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春の章
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そよそよと吹く風が金色に染めた真珠の髪を揺らす。まだ肌寒さは残るが、いい季候だ。ただのスチル撮影だったらどんなに気が楽だったろうか。
今夜の宿を得るにせよ、情報を得るにしろ、誰かを捕まえないと話にならない。それだけを念じて一本道を歩く。
どこにあるかわからない何かを探して、見知らぬ土地をひたすら歩いている。
――なんだそれは、自分探しの旅か。
真珠は内心、そう呟いていた。
傍から見ても恐ろしい表情になっていたのだろう。真珠の表情を追って横を歩いていたカメラマンが、ここの感想は? と尋ねてきた。
自分が無言で歩いているだけでは確かに番組としてもつまらないだろうと、今更真珠は気付く。
「驚くほど、何もない。日本にこんなところが本当にあったのかと驚いた」
強ばった顔をカメラに向けると、苦笑が返ってくる。
元より心にもないことを言うことはできない性質だ。お世辞を言えない真珠の率直な感想こそが求められているのだとわかってはいるが、住民からしたら失礼な物言いなのだろうなと頭の片隅でちらりと思う。
真珠の視線の先で、民家からカートを押した老女が出てくるのが見えた。思わず小走りになると、老女は真珠に気付いてあからさまに警戒したような表情を向けてきた。
「こ、こんにちは」
声が固いのは仕方ないが、何より挨拶だ。
普段なら自分から頭を下げて見知らぬ人に挨拶をすることなど決してないが、不慣れでもそうしなければ何も進まない。まして相手は田舎の老人で、都会の若者にはいい印象を持ってもらえるとは思えない。
「……こんにちは」
案の定、歯切れの悪い挨拶が返ってくる。それでも無視されなかったことに胸を撫で下ろしつつ、真珠は言葉を探しながら口を開いた。
「モデルをしている氷坂真珠といいます。あの、今日は、テレビ番組の収録でここに来たんですが……」
「ひさか……? 知らんねえ」
老女は氷坂という名を口に出しながら、眉をひそめた。
やはりこうだ。年配者には真珠の知名度はやはり低い。今回最大の危惧がまさに的中していることに背筋がひやりとする。下手をすると、話もまともに成立しないまま番組初の野宿になるかもしれない。
4月の野宿は、きっときついだろう。天気が良い分放射冷却で夜は冷えそうだ。スタッフは寝袋くらい準備しているのだろうか。いや、それ以前にそれでは番組として成り立たないから、畑違いではあってもプロ失格ではないのか。
一気にそこまで考えて、真珠は一度頭を振った。悪い方向に考えすぎてはいけない。なにしろ、当たって砕けろも何も、まだ当たってすらいないのだから。
「初めて行く場所で、地元の人の家に一泊させてもらう番組なんですが、今泊めてくれる人を探していて」
「今晩? そりゃ無理よー。いきなり泊めてくれと言われてはいそうですかと言えんわ」
真珠が言い終わるまで待たずに、大袈裟な身振りで老女は拒否するように手を振った。覚悟していたが、いざ言われると思った以上に落ち込むものだ。
「そう、ですよね……」
真珠はがくりと肩を落とし、消え入るような声で呟いた。
自分の醸し出しているという一匹狼オーラが恨めしい。愛想のない若者など、老人受けするわけがないのだ。そしてこの田舎っぷりは、若者が多そうにはとても見えない。
今夜の宿を得るにせよ、情報を得るにしろ、誰かを捕まえないと話にならない。それだけを念じて一本道を歩く。
どこにあるかわからない何かを探して、見知らぬ土地をひたすら歩いている。
――なんだそれは、自分探しの旅か。
真珠は内心、そう呟いていた。
傍から見ても恐ろしい表情になっていたのだろう。真珠の表情を追って横を歩いていたカメラマンが、ここの感想は? と尋ねてきた。
自分が無言で歩いているだけでは確かに番組としてもつまらないだろうと、今更真珠は気付く。
「驚くほど、何もない。日本にこんなところが本当にあったのかと驚いた」
強ばった顔をカメラに向けると、苦笑が返ってくる。
元より心にもないことを言うことはできない性質だ。お世辞を言えない真珠の率直な感想こそが求められているのだとわかってはいるが、住民からしたら失礼な物言いなのだろうなと頭の片隅でちらりと思う。
真珠の視線の先で、民家からカートを押した老女が出てくるのが見えた。思わず小走りになると、老女は真珠に気付いてあからさまに警戒したような表情を向けてきた。
「こ、こんにちは」
声が固いのは仕方ないが、何より挨拶だ。
普段なら自分から頭を下げて見知らぬ人に挨拶をすることなど決してないが、不慣れでもそうしなければ何も進まない。まして相手は田舎の老人で、都会の若者にはいい印象を持ってもらえるとは思えない。
「……こんにちは」
案の定、歯切れの悪い挨拶が返ってくる。それでも無視されなかったことに胸を撫で下ろしつつ、真珠は言葉を探しながら口を開いた。
「モデルをしている氷坂真珠といいます。あの、今日は、テレビ番組の収録でここに来たんですが……」
「ひさか……? 知らんねえ」
老女は氷坂という名を口に出しながら、眉をひそめた。
やはりこうだ。年配者には真珠の知名度はやはり低い。今回最大の危惧がまさに的中していることに背筋がひやりとする。下手をすると、話もまともに成立しないまま番組初の野宿になるかもしれない。
4月の野宿は、きっときついだろう。天気が良い分放射冷却で夜は冷えそうだ。スタッフは寝袋くらい準備しているのだろうか。いや、それ以前にそれでは番組として成り立たないから、畑違いではあってもプロ失格ではないのか。
一気にそこまで考えて、真珠は一度頭を振った。悪い方向に考えすぎてはいけない。なにしろ、当たって砕けろも何も、まだ当たってすらいないのだから。
「初めて行く場所で、地元の人の家に一泊させてもらう番組なんですが、今泊めてくれる人を探していて」
「今晩? そりゃ無理よー。いきなり泊めてくれと言われてはいそうですかと言えんわ」
真珠が言い終わるまで待たずに、大袈裟な身振りで老女は拒否するように手を振った。覚悟していたが、いざ言われると思った以上に落ち込むものだ。
「そう、ですよね……」
真珠はがくりと肩を落とし、消え入るような声で呟いた。
自分の醸し出しているという一匹狼オーラが恨めしい。愛想のない若者など、老人受けするわけがないのだ。そしてこの田舎っぷりは、若者が多そうにはとても見えない。
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