37 / 77
4 燈籠祭りの夜
5
しおりを挟む
ハナちゃんに浴衣を着せてもらってから、私は自分で髪をアップにした。
毛先を巻いてまとめやすくする時間などはなかったが、肩までの手頃な長さでよかったと思う。
ワックスで固めて簪ふうのヘアアクセサリーを挿したら、それなりになった。
「和奏嬢ちゃんは器用じゃねぇ……お父さんに……いや、そもそもお祖父ちゃんに似たんじゃろうねぇ……」
「お祖父ちゃん……?」
私の髪を見ながらしみじみと呟くハナちゃんに、父にも以前にちらりと聞かされた祖父について、訊ねてみたい気持ちはあったが、今はとにかく時間がない。
(十八時に二の鳥居の前……十八時に二の鳥居の前……)
椿ちゃんとの待ちあわせの時間と場所を、心の中で何度も唱えながら、ハナちゃんが貸してくれた古風な竹の編みバッグに必要なものを入れ、同じくハナちゃんが貸してくれた赤い鼻緒の黒い塗り下駄を履いた。
「慣れないと、足の親指と人差し指の間が痛くなるかもしれんから……」
ハナちゃんが心配して、あらかじめバンドエイドをバッグに入れておいてくれたとおり、私は山を下る時点で、すでに足が痛くなった。
(なんたる不覚!)
途中で腰かけられる岩を探し、足の手当てをしていたせいで、到着が待ちあわせの時間より少し遅くなってしまった。
急いで山道を下ると、神社の境内はこれまで見たこともないような人でごった返していた。
(わあ……)
参道も、そこへ向かう小道も、色とりどりの浴衣に身を包んだ老若男女で埋め尽くされている。
少し薄暗くなりかけてきたこともあり、待ちあわせの場所と時間をしっかり決めておかなければ、一緒にお参りしようと約束した相手と巡り合うことも難しそうだ。
(よかった、ちゃんと約束しといて……)
少し時間に遅れてしまったと思ったが、椿ちゃんの姿はまだ二の鳥居の周りにはない。
私は鳥居に背中を預けるような位置に立ち、神社へと向かってくる人々と、その左右で列を成して灯る無数の燈籠を見つめた。
(綺麗……)
『燈籠』と聞いたので、私ははじめ、中に蝋燭が入っており、それに火を灯すのだと思っていたが、実際には電球が入っており、点火の時間になると一斉に光る仕組みだった。
(それはそうよね……でなきゃこれだけの数の火なんて燃やしたら、火事になっちゃうもの……)
楽しそうに燈籠に顔を近づけ、それを描いた人物の名前を確かめている人々が羨ましい。
(私も椿ちゃんの燈籠と、お父さんの燈籠を探しに行きたいけど、まずはその椿ちゃんと合流しないとね……)
一瞬、やはり出かけることを許してもらえなかったのでは――という考えも脳裏を過ぎったが、私はその考えをふり払った。
(この日のために、他には一切外出しないで、勉強も習い事も、この夏の到達目標までやりきってみせるって椿ちゃんが言ってたんだもの……きっと大丈夫……必ず来れる……!)
祈りにも似た予想は当たることなく、私はその場所で一時間ほども、来ない椿ちゃんを待ち続けた。
毛先を巻いてまとめやすくする時間などはなかったが、肩までの手頃な長さでよかったと思う。
ワックスで固めて簪ふうのヘアアクセサリーを挿したら、それなりになった。
「和奏嬢ちゃんは器用じゃねぇ……お父さんに……いや、そもそもお祖父ちゃんに似たんじゃろうねぇ……」
「お祖父ちゃん……?」
私の髪を見ながらしみじみと呟くハナちゃんに、父にも以前にちらりと聞かされた祖父について、訊ねてみたい気持ちはあったが、今はとにかく時間がない。
(十八時に二の鳥居の前……十八時に二の鳥居の前……)
椿ちゃんとの待ちあわせの時間と場所を、心の中で何度も唱えながら、ハナちゃんが貸してくれた古風な竹の編みバッグに必要なものを入れ、同じくハナちゃんが貸してくれた赤い鼻緒の黒い塗り下駄を履いた。
「慣れないと、足の親指と人差し指の間が痛くなるかもしれんから……」
ハナちゃんが心配して、あらかじめバンドエイドをバッグに入れておいてくれたとおり、私は山を下る時点で、すでに足が痛くなった。
(なんたる不覚!)
途中で腰かけられる岩を探し、足の手当てをしていたせいで、到着が待ちあわせの時間より少し遅くなってしまった。
急いで山道を下ると、神社の境内はこれまで見たこともないような人でごった返していた。
(わあ……)
参道も、そこへ向かう小道も、色とりどりの浴衣に身を包んだ老若男女で埋め尽くされている。
少し薄暗くなりかけてきたこともあり、待ちあわせの場所と時間をしっかり決めておかなければ、一緒にお参りしようと約束した相手と巡り合うことも難しそうだ。
(よかった、ちゃんと約束しといて……)
少し時間に遅れてしまったと思ったが、椿ちゃんの姿はまだ二の鳥居の周りにはない。
私は鳥居に背中を預けるような位置に立ち、神社へと向かってくる人々と、その左右で列を成して灯る無数の燈籠を見つめた。
(綺麗……)
『燈籠』と聞いたので、私ははじめ、中に蝋燭が入っており、それに火を灯すのだと思っていたが、実際には電球が入っており、点火の時間になると一斉に光る仕組みだった。
(それはそうよね……でなきゃこれだけの数の火なんて燃やしたら、火事になっちゃうもの……)
楽しそうに燈籠に顔を近づけ、それを描いた人物の名前を確かめている人々が羨ましい。
(私も椿ちゃんの燈籠と、お父さんの燈籠を探しに行きたいけど、まずはその椿ちゃんと合流しないとね……)
一瞬、やはり出かけることを許してもらえなかったのでは――という考えも脳裏を過ぎったが、私はその考えをふり払った。
(この日のために、他には一切外出しないで、勉強も習い事も、この夏の到達目標までやりきってみせるって椿ちゃんが言ってたんだもの……きっと大丈夫……必ず来れる……!)
祈りにも似た予想は当たることなく、私はその場所で一時間ほども、来ない椿ちゃんを待ち続けた。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
魔王の残影 ~信長の孫 織田秀信物語~
古道 庵
歴史・時代
「母を、自由を、そして名前すらも奪われた。それでも俺は――」
天正十年、第六天魔王・織田信長は本能寺と共に炎の中へと消えた――
信長とその嫡男・信忠がこの世を去り、残されたのはまだ三歳の童、三法師。
清須会議の場で、豊臣秀吉によって織田家の後継とされ、後に名を「秀信」と改められる。
母と引き裂かれ、笑顔の裏に冷たい眼を光らせる秀吉に怯えながらも、少年は岐阜城主として時代の奔流に投げ込まれていく。
自身の存在に疑問を抱き、葛藤に苦悶する日々。
友と呼べる存在との出会い。
己だけが見える、祖父・信長の亡霊。
名すらも奪われた絶望。
そして太閤秀吉の死去。
日ノ本が二つに割れる戦国の世の終焉。天下分け目の関ヶ原。
織田秀信は二十一歳という若さで、歴史の節目の大舞台に立つ。
関ヶ原の戦いの前日譚とも言える「岐阜城の戦い」
福島正則、池田照政(輝政)、井伊直政、本田忠勝、細川忠興、山内一豊、藤堂高虎、京極高知、黒田長政……名だたる猛将・名将の大軍勢を前に、織田秀信はたったの一国一城のみで相対する。
「魔王」の血を受け継ぐ青年は何を望み、何を得るのか。
血に、時代に、翻弄され続けた織田秀信の、静かなる戦いの物語。
※史実をベースにしておりますが、この物語は創作です。
※時代考証については正確ではないので齟齬が生じている部分も含みます。また、口調についても現代に寄せておりますのでご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる