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第一章
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老人が慧蓮を連れて帰ったのは、宮城にもほど近い場所にある巨大な邸宅だった。
「――――!」
おそらく身分の高い人物なのだろうと思ってはいたものの、まさかこれほどとは思わず、門の前で立ち竦む慧蓮を、老人が笑顔で促す。
「遠慮はいらん。今日からここがお前さんの家じゃよ」
「私の……家……」
夢見心地のまま、慧蓮は老人のあとを追って、邸宅内へ足を踏み入れた。
「お帰りなさいませ、介斉様」
「お帰りなさいませ」
大きな門を守っていた衛士も、広い園庭で掃き掃除をしていた園丁も、老人が通り過ぎるのに合わせて深々と頭を下げる。
店で一緒だった若者は、どうやら老人の従者ではなかったらしく、邸に着く前に別れたが、彼が呼んでいた『介斉』というのは、老人の名前で間違いないようだ。
皆がその名前を呼んで、頭を垂れる。
(…………)
慧蓮は居心地悪く、介斉と少し距離を取っていたが、近くに来いと手招きされる。
「気にせずとも良い。ほら、ここが今日からお前さんの暮らす離れじゃ」
「離れ……」
母屋と思われる大きな建物からそう遠くない竹林の傍に、老人が指し示す建物はあった。
離れと言っても、瑶家が店舗兼住宅として使っていた邸とそう変わらない広さで、慧蓮はてっきり、この邸で働く使用人たちが共同で住んでいる建物だと思ったのだが、どうやら違うらしい。
「いやいや、そうじゃなく、お前さん用の住まい……慧蓮と言ったかの? お前さんが主として暮らす建物じゃ」
「え……? それってどういう……」
慧蓮の困惑を一切気に留めることなく、老人は足早に歩き続ける。
「おおーい、豊藍。今日からこのお嬢さんを、うちで預かることにしたからの。名は慧蓮じゃ。離れの主として……いつものように、いい感じにもてなしてやってくれ」
ちょうど建物の陰から出て来た恰幅のいい女性に、そう言いながら慧蓮を示すと、そのまますたすたと母屋の方へ歩いて行ってしまう。
「いつものようにって……は? ちょっと旦那様! また拾って来なさったんですか? 人間の女の子は、犬や猫とはわけが違うんですよ!!!」
女性が抗議の声を上げているが、老人は立ち止まりもしない。
ふぉふぉふぉと笑いながら、歩いて行ってしまう。
「まったく、もう……!」
その後ろ姿を見送っていた女性が、慧蓮に向き直った。
「じゃあ慧蓮様、行きましょうか」
「え……」
突然『様』付けで名前を呼ばれ、驚く慧蓮の背中を押して、豊藍と呼ばれた女性は豪快に笑う。
「旦那様の気紛れはいつものことなんで……気にしたって始まらない。ははは! それにしても、いつものようにって……」
慧蓮を離れの入口へ誘導しながら、その姿を頭のてっぺんから足の先まで眺めた豊藍が、納得したかのように頷く。
「なるほど……そういうことか……そうと決まれば……!」
衣の袖を腕まくりした豊藍は、まず真っ先に慧蓮を建物の裏手へ引っ張っていった。
「――――!」
おそらく身分の高い人物なのだろうと思ってはいたものの、まさかこれほどとは思わず、門の前で立ち竦む慧蓮を、老人が笑顔で促す。
「遠慮はいらん。今日からここがお前さんの家じゃよ」
「私の……家……」
夢見心地のまま、慧蓮は老人のあとを追って、邸宅内へ足を踏み入れた。
「お帰りなさいませ、介斉様」
「お帰りなさいませ」
大きな門を守っていた衛士も、広い園庭で掃き掃除をしていた園丁も、老人が通り過ぎるのに合わせて深々と頭を下げる。
店で一緒だった若者は、どうやら老人の従者ではなかったらしく、邸に着く前に別れたが、彼が呼んでいた『介斉』というのは、老人の名前で間違いないようだ。
皆がその名前を呼んで、頭を垂れる。
(…………)
慧蓮は居心地悪く、介斉と少し距離を取っていたが、近くに来いと手招きされる。
「気にせずとも良い。ほら、ここが今日からお前さんの暮らす離れじゃ」
「離れ……」
母屋と思われる大きな建物からそう遠くない竹林の傍に、老人が指し示す建物はあった。
離れと言っても、瑶家が店舗兼住宅として使っていた邸とそう変わらない広さで、慧蓮はてっきり、この邸で働く使用人たちが共同で住んでいる建物だと思ったのだが、どうやら違うらしい。
「いやいや、そうじゃなく、お前さん用の住まい……慧蓮と言ったかの? お前さんが主として暮らす建物じゃ」
「え……? それってどういう……」
慧蓮の困惑を一切気に留めることなく、老人は足早に歩き続ける。
「おおーい、豊藍。今日からこのお嬢さんを、うちで預かることにしたからの。名は慧蓮じゃ。離れの主として……いつものように、いい感じにもてなしてやってくれ」
ちょうど建物の陰から出て来た恰幅のいい女性に、そう言いながら慧蓮を示すと、そのまますたすたと母屋の方へ歩いて行ってしまう。
「いつものようにって……は? ちょっと旦那様! また拾って来なさったんですか? 人間の女の子は、犬や猫とはわけが違うんですよ!!!」
女性が抗議の声を上げているが、老人は立ち止まりもしない。
ふぉふぉふぉと笑いながら、歩いて行ってしまう。
「まったく、もう……!」
その後ろ姿を見送っていた女性が、慧蓮に向き直った。
「じゃあ慧蓮様、行きましょうか」
「え……」
突然『様』付けで名前を呼ばれ、驚く慧蓮の背中を押して、豊藍と呼ばれた女性は豪快に笑う。
「旦那様の気紛れはいつものことなんで……気にしたって始まらない。ははは! それにしても、いつものようにって……」
慧蓮を離れの入口へ誘導しながら、その姿を頭のてっぺんから足の先まで眺めた豊藍が、納得したかのように頷く。
「なるほど……そういうことか……そうと決まれば……!」
衣の袖を腕まくりした豊藍は、まず真っ先に慧蓮を建物の裏手へ引っ張っていった。
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