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15 河童の恋
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ガラス扉を押し開けて外へ出ると、豆太くんが駆け寄ってきた。
「姉ちゃん!」
無邪気な笑顔の彼を、大きく手を広げて抱きしめてしまいそうになり、慌てて私は自分を律する。
(違う! だから、豆太くんは小さな男の子じゃないんだってば!)
視覚から得る情報と、脳内の知識がうまく結びつかなくて、いつか脳がショートするかもしれないと思いながら、私は膝を屈めて豆太くんと視線を合わせた。
「どうしたの? 田中のお爺ちゃんに荷物を送る?」
できればその依頼がほしくて、自分から言ってみたのに、豆太くんは無情にもあっさりと首を横に振る。
「ううん、今日はいい」
「あ、そう……」
がっくりと肩を落としそうになったが、彼の次の言葉を聞いて、色めきだってしまった。
「おいらじゃなくて、今日はぜひ姉ちゃんに、人間宛ての荷物を頼みたいって人を連れてきたんだ」
「えっ!」
豆太くんが指さした近くの木の陰には、背の高い細身の男の人が立っていた。
見た目はクロくらいの年齢の、少し髪の長い、青白い顔をした青年だ。
フード付きのパーカーを着ており、フードを目深に被っているので、顏はよく見えない。
私がそちらを見たことに気がつくと、慌てて更に木の陰に隠れてしまったが、かすかにお辞儀をしてくれる。
私もお辞儀を返し、豆太くんの手を両手で握った。
「ありがとう、豆太くん! ご紹介制度なんて全然想定してなかったけど、もしこの先導入することがあったら、何かプレゼントを用意するね! ボールペンとか、ポケットティッシュとか……」
「別にそんなものはいらないけど……」
困ったように笑っている豆太くんの小さなぷにぷにした手を、また深く考えもせず握ってしまっていたと、私は慌てて放した。
「あ! ごめん……それじゃ、引き受けの手続きをするから、中へどうぞ」
豆太くんと木の陰の男性を交互に見ながら、私は笑顔で言ったが、男性は真っ青になって完全に木の陰に隠れてしまうし、豆太くんは困った顔をしている。
「中に入るのはちょっと……」
いったい何故だろうと、首を傾げた私に、豆太くんは顔を近づけ、そっと耳打ちした。
「河太郎は、あの二人が苦手なんだよ……」
私は豆太くんの視線を辿って、宅配便屋の中で、ちらちらとこちらを気にしているシロと、あからさまに睨みつけているクロの姿を確認する。
(なるほど……お客様を怯えさせてどうするのよ……!)
二人の姿をなるべく自分の背中で隠すようにしながら、私は木の陰の男性に呼びかけてみた。
「大丈夫ですよ。確かにあの二人、個性が強いし、クロなんて見た目のまま、不愛想で高圧的ですけど……いくらなんでも意味もなく、お客様に襲いかかったりはしませんから」
男性は無理とばかりに首をぶるぶると左右に振る。
「私がお守りしますから」
やはり千切れんばかりに首を振られる。
(ダメか……)
諦めた私は、いったん室内へ戻り、荷物を受け付けるための道具を持って来ることにした。
「じゃあここで受け付けますから、ちょっと待っててくださいね」
男性はあからさまにほっとした顔になり、豆太くんはぴょこりと私に頭を下げた。
「ありがとう! 姉ちゃん」
その頭を撫でたくなる衝動をこらえながら、私は宅配便屋の中へ帰った。
荷物引き受けの道具をまとめていると、珍しくクロが近くにやってくる。
「おい、まさかあの男の荷物を受け付けるんじゃないだろうな、瑞穂」
咎めるような口調にドキリとして、私は問い返す。
「あの男って……?」
「あの、木の陰に隠れてる陰気男だ」
(陰気男……)
私は心の中でため息を吐いた。
(河太郎さん、だったっけ……? 必死に隠れても、クロには全部見えちゃってるみたいですよ……)
ようやく特別な荷物を依頼してもらえそうだった私は、それを諦めきれず、どうにかクロを懐柔できないかと模索する。
「引き受けたらいけないんですか? ……どうして?」
クロは腕組みをして、ふんっと顎を上げ、見る者を圧倒するような凄みのある顔になった。
「どうせ、ろくでもない荷物だからだ」
その効果は離れた場所でこちらを隠れ見ている河太郎さんにもじゅうぶん発揮されたようで、彼は慌てて木の裏に完全に隠れてしまう。
「まあ、さすがにそれは言い過ぎだけど……面倒なことになるかもしれないから、断わったほうがいいとは俺も思うな」
シロが横から口を挟み、私はどうするべきか考えた。
(どうしよう……)
二人はあやかしに詳しいので、助言には素直に従ったほうがいいとは思うが、特にクロは、判断基準が個人的主観過ぎる。
(どうせろくでもない荷物だ、って言い切られても……)
クロはともかくシロの口ぶりが、私を強く止めるものではなく、あまりお勧めしない程度だったことに、賭けてみることにした。
「とりあえず話を聞いてくるね」
「瑞穂!」
再び外へ出ていく私に、クロは怒りの声を上げたが、シロはひらひらと手を振る。
「気をつけてー」
その時点で、クロに反対されても河太郎さんの荷物を引き受けようという意志が、私の中で固まっていた。
「姉ちゃん!」
無邪気な笑顔の彼を、大きく手を広げて抱きしめてしまいそうになり、慌てて私は自分を律する。
(違う! だから、豆太くんは小さな男の子じゃないんだってば!)
