大鳥居横あやかし宅配便~ワケアリ荷物お届けします~

シェリンカ

文字の大きさ
55 / 77
15 河童の恋

しおりを挟む
「うーん……お客さん来ないな……」

 宅配便受け付けのカウンターに立ちながら、私は今日もため息まじりに呟く。
 昼間の宅配便出張所の話ではない。
 狭間の時間の宅配便屋での話だ。

「なんだとー! こら、小娘! わしの背が低くて視界に入らないと愚弄ぐろうしておるのか! けしからん! そこから出てこい! 成敗せいばいしてくれる!」

 カウンターの向こうでぴょんぴょんと跳ねている背の低い烏天狗に、私は慌てて頭を下げた。

「あ、すみません! 伊助さんのことはちゃんと見えてます。大丈夫です」
「わしは伊助じゃなーい! 呂助ろすけじゃー!」
「……すみません、呂助さん」

 クロと同じ一族だという小柄な烏天狗は、実は三つ子らしく、伊助さんと呂助さんと波助はすけさんが、営業日のたびに入れ替わりで狭間の宅配便屋へやってくる。
 どうやらクロに一度実家へ顔を出すように頼みに来ているようだが、まったく相手にされていない。
 私から見れば三つ子の違いがまるでわからないので、しょっちゅう間違えては怒られている。

「あらー、私たちじゃ『お客』として不満なの?」

 呂助さんの三つうしろに並んでいた真理恵さんが、長い首を伸ばして、私の顔の前に綺麗にメイクした顔をぬっと近づけた。

「そういうわけじゃないんですけど……」
「なによ、意味深ね……」

 しゅるしゅると首を縮めていく真理恵さんに、私は苦笑いを向ける。

 私が気にしているのは、先日この狭間の宅配便屋の一画に、新しく設けた窓口の利用客についてだ。
 あやかしから人間宛ての荷物を特別に預かろうと、はりきって始めてみたのに、いつまで経っても利用客はいない。

「やっぱり需要ないんじゃないかな……」
「まあまあ……荷物が来ないほうが、休みの日はちゃんと休めていいでしょ?」
「それはそうだけど……」

 昼間の営業所も、利用客はほぼいないような状態なので、私は営業中に掃除や草むしりばかりしている。
 瑞穂ちゃんは本当に綺麗好きねと、多香子さんなどは褒めてくれるが、決してそういうわけではない。
 他にすることがないのだ。

(その上休日も暇となると、この山の上じゃ本当に、スマホをいじってるか、寝るかしかできることがないんですけど……)

 二十一歳の若い女が、そんなことではいけないと私はぶるぶると首を横に振った。

「ねえ呂助さん、たまには人間宛てにも荷物を送ってみたりしない?」

 試しに訊ねてみると、ぴょんぴょん跳ねて怒られた。

「人間なんぞに用はない! わしを馬鹿にしとるんかー!」

 営業所の奥から鋭い声が飛んでくる。

「呂助、荷物を送らないのならもう帰れ」

 クロの静かな怒りをこめた声に、呂助さんは慌てて小さな包みをカウンターに持ち上げる。

「送ります! 送りますとも! だから小娘めが受け付けている間、宗主様、どうか私の話を……」

 懸命に伸び上がってクロに懇願している呂助さんに、私はさっと控えの木片を渡した。

「はい。いつものとおりに、ろすけさんかららいぞうさんへ。ありがとうございました」

 隣でシロがぶっとふき出す。

「瑞穂ちゃんはっや、情け容赦なし」

「んんんんんんっ!」

 呂助さんは悔しそうに地団駄踏んで、私の手からひったくるように木簡を受け取った。

「また明後日参りますぞ! 次は、波助めが必ず!」
「ありがとうございましたー」

 バタバタと帰っていく小さな背中を見送っていると、ガラス扉の向こうに人影が見えた。

(あ……)

 それは豆太くんで、私と目があうとぴょこりとお辞儀する。
 どうやら営業所内へ入ってくるつもりはないらしい。

(そうよ……豆太くんがいるじゃない! 彼から田中さん宛ての荷物を預かれば、明日の休みはいったい何をしようかなんて悩む必要もない!)

 私は即座に、目の前で列を作っているあやかしたちの荷物を引き受けるスピードを上げた。

「ありがとうございましたー。はい、次!」

 豆太くんが年齢を詐称さしょうするような外見をしていることについて、私はしばらく怒っていたのだが、あのくりくりの目を潤ませて、「ごめんなさい……」と上目遣いに見つめられると、たいして長続きはしなかった。
 そもそも人間と同じ基準で、あやかしの年齢を数えるのかもわからない。

(だから、もういい。必要以上に小さな男の子扱いしなければそれでいいのよ!)

 自分に言い聞かせて、これまでどおりに接すると決めた。

 自分の窓口の前に出来ていたあやかしの列を全て消化して、カウンターを出た私に、シロが問いかける。

「瑞穂ちゃん、どこ行くの?」

 ガラス扉に手をかけながら、私はふり返った。

「ちょっと外に……ダメかな?」
「ダメじゃないけど……」

 シロはクロを見て、彼が無言で頷いたので、また私へ視線を向け直す。

「鳥居の向こうには行かないようにね。今の時間だとあちらの世界へ行っちゃうから……」
「え……」

 『狭間の時間』の正確な意味に、私はどきりとする。

「なるべくすぐに帰ってきて。日が暮れ終わる前には扉を通って、昼間の出張所へ帰らないと……」

 いつもそれだけは絶対に死守させようと、シロとクロがしてくれているのを知っているので、私は素直に頷く。

「うん、すぐに戻る」

 豆太くんと話をするだけなので、たいして時間はかからないだろうと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明治あやかし黄昏座

鈴木しぐれ
キャラ文芸
時は、明治二十年。 浅草にある黄昏座は、妖を題材にした芝居を上演する、妖による妖のための芝居小屋。 記憶をなくした主人公は、ひょんなことから狐の青年、琥珀と出会う。黄昏座の座員、そして自らも”妖”であることを知る。主人公は失われた記憶を探しつつ、彼らと共に芝居を作り上げることになる。 提灯からアーク灯、木造からレンガ造り、着物から洋装、世の中が目まぐるしく変化する明治の時代。 妖が生き残るすべは――芝居にあり。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

神様達の転職事情~八百万ハローワーク

鏡野ゆう
キャラ文芸
とある町にある公共職業安定所、通称ハローワーク。その建物の横に隣接している古い町家。実はここもハローワークの建物でした。ただし、そこにやってくるのは「人」ではなく「神様」達なのです。 ※カクヨムでも公開中※ ※第4回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

処理中です...