大鳥居横あやかし宅配便~ワケアリ荷物お届けします~

シェリンカ

文字の大きさ
56 / 77
15 河童の恋

しおりを挟む
 ガラス扉を押し開けて外へ出ると、豆太くんが駆け寄ってきた。

「姉ちゃん!」

 無邪気な笑顔の彼を、大きく手を広げて抱きしめてしまいそうになり、慌てて私は自分を律する。

(違う! だから、豆太くんは小さな男の子じゃないんだってば!)

 視覚から得る情報と、脳内の知識がうまく結びつかなくて、いつか脳がショートするかもしれないと思いながら、私は膝を屈めて豆太くんと視線を合わせた。

「どうしたの? 田中のお爺ちゃんに荷物を送る?」

 できればその依頼がほしくて、自分から言ってみたのに、豆太くんは無情にもあっさりと首を横に振る。

「ううん、今日はいい」
「あ、そう……」

 がっくりと肩を落としそうになったが、彼の次の言葉を聞いて、色めきだってしまった。

「おいらじゃなくて、今日はぜひ姉ちゃんに、人間宛ての荷物を頼みたいって人を連れてきたんだ」
「えっ!」

 豆太くんが指さした近くの木の陰には、背の高い細身の男の人が立っていた。
 見た目はクロくらいの年齢の、少し髪の長い、青白い顔をした青年だ。
 フード付きのパーカーを着ており、フードを目深に被っているので、顏はよく見えない。
 私がそちらを見たことに気がつくと、慌てて更に木の陰に隠れてしまったが、かすかにお辞儀をしてくれる。

 私もお辞儀を返し、豆太くんの手を両手で握った。

「ありがとう、豆太くん! ご紹介制度なんて全然想定してなかったけど、もしこの先導入することがあったら、何かプレゼントを用意するね! ボールペンとか、ポケットティッシュとか……」
「別にそんなものはいらないけど……」

 困ったように笑っている豆太くんの小さなぷにぷにした手を、また深く考えもせず握ってしまっていたと、私は慌てて放した。

「あ! ごめん……それじゃ、引き受けの手続きをするから、中へどうぞ」

 豆太くんと木の陰の男性を交互に見ながら、私は笑顔で言ったが、男性は真っ青になって完全に木の陰に隠れてしまうし、豆太くんは困った顔をしている。

「中に入るのはちょっと……」

 いったい何故だろうと、首を傾げた私に、豆太くんは顔を近づけ、そっと耳打ちした。

河太郎かわたろうは、あの二人が苦手なんだよ……」

 私は豆太くんの視線を辿って、宅配便屋の中で、ちらちらとこちらを気にしているシロと、あからさまに睨みつけているクロの姿を確認する。

(なるほど……お客様を怯えさせてどうするのよ……!)

 二人の姿をなるべく自分の背中で隠すようにしながら、私は木の陰の男性に呼びかけてみた。

「大丈夫ですよ。確かにあの二人、個性が強いし、クロなんて見た目のまま、不愛想で高圧的ですけど……いくらなんでも意味もなく、お客様に襲いかかったりはしませんから」

 男性は無理とばかりに首をぶるぶると左右に振る。

「私がお守りしますから」

 やはり千切れんばかりに首を振られる。

(ダメか……)

 諦めた私は、いったん室内へ戻り、荷物を受け付けるための道具を持って来ることにした。

「じゃあここで受け付けますから、ちょっと待っててくださいね」

 男性はあからさまにほっとした顔になり、豆太くんはぴょこりと私に頭を下げた。

「ありがとう! 姉ちゃん」

 その頭を撫でたくなる衝動をこらえながら、私は宅配便屋の中へ帰った。
 荷物引き受けの道具をまとめていると、珍しくクロが近くにやってくる。

「おい、まさかあの男の荷物を受け付けるんじゃないだろうな、瑞穂」

 咎めるような口調にドキリとして、私は問い返す。

「あの男って……?」
「あの、木の陰に隠れてる陰気男だ」

(陰気男……)

 私は心の中でため息を吐いた。

(河太郎さん、だったっけ……? 必死に隠れても、クロには全部見えちゃってるみたいですよ……)

 ようやく特別な荷物を依頼してもらえそうだった私は、それを諦めきれず、どうにかクロを懐柔できないかと模索する。

「引き受けたらいけないんですか? ……どうして?」

 クロは腕組みをして、ふんっと顎を上げ、見る者を圧倒するような凄みのある顔になった。

「どうせ、ろくでもない荷物だからだ」

 その効果は離れた場所でこちらを隠れ見ている河太郎さんにもじゅうぶん発揮されたようで、彼は慌てて木の裏に完全に隠れてしまう。

「まあ、さすがにそれは言い過ぎだけど……面倒なことになるかもしれないから、断わったほうがいいとは俺も思うな」

 シロが横から口を挟み、私はどうするべきか考えた。

(どうしよう……)

 二人はあやかしに詳しいので、助言には素直に従ったほうがいいとは思うが、特にクロは、判断基準が個人的主観過ぎる。

(どうせろくでもない荷物だ、って言い切られても……)

 クロはともかくシロの口ぶりが、私を強く止めるものではなく、あまりお勧めしない程度だったことに、賭けてみることにした。

「とりあえず話を聞いてくるね」
「瑞穂!」

 再び外へ出ていく私に、クロは怒りの声を上げたが、シロはひらひらと手を振る。

「気をつけてー」

 その時点で、クロに反対されても河太郎さんの荷物を引き受けようという意志が、私の中で固まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが愛人を作るのなら

あんど もあ
ファンタジー
結婚して八年の夫が、愛人を作った。それも私の推しの女優を! 「君と違って彼女には才能がある」と言う。ならば、私も才能のある愛人を持つ事にいたしましょう。愛人の才能を花開かせる事が出来るのはどちら?

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...