視覚から得る情報と、脳内の知識がうまく結びつかなくて、いつか脳がショートするかもしれないと思いながら、私は膝を屈めて豆太くんと視線を合わせた。
「どうしたの? 田中のお爺ちゃんに荷物を送る?」
できればその依頼がほしくて、自分から言ってみたのに、豆太くんは無情にもあっさりと首を横に振る。
「ううん、今日はいい」
「あ、そう……」
がっくりと肩を落としそうになったが、彼の次の言葉を聞いて、色めきだってしまった。
「おいらじゃなくて、今日はぜひ姉ちゃんに、人間宛ての荷物を頼みたいって人を連れてきたんだ」
「えっ!」
豆太くんが指さした近くの木の陰には、背の高い細身の男の人が立っていた。
見た目はクロくらいの年齢の、少し髪の長い、青白い顔をした青年だ。
フード付きのパーカーを着ており、フードを目深に被っているので、顏はよく見えない。
私がそちらを見たことに気がつくと、慌てて更に木の陰に隠れてしまったが、かすかにお辞儀をしてくれる。
私もお辞儀を返し、豆太くんの手を両手で握った。
「ありがとう、豆太くん! ご紹介制度なんて全然想定してなかったけど、もしこの先導入することがあったら、何かプレゼントを用意するね! ボールペンとか、ポケットティッシュとか……」
「別にそんなものはいらないけど……」
困ったように笑っている豆太くんの小さなぷにぷにした手を、また深く考えもせず握ってしまっていたと、私は慌てて放した。
「あ! ごめん……それじゃ、引き受けの手続きをするから、中へどうぞ」
豆太くんと木の陰の男性を交互に見ながら、私は笑顔で言ったが、男性は真っ青になって完全に木の陰に隠れてしまうし、豆太くんは困った顔をしている。
「中に入るのはちょっと……」
いったい何故だろうと、首を傾げた私に、豆太くんは顔を近づけ、そっと耳打ちした。
「河太郎は、あの二人が苦手なんだよ……」
私は豆太くんの視線を辿って、宅配便屋の中で、ちらちらとこちらを気にしているシロと、あからさまに睨みつけているクロの姿を確認する。
(なるほど……お客様を怯えさせてどうするのよ……!)
二人の姿をなるべく自分の背中で隠すようにしながら、私は木の陰の男性に呼びかけてみた。
「大丈夫ですよ。確かにあの二人、個性が強いし、クロなんて見た目のまま、不愛想で高圧的ですけど……いくらなんでも意味もなく、お客様に襲いかかったりはしませんから」
男性は無理とばかりに首をぶるぶると左右に振る。
「私がお守りしますから」
やはり千切れんばかりに首を振られる。
(ダメか……)
諦めた私は、いったん室内へ戻り、荷物を受け付けるための道具を持って来ることにした。
「じゃあここで受け付けますから、ちょっと待っててくださいね」
男性はあからさまにほっとした顔になり、豆太くんはぴょこりと私に頭を下げた。
「ありがとう! 姉ちゃん」
その頭を撫でたくなる衝動をこらえながら、私は宅配便屋の中へ帰った。
荷物引き受けの道具をまとめていると、珍しくクロが近くにやってくる。
「おい、まさかあの男の荷物を受け付けるんじゃないだろうな、瑞穂」
咎めるような口調にドキリとして、私は問い返す。
「あの男って……?」
「あの、木の陰に隠れてる陰気男だ」
(陰気男……)
私は心の中でため息を吐いた。
(河太郎さん、だったっけ……? 必死に隠れても、クロには全部見えちゃってるみたいですよ……)
ようやく特別な荷物を依頼してもらえそうだった私は、それを諦めきれず、どうにかクロを懐柔できないかと模索する。
「引き受けたらいけないんですか? ……どうして?」
クロは腕組みをして、ふんっと顎を上げ、見る者を圧倒するような凄みのある顔になった。
「どうせ、ろくでもない荷物だからだ」
その効果は離れた場所でこちらを隠れ見ている河太郎さんにもじゅうぶん発揮されたようで、彼は慌てて木の裏に完全に隠れてしまう。
「まあ、さすがにそれは言い過ぎだけど……面倒なことになるかもしれないから、断わったほうがいいとは俺も思うな」
シロが横から口を挟み、私はどうするべきか考えた。
(どうしよう……)
二人はあやかしに詳しいので、助言には素直に従ったほうがいいとは思うが、特にクロは、判断基準が個人的主観過ぎる。
(どうせろくでもない荷物だ、って言い切られても……)
クロはともかくシロの口ぶりが、私を強く止めるものではなく、あまりお勧めしない程度だったことに、賭けてみることにした。
「とりあえず話を聞いてくるね」
「瑞穂!」
再び外へ出ていく私に、クロは怒りの声を上げたが、シロはひらひらと手を振る。
「気をつけてー」
その時点で、クロに反対されても河太郎さんの荷物を引き受けようという意志が、私の中で固まっていた。
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