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第五章 輝色の聖夜
71:冬の日の邂逅5
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「兄さんから同じ学校だって聞いてたけど、全然見かけないから不思議に思ってたんだ……学年が違うとこんなに会わないものなんだね……」
本当は私が懸命に紅君を避けていただけで、普通にしていたらもっと早くに会っていただろうということは、とても正直に言えない。
「うん……」
短く返事をする私に、紅君はちらちらとうしろをふり返りながら問いかける。
「お友だち、本当によかったの? 俺、邪魔しちゃったんじゃない?」
あれほど『会いに行こう!』と息巻いていた美久ちゃんは、実際に紅君が私たちの前に現われたら、『あとは二人でごゆっくり!』などと言いながら、若菜ちゃんたちといなくなってしまった。
やはり私を紅君に会わせたかっただけなのだと、彼女の本音を知る。
紅君も、病院で目覚めた時以来三ヶ月ぶりに会った私に、『話をしたかったんだ』と友だちとはあっさりさよならしてしまった。
電車に乗って帰る町も同じな以上、駅までの道もその先も、必然的に二人きりが確定で、私は焦る。
(早く! 早く紅君から離れなきゃ!)
私が傍にいたら彼に災いが起こるという強迫観念を、私はどうしても捨てきれなかった。
「兄さんの彼女ってわけじゃなかったんだね……『僕の勝手な片思いなのに!』って、あとで散々怒られたよ……」
少し笑い混じりの声で、蒼ちゃんの話をする紅君は、倒れる前より昔の紅君に近い気がした。
思わずその横顔を見上げてしまう。
明るくて強くて優しかった子供時代の彼。
あの頃の紅君が帰ってくるのなら、私のことなど忘れてしまったままで構わないと、つい願った。
「何?」
ふいに視線を向けられるから、ドキリとして目を背ける。
「なんでもない……」
「そう……」
クリスマスの街は一日限りの煌びやかな装飾に輝いており、いつもの通学路もまるで夢の世界への入り口のようだ。
だからすっかり忘れていた恐怖を、紅君が軽くこめかみに指を当てて立ち止まった瞬間、私はふいに思い出し、背筋がゾッと寒くなった。
「どうしたの紅君! どこか痛む?」
叫んだ私を、紅君は驚いたように見返す。
でもその表情は、見る見るうちに見惚れるほどの笑顔へ変わった。
「頭がちょっと痛んだ気がしたけど、大丈夫……たいしたことない……それよりもその呼び方」
はっとして両手で口を覆っても遅い。
焦った時に、私がうっかり彼を昔の呼び名で呼んでしまったのは、これでもう二度目だ。
(なんて馬鹿なの……! 本当に、自分で自分が嫌になる!)
悔しくて、腹立たしくて、唇を噛みしめて俯く私の耳に、紅君の声が聞こえてくる。
「なんだかしっくりくる……おかしいね……会ったのなんて今日で二回目なのにね……」
思いがけない言葉に顔を上げると、私を見下ろす紅君と目があった。
とても不思議そうに、だがそれにも増して私に答えを求めるかのように、注がれる視線から逃げられない。
(二回目なんかじゃない! 私は子供の頃から、紅君をよく知っている! あの頃だって今だって……私は紅君が大好きで……!)
口に出して言えたらどれほどいいだろう言葉を全て呑みこみ、私は紅君へ頭を下げた。
「ごめんなさい……やっぱり今日は美久ちゃんの家に泊まるから……一緒には帰れない……」
それだけ言い、紅君の返事も待たずに駆けだすのが精一杯だった。
溢れんばかりに浮かんだ涙がなんとか目から零れずに済む――私の限界だった。
紅君は私を覚えていないのに、短いやり取りの中にもまちがいなく流れる穏やかな空気が、昔のままで、懐かしく、胸に痛かった。
本当は私が懸命に紅君を避けていただけで、普通にしていたらもっと早くに会っていただろうということは、とても正直に言えない。
「うん……」
短く返事をする私に、紅君はちらちらとうしろをふり返りながら問いかける。
「お友だち、本当によかったの? 俺、邪魔しちゃったんじゃない?」
あれほど『会いに行こう!』と息巻いていた美久ちゃんは、実際に紅君が私たちの前に現われたら、『あとは二人でごゆっくり!』などと言いながら、若菜ちゃんたちといなくなってしまった。
やはり私を紅君に会わせたかっただけなのだと、彼女の本音を知る。
紅君も、病院で目覚めた時以来三ヶ月ぶりに会った私に、『話をしたかったんだ』と友だちとはあっさりさよならしてしまった。
電車に乗って帰る町も同じな以上、駅までの道もその先も、必然的に二人きりが確定で、私は焦る。
(早く! 早く紅君から離れなきゃ!)
私が傍にいたら彼に災いが起こるという強迫観念を、私はどうしても捨てきれなかった。
「兄さんの彼女ってわけじゃなかったんだね……『僕の勝手な片思いなのに!』って、あとで散々怒られたよ……」
少し笑い混じりの声で、蒼ちゃんの話をする紅君は、倒れる前より昔の紅君に近い気がした。
思わずその横顔を見上げてしまう。
明るくて強くて優しかった子供時代の彼。
あの頃の紅君が帰ってくるのなら、私のことなど忘れてしまったままで構わないと、つい願った。
「何?」
ふいに視線を向けられるから、ドキリとして目を背ける。
「なんでもない……」
「そう……」
クリスマスの街は一日限りの煌びやかな装飾に輝いており、いつもの通学路もまるで夢の世界への入り口のようだ。
だからすっかり忘れていた恐怖を、紅君が軽くこめかみに指を当てて立ち止まった瞬間、私はふいに思い出し、背筋がゾッと寒くなった。
「どうしたの紅君! どこか痛む?」
叫んだ私を、紅君は驚いたように見返す。
でもその表情は、見る見るうちに見惚れるほどの笑顔へ変わった。
「頭がちょっと痛んだ気がしたけど、大丈夫……たいしたことない……それよりもその呼び方」
はっとして両手で口を覆っても遅い。
焦った時に、私がうっかり彼を昔の呼び名で呼んでしまったのは、これでもう二度目だ。
(なんて馬鹿なの……! 本当に、自分で自分が嫌になる!)
悔しくて、腹立たしくて、唇を噛みしめて俯く私の耳に、紅君の声が聞こえてくる。
「なんだかしっくりくる……おかしいね……会ったのなんて今日で二回目なのにね……」
思いがけない言葉に顔を上げると、私を見下ろす紅君と目があった。
とても不思議そうに、だがそれにも増して私に答えを求めるかのように、注がれる視線から逃げられない。
(二回目なんかじゃない! 私は子供の頃から、紅君をよく知っている! あの頃だって今だって……私は紅君が大好きで……!)
口に出して言えたらどれほどいいだろう言葉を全て呑みこみ、私は紅君へ頭を下げた。
「ごめんなさい……やっぱり今日は美久ちゃんの家に泊まるから……一緒には帰れない……」
それだけ言い、紅君の返事も待たずに駆けだすのが精一杯だった。
溢れんばかりに浮かんだ涙がなんとか目から零れずに済む――私の限界だった。
紅君は私を覚えていないのに、短いやり取りの中にもまちがいなく流れる穏やかな空気が、昔のままで、懐かしく、胸に痛かった。
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