対し終えたところだったシロが、大きな声を上げる。
「そうだ! これが一番大事なんだけど……一つ忠告するならば、瑞穂ちゃんはもうちょっと、あやかしについて学んだほうがいいと思うよ」
「え……」
突然そういうことを言われても、どうしていいのかわからない。
「私、なんかあやかしの掟を破ったとか……そういうことやった?」
「いや、そうじゃないけど……むしろ逆? 瑞穂ちゃん自身のために?」
よくわからない説明をするシロが、ガラス扉に目を向け、さっと外を指さした。
「たとえば豆太だけど……瑞穂ちゃんきっと、小さな男の子だと思っているだろうけど、彼、実は俺より年上だから」
「へ?」
あまりに思いがけない言葉を聞いたために、おかしな声が出てしまった私をぷっと笑い、シロがガラス扉の向こうを見てみるように促した。
そこにはなかなかに上背のある、茶色い髪の青年が立っている。
ふとふり返って私と目があうと、しゅるしゅると身長が縮み、豆太くんの背の高さになった。
「どういうことなのっ!?」
叫ぶ私に笑顔で手を振ると、今日は頼む荷物もないのか、豆太くんは鳥居のほうへ帰っていく。
「田中のお爺ちゃんに最初に会ったのが、少年の姿だったからそれを続けてたのか……あれだと瑞穂ちゃんみたいな単純な人に、優しくしてもらえるからわざとなのか……どっちにせよ彼、老若男女どんな姿にも化けられるよ。実年齢は俺より少し上。れっきとした成人男のあやかし」
「ちょっとおおおおお!!!」
豆太くんは小さな男の子なのだからと、移動の時は抱っこしたり、泣いていたら抱きしめて慰めたり、甲斐甲斐しく世話を焼いてあげていた過去の自分に、今すぐ教えに飛んで行きたい。
もちろんそんなこと出来るはずはないのだけれど――。
「うん、だから少し、勉強したほうがいいかなって……」
シロは憐れむような目で私を見るけれど、クロの鋭いひと言が私の心を抉る。
「考えなしだからだ」
(なんですって!)
心の中でだけ反駁の声を上げた私は、くじけそうになる自分を励ましながら、あやかしたちの荷物を引き受ける窓口に立った。
限られたわずかな時間だけ営業する『狭間の時間の宅配便屋』は、今日もさまざまなあやかしたちでごった返していた。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